第76話 ブチキレ☆魔法少女ユキナちゃん
後半、下品な表現があります。
苦手な人は注意を。
・2024/07/03
一部修正
聖獣ユニコーン。
聖獣の名に相応しい雰囲気を醸し出すそれが約十数匹の群れでおり、湖の水を飲んでいる。
画家がこの場にいれば、さぞ良い絵にすることだろう。
ちなみに、2大ファンタジー馬のもう1頭はペガサスだ。残念ながらこの世界には存在しないそうだが。
そんなユニコーンの角が目的の物になる。
生物から得られる高価な薬の材料としてはポピュラーなんだと。基本は粉状にして少し混ぜるだけだから、1本で数個分の薬の材料として使えるそうだ。
もちろん無理矢理引っこ抜くとか恐ろしいことはしない。
あの角って、ユニコーン自身が取ろうと思えば簡単に取れてしまうモノらしい。こう、首を少し振るだけで根元からポロッと落ちるんだとか。
……昔見た動物園の鹿みたいだな。
あれは子供ながらにホンマ驚いた。何匹も鹿がいるのに見たかんじメスばかりで、立派な角を持っているオスが1匹だけしかいないから「鹿のハーレムかな?」って思ってたら、オスの角がポロッと落ちたんだもん。
目が飛び出るかと思った。開いた口が塞がらなかったよ。
首根っこ掴んで近くから連れてきた飼育員さんに「角が! アレ! 鹿の角が!!」って大混乱のまま詰め寄ったのは今となってはいい思い出だ。
優しい飼育員さんに、「時期によって角は生え替わるんだよ」って教えて貰わなかったら、いつまでも飼育員さんの襟掴んで揺らしてたな。子供の頃の私からしたら、大事件なのに冷静な飼育員さんが鹿の治療をしようともしないド畜生に思えたんだから。
でだ。ユニコーンの角は1ヶ月ちょっとで本来の大きさまで生えてくるのだから驚き。学会では聖獣の森にいることで治癒力が高まっているのではないかと考えられている。
問題なのは、その角を貰う方法。
ある条件を満たした若い女性が、ユニコーンの前に跪いて真摯に“角を譲ってくれ“とお願いするのだ。女性によって交渉時間も変わってくるそうだが、交渉が成立すると顔をすり寄せてきて角を落とすのだそう。
その条件とは……清い体であること。
身も蓋も無い言い方したら、異性とエロいことをしたことがない女性にしか角をくれない。1度でも一線を越えてしまった女性は見向きもされず、場合によっては強靱な脚で蹴られてしまうのだとか。
余談だが、昔どこかの研究者が「じゃあビッチだったらどうなるんだろ?」と清らかさ0%の女性に依頼してユニコーンに近づけたところ、群れ全体が激怒して角で突き殺そうとしたらしい。
それからビッチな女は聖獣の森に入ってはいけないと国際法で決められたという、ウソのようで本当の話。
ちなみにその研究者、後に清い男性だとどうなるのかと何人かに依頼し、大マジメに試してもらったそうだ。
結果、ものすごく哀れむような視線を向けられただけで、男性たちの心に無意味な傷が付いて終わった。
……その研究者アホだろ。
そんなユニコーンの角の入手に手を上げたのがステラだった。ただ着いてくるだけでは意味ないと、自分にも協力させて欲しいと。
いや、いいんだけどね?
一応は私も清い体だけど、真摯にお願いできるかと聞かれたら答えに詰まるわけでして。身も心も素直なステラがやった方が良さそうな気もするし。
「もし少しでも角で突いてきそうだと思ったら、全力でその場から離れるんだよ? すぐ私が襲った個体を半殺しにするから」
「がんばります!」
そこで見ていてください、とステラは言ってゆっくりユニコーンの1体に近づいていく。その様子を松風と見守る私。
(うーん……ステラがいるだけで、より絵になるなー)
私みたいな何で聖女になったのか世界七不思議に組み込まれるような女と違い、まさしく絵に描いたような聖女がステラである。
そんなステラと聖獣であるユニコーンの組み合わせ。
絵が売り出されれば買い手が殺到すること間違いなしだ。
「ヒヒィン……?」
考え事してる間にユニコーン側もステラに気付いたようだ。ゆっくりと近づいていることもあって、警戒しつつも様子見って感じか?
ある程度近くに来ると、その場でステラはしゃがむ。そして祈りを捧げるかのごとく手を組み、ユニコーンを見上げた。
「ユニコーン様。どうかお話を聞いてくださいませ」
「ブルル?」
「私たちの知り合いにベルさんという子供がいます。そのお母様がご病気に掛かりました。治すにはお薬が必要になりますが、その薬が無いのです。ベルさんは……お母様のことを心配して顔を暗くされていました。ユキナ様が保険を掛けましたが、やはり心配なのです。だからこそ私たちはこの森へ薬の材料を探しに参りました。その1つがアナタ様の持つその角なのでございます。恥知らずだと、厚かましいと思われることでしょう。本来これは私たち人間の問題なのですから。ですがどうか! その角をお譲りくださいませ。1本だけでいいのです。私たちにどうか、ベルさんの笑顔を取り戻す機会をくださいませ。お願いいたします」
「ブルッ……」
……すっげぇなぁ、ステラ。
私だったら、あの半分も言葉も出ねぇ。断言できる。涙出るんじゃないかってぐらい目もウルウルじゃん。私なら目薬使わないと無理だ。
あれを素でやっているんだから恐ろしい……
――っと、驚いている場合じゃねえ。
肝心のユニコーンの反応やいかに?
「………………」
何かを探るように、確かめるように、ジッとステラを見つめ続けるユニコーン。
どれくらい経った頃か。不意に頭を下げて、
――ポロッ
ステラの足下に自身の角を落とした。
(おおっ!? 本当に鹿みたくポロッと落ちた!)
角のあった場所は特に血も滲んでいない。見た感じ痛みもなさそうだ。
「あ……ありがとうございます! ユニコーン様!」
「ブルルッ!」
ステラの感謝の気持ちが伝わったのか、嬉しそうな目で顔を寄せてくるユニコーン。そのまま優しい手つきで撫でてもらっている。
「ユキナ様! やりましたよ! この子すごく毛がサラサラしているんですよ。ユキナ様も触ってはいかがですか!」
まるで自分のことのように嬉しそうに笑うステラ。
誘われたしあとで触らせてもらおうと、ステラの少し後ろでスタんばる。
「近くで見ると大きいなぁ」
「ええ。さすが聖獣ユニコーンですね」
「いやー絵になるわー。カメラあったら何枚でも撮りたいよ。角も無事手に入ったし、もう少しこの光景を眺めたら帰r――松風?」
「ブル……」
目の前の光景にほんわかしていると、横の松風に違和感が。
何だろ? こう、表情筋(?)が引きつってるような……少しでもステラのいる場所――というより、あのユニコーンから離れようとしているみたいな……。え、何よ? 何をそんなに目で訴えてくるの? ん~~~? “早くステラを助けろ”……って感じか? どゆこと?
改めてステラとユニコーンの戯れをじっくり見る。
端から見ると、美しい少女が聖獣の名に相応しい馬を撫でているツーショットにしか見えん。撫でられているユニコーンが羨ましいのか、近くにいた他のユニコーンもステラに鼻息を荒くして近づいて――んんん?
「あれ? 様子おかしくない?」
他のユニコーンたちが「ブルル」やら「ヒヒンッ」やら鳴いて、撫でられているユニコーンに文句言ってる? ステラは「わわっ!? ケ、ケンカはダメですよ。ね?」と可愛らしくお願いしており、他の個体も撫でてもらいそうに顔を近づけている――のだけど、
「本当にそうか?」
鼻息が荒いし、少し前まで感じていた神聖さみたいのが全く感じられなくなっている。むしろ不快感が増した気がする。
どうも嫌な予感がしてたまらない。ここにきて【直感】が反応しだす。根本的に大事なことを見落としていると。
「うーん……ねえ、私は何をすべきだと思う?」
困った時の【ヘルプ】さん。早急の解決を求めます。
『〈今、雪菜がすべきだと考えられる1番のこと〉……今すぐ【スキル:聖獣言語理解】を取得するべし。さもなくば後悔する。取得しなくとも後悔するだろうが、した方が結果としてまだマシだと思われる』
……おい、【ヘルプ】に警告されたぞ。私が。
しかし【聖獣言語理解】? そんなスキルもあるのか。
ようは聖獣が話す言葉が理解できるようになるスキルなんだろうけど、取得してもしなくても後悔するって言葉が不穏すぎる。何なのその“行きも地獄。帰りも地獄”みたいのは。私が何をしたっていうんだ。
ま、取得するけどね。
どっちも地獄だって言うなら、同じ後悔するにしてもマシだと思える方を選ぶ。
「女は度胸だ! 張る程の胸はないけど!」
スキルリストオープン! え~っと、あったあった。随分下にスクロールしたらあった。……5SPも消費するのか。言語理解系スキルだから覚悟したけど、今ぐらいしか使う機会ないの考えると地味に痛い出費だ。
「OKを押して、はい取得と」
これでユニコーンの言葉も理解できるはず。
さあ、さっきからキミたちは何を喋ってるんだい?
ユニコーンたちの鳴き声を一字一句聞き逃すものかと、神経を集中させる。
結果として、ヘルプのおっしゃる通りだったと言っておこう。
確かに【スキル:聖獣言語理解】を取得しなければ、私は知らず知らずのうちに後悔することになった。
でもね?
取得しても後悔することになるってのも、同時に理解してね?
何が言いたいかっつーと、
……さすがにこれは酷いわ。
『クンカクンカ! スーハースーハー! この人間のメスの匂いたまんねー! やっぱ若い処女はこう、フルーティー感があるよなー!』
『ズリーぞテメェ! オレらにも嗅がせろよな!』
『グフフ、ここ十数年では1番の逸材と見ましたぞ。お嬢さん、ちょっと足開いてくれません? 直接嗅ぎますので』
……
…………
………………oh。
『バッカかオマエ。言い方ってもんがあるだろが』
『別にいいだろ? そもそもオレらの言葉なんか分からないんだし。よく知らねえけど、人間たちはオレらにとっちゃ邪魔くせえ角あげるだけで喜ぶんだ。そして、オレらは角を対価に麗しき処女たちと戯れる事ができる。Winwinの関係だ』
『いつもなら早い者勝ちだが、この娘っ子はたまらねえよ。な、なあ? 匂い嗅いだり擦り寄ったりするだけじゃなくてさ、ペロペロとか……できねえかな? どうせコイツらオレらの言葉分からねえんだし、無知な動物装ってさ、こう、合法的によ。布の中に顔突っ込んだり……』
『『『『『オマエ天才か!?』』』』』
『だったらよ? 集団で行かねえか? オレらの舌でペロペロされて、よだれまみれで息絶えだえな処女……見たくね?』
『『『『『オマエ神か!?』』』』』
「ユキナ様、ユニコーン様たちがようやく仲良くなりました!」
「………………」
……【ヘルプ】ぅ。
『〈聖獣ユニコーン〉……聖獣の森に住む、馬型の聖獣。薬の材料にもなる1本角が特徴。人型生物の処女には好意的で、非処女には殺意をもつ。人間からは神聖視されているが、実際は異性との経験がない女性の匂いを好む変態性と、下品な思考回路を種族全体で持つ。その性格から他の聖獣全てに嫌われている』
「………………」
「ユ、ユキナ様?」
そっと、ステラの肩を掴んで駄馬共から引き離す。
きっと、今の私は能面みたいになってるんだろうなぁ……
自分からあらゆる感情が抜け落ちるのが分かる。
もう考えるのも辛い。今すぐここから離れたい。街に戻って、ステラとキャハハウフフしながら今日という日を忘れたい。
この真実は私の胸だけにしまっておこう。わざわざ言うこともあるまいよ。ドリームブレイカーの被害者は私だけで十分だ。
『あれ? 処女が1人増えたぞ?』
『お!? 若い娘か!?』
駄馬が私のこともターゲットにしてきたか。経験ないからね私も。下ネタ満載トークが始まる前に退散するとしま――
『う~ん、けど………………ないな』
『ああ。なぜか食指が動かねえ』
――は?
『何でだろうなー? 若けぇし人間の中じゃ顔立ちも整っていると思うんだが……全っ然興味がわかねえ』
『匂いもオレの勘も処女だと言っているんだがな……』
『オレらには理解できねぇだけで、人間の中じゃ女としての魅力がないんじゃねーのか? ぷぷっ、オレらも興味が出ないとか女として終わってるな!』
『『『『『ギャハハハハ! 言えてる!!』』』』』
――ブチッ!!
『〈ヘルプよりお知らせ〉……熟練度が一定に達しました。【スキル:怒り】を習得しました。――【怒り】が【スキル:激怒】に進化しました』
「っ!? ユ、ユユユユユユキナ、しゃまぁ……?」
『〈ヘルプよりお知らせ〉……12SPを使用して【ユニークスキル:マルチプル】を取得しました』
「 …… お い 。 駄 馬 共 」
【スキル:激怒】、発動。マルチプル展開。展開数4。
『ん? 何だ、この、寒気は……?』
『なあ、あの女、怒りのオーラみたいの出てるんですけど?』
『あれ? 何かこれ、ヤバくね?』
標準、駄馬の群れとその周辺。
「 懺 悔 の 準 備 は で き た か ? 」
瞬間、様々な魔法が駄馬の群れを襲い、爆発の音鳴り響いた。
!?( Д ) ゜ ゜ ← ステラ
[ここまでの消費SP]
・マップ(1SP)
・聖獣言語理解(5SP)
・マルチプル(12SP)
〈所持SP:24〉




