第79話 丸太最強説
・2024/07/06
一部修正
良心に多大なダメージを負いつつも、獣人の子供を庇う立ち位置を確保する。もちろん丸太は手放さない。
謎の信頼感があるよな丸太って……
「ぐうぅ……! 舐めるんじゃない!」
吹っ飛ばした黒ずくめの内1人が空中で姿勢を変え、その場に見えない足場でも作ったかのように留まる。何のスキルだろ?
そういや丸太振り回した時、アイツのいた位置だけ微妙に打点をずらされた感じがしたな。もしかすると、隊長格って奴かも。顔に付けている上半分の仮面も1人だけ柄があるし。
「シッ!」
隊長格(?)の黒ずくめは腰から数本のナイフを手に取って、いっせいに投げつけてきた。
速いうえに正確だ。投げられたナイフは全部で8本。4本が丸太で隠れていない私の手足と顔を狙い、時間差で本命の4本が命を奪おうと迫る。しかもご丁寧に何か塗ってある。
「ま、全部丸わかりだけど」
【ヘルプ】による疑似未来予知で次の行動は分かったからね。落ち着いて目の前に『バリアー』を張れば、投げられたナイフはそれに阻まれる。
カカンッ!と弾かれたナイフを見て一瞬だけ相手は驚愕したけど、すぐに次の行動に移った。
空中に作られた足場っぽいのを蹴り上げ、私の真上まで跳ぶ。正面に長方形の形でバリアーを張ったから、真上からの攻撃なら届く可能性があると判断したみたいだ。やっぱ戦い慣れてる。どっかの非合法組織かな?
どっちにしろ、向かってくるなら容赦しない。
「必殺ぅ! 丸太シュート!!」
「はあぁ!? ――ごはっ!」
真上に来た瞬間を狙って、思いっきり丸太をぶん投げる。
直前にナイフを投げていたけど、全部当たる瞬間の丸太に突き刺さっただけで終わった。
咄嗟にガードしていたが、骨が折れたような音が鳴ってたし重傷だろう。そのまま地面に落ちていった。ざまあ!
「……オマエ、なんで」
振り返ると、獣人の子供が本気で理解できないと言いたげな目で私を見ている。助けられたことが信じられないように。
「え? 逆に何で助けないと思うのさ?」
ベルちゃんの時もステラに言ったけど、助けること・余計なお節介をすることを前提として自分がどう行動するかが問題になってくるんだよ。小さい子を助けるなら尚更。むしろ何でみんな疑問に思うのかこっちが聞きたい。
「ウソだろ? 隊長が……」
「クソ! 獣人のガキの次は白い怪力女かよ! 何でこんなにイレギュラーが起こるんだ!」
あ、最初にぶっ飛ばした他4人が起き上がった。
つーか、誰が怪力女じゃ。次のターゲットはキサマで決定だ。
「このまま好きにされて溜まるか!」
黒ずくめの1人がボウガン型の魔道具に新しい矢を装填してこっちに向ける。何かされる前にこっちから――
「『レイ』!」
――仕掛ける前に、一筋の光線がボウガンを破壊した。
この攻撃はステラだな。
「アナタたち、この森で何をなさっているのですか!?」
遅れてやって来たステラは魔導書を構え、戦闘態勢を取る。
その顔はたまに私に対して怒った時のような顔ではなく、緊張感と敵意を含んだ顔つきだった。
周りにいる聖獣たちの惨状を瞬時に理解したんだろう。すぐ治療したいのを押さえて、黒ずくめたちに変な行動をさせないと牽制している。
「増援を確認。任務に支障あり。撤退を提案」
「……しかたない。覚えてろよガキ共!」
――ボウンッ!
立っている4人が懐から取り出した玉を一斉に地面に叩きつける。瞬間、辺り一面に大量の煙が広がった。
……忍者の使う煙幕みたいだな。いや、あれより煙の量が異常に多い気がする。魔道具か、異世界特有の材料を使ったものかもしれん。
【探知】を使うとどんどん距離が離れていくのが分かる。
「このっ……待て!」
「はいストップ」
後ろにいた獣人の子供が飛び出す。
アイツらが逃げるのを感じ取ったんだろうけど、その体でどうするって話だ。なので尻尾を掴んで動きを止める。
「――ギャン!? ハナせ! アイツら、逃がさない!」
「私だって本当なら逃がしたくないさ。でもね? この状況での深追いは厳禁だよ。私も、キミも、万全じゃないんだよ」
【探知】で居場所は分かるし、煙は【風系魔法】で晴らせばいい。だけど、今の状態で追いかけるのは得策とは言えない。
まず森の中の戦闘にアイツらが慣れていることが問題になる。
さっきの戦闘では不意打ちが決まったから上手くいった。最初から連携されて殺しに来ていたら苦戦したかもしれない。
遮蔽物の多い森で、身軽な斥候タイプ5人を相手するには分が悪い。
私はオールラウンダーの魔法使いタイプだからね。火力に任せたゴリ押しならいけるかもしれないけど、さすがに短時間の内にまた森を破壊するのは躊躇う。
森林破壊、アカン、絶対。
で、次が私自身の問題。
正直、疲れが酷くてこれ以上戦闘したくない。
【スキル:激怒】による疲れが回復薬を飲んでも治らないから、横になりたくてしょうがないんよ。本当ならベッド取り出して爆睡したいぐらい。
しかも駄馬共に後先考えず魔法を撃ちまくったから、魔力が半分を切っている。
この状態での慣れない戦闘は控えるべきだ。
何よりも1番の問題は……
「ハなせぇえええええええええええええっ!!」
今も追いかけようとジタバタしているこの子なんだよ。
私のせいで無駄な体力使ったうえにケガまでさせちゃったのに、まだアイツらを追いかけようとしている。
この獣人の子供がどこの誰かは知らないけど、無茶しているのは分かる。何がそこまでこの子を駆り立てるのかは聞いてみないことには何とも言えんけど、私と同じで万全の状態じゃないこの子を行かせたらどうなるか……
最悪、追いかけた先で罠を張られて、今度こそ殺されてしまうかもしれない。それだけは絶対にダメだ。
とりあえず先にやるべきことは、
「ステラ。今のうちに聖獣たちの治療お願い」
「はい!」
私がこの子を押さえている間、ステラに聖獣の治療を任せる。
目を離したらどこ行くのか分かったもんじゃないしね。
「……薬の材料を取りに来ただけだったのにな~」
ただ平穏に旅行したいだけなのに、どうしてこうも行く先々でトラブルと巡り会ってしまうんだろ?
不可侵の領域である聖獣の森、謎の獣人の子供、聖獣を襲った黒ずくめたち。
王国や聖国に続き、厄介事の予感がした。




