決意
「さて、私が一緒にいるからには、相応の依頼を受けるわよ」
「相応の依頼って何だよ。確かに、ローゼなら大抵の依頼は余裕だろうが、俺としては安全に目立たずやっていきたいんだが……」
「何言ってんのよ。強くなったんでしょ? それなら、もっと強くなるためにも戦闘経験は必要よ。取りあえず、魔物の討伐系ね」
「……まあ、仕方ないか……」
魔物とは、神々の生み出した人類をいたぶるためだけの生体兵器だ。
生殖器はなく、人類を食糧としてしか見ておらず、魔物は人間を見つけ次第、食い殺してきた。まあ、俺たちも魔物の肉やらを食べてるし、お互いさまでもあるか。
繁殖方法も特殊で、ヤツ等は湧き出てくる特殊な次元の狭間が存在し、その次元の狭間を人々は【魔穴】と呼び、世界中に存在する魔穴をどうにかして破壊することを今でも続けている。
……危険は冒したくないが、それでもローゼの言うことはもっともで、大切な人を守る力が欲しいなら、今は戦闘経験を少しでも多く積んでおく必要がある。
ソフィアさんみたいなレベルが、世界中にたくさんいるわけだからな……。
「そうと決まれば、早速団を立ち上げましょう。レオスが団長で、私が副団長ね」
「は!? ち、ちょっと待ってくれ! いくらなんでもそれは早すぎるだろう! 第一、ローゼがよくても、たった二人しかいない傭兵団なんて聞いたことがない!」
「関係ないわよ、そんなこと。そもそも、私一人はそこらへんの傭兵たち百人が束になっても敵わないわけだし、実質百人以上みたいなもんよ」
「暴論すぎるだろ……」
実際、ローゼなら百人どころか、五百人分くらいの実力はあるだろう。
それでも、数の暴力というのは質をも上回る。
「これは決定事項よ。異論は認めないわ」
「仮にも俺が団長になるなら、異論くらい認めろよ……」
早くも先行きが不安でしかない。
「男なんだから、覚悟を決めなさい。アンタは、一体何のために強くなったのよ。こうして、傭兵都市にきてるってことは、戦う意思があるからよね? それなら、アンタが守るための……大切な居場所はあった方がいいでしょ? 私たちが、あの傭兵団にいたころのように」
「……」
確かに、いずれ俺は自分の団を持つつもりでいた。
俺には、戦闘しかない。
戦場で育ってきた俺には、他のことで生きていくビジョンを見る事が出来ないのだ。
だからこそ、自分で団を立ち上げ、その団員たちだけは絶対に護りぬきたい。
そう、思っていたのだ。
「……なんか流されてるようにも感じるが、ローゼの言うことにも一理あるからな」
「でしょう? じゃあ、団の名前も考えちゃいましょうよ」
「はぁ……分かったよ。でも……本当にいいのか? ローゼなら、もっと相応しい団があると思うんだが……」
「相応しいかどうかは私が決めるわ。それに……これ以上……私に心配かけさせるんじゃないわよ……」
「ローゼ……」
「か、勘違いしないでよね!? 別に深い意味とかがあるわけじゃないんだからっ!」
「? あ、ああ」
何にせよ、ローゼが俺のことをこんなにも気にかけてくれていたことが嬉しい。
……ローゼの期待に、添えるように頑張らないとな。
「とはいっても、いきなり団の名前を決めろって言われてもな……団を立ち上げるのはいいが、名前とか決めて、正式に旗揚げするのはもう少し待ってもらってもいいか?」
「それは……別にいいわよ。私も、少し焦りすぎてたかも」
「ん、ありがとう」
「じゃあ、アンタの今いる宿屋を教えなさい」
「……ん?」
何が『じゃあ』なのだろう。何の脈絡もなさすぎる。
「これから行動を共にするわけでしょ? なら、アンタと同じ宿屋に泊まるのが効率がいいじゃない」
「いや、そうかもしれないが、それは面倒――――」
「い・い・わ・よ・ね?」
「…………はい」
結局、俺はローゼの勢いに押され、返事をしてしまった。
別に同じ宿屋に来るのはどうでもいいが、なんでそんな面倒なことを……。
「あ、そうそう。二人部屋が空いてたら、アンタも一緒にそこに移りなさいよ」
「は!? なぜ!?」
「そっちの方が安いでしょう?」
「……」
これは……確かに安いからと喜ぶべきなのか、男として認識されてるのか悲しむべきなのか……。
複雑な気持ちでローゼを見ると、ローゼの耳が赤くなっていることに気付く。
……よかった。一応、男として意識はしてるみたいだな。だからなんだという話だが。
「……何よ」
「いや、別に?」
「なんか腹立つわね……まあいいわ。まだ時間もあるし、準備をしたら早速魔物の討伐依頼を受けましょう」
「ああ、そうだな」
そういうと、俺とローゼは準備をするために酒場を出た。
それにしても、まさかローゼともう一度こうして戦う事が出来るとはな……。
素性をよく知らないため、紋章から察するに貴族の娘だと思うんだが、なんでこんな世界にいるのか分からない。
それでも、俺の大切な仲間であることに変わりはなく、俺なんかのことを信じて待っていてくれたローゼのためにも、もっと強くならなきゃな。
俺は改めて決意するのだった。