再会
ドーガの男として大切な部分を潰し、しばらくしてから、警備隊の人間たちが駆けつけてきた。
ぱっと見ただけで、ドーガより強いのが簡単に分かる。
そんな中で、一際ヤバイ雰囲気を纏った女が前に出た。
その女は、右目に眼帯をしており、荒々しく伸ばされた金髪に、青色の鋭い瞳で、他の隊員とは違う、豪華な警備隊の制服である赤と黒の軍服らしきものに身を包み、マントを羽織っていた。
俺と同い年か、少し上位の年齢に見え、すごい美人なはずなのだが、あまりにも圧倒的な気配を放っているせいか、そう言った印象を全く感じない。
……冗談抜きでヤバい奴が来たな。強さの底が見えねぇ……。
親父は、いつも飄々としていたせいか、強者としての雰囲気をまったく感じられなかったが、コイツは真逆だ。隠す気もないらしい。
「警備隊だ。通報があったので、駆け付けたのだが……」
「すみません、ありがとうございます。引き取ってもらいたいのはそこで悶絶しているヤツなのですが、詳しい事情はあそこにいる店主から訊いてください」
「なるほど、了解した。拘束しろ」
まるで男のような口調で、女は部下たちに命令する。
すると、部下たちはまるで軍隊のように統率された動きで、前に出た女の指示に従い、ドーガは拘束された。
その間に、エリオさんから話を聴いた女は、俺に再び話しかけてきた。
「事情を把握した。だが、この男による被害が少なかったこともあり、賠償金を支払った後、恐らく今日中に釈放されることになるだろう」
「そうなんですか?」
「ああ。我々も、基本的に傷害沙汰にならない限りは、厳重な取り締まりができないのだ。それが、この街の【法】だ」
「……」
うーん……エリオさんが危なかったのに、結局は被害はお店の扉だけということもあって、長期間の拘束はできないようだ。……それを壊したのは俺だけど、まあ黙ってよう。
他の国なら信じられないような対応だが、この都市ではそれも当たり前になってしまう。
こういった事態に対応するためにも、用心棒として、傭兵を雇うのが一般的なのだ。
後で聞いた話だが、エリオさんも用心棒自体は雇っているようなのだが、今日はたまたま荷物の護衛として、今はない運搬光力車の方について行ってしまっているらしい。本当に俺は、今日は厄日みたいだな。
「何はともあれ、君のおかげで店主は助かった。礼を言う」
「いえ、俺も依頼主だったので、これくらいは……」
俺がそう言うと、なぜかリーダー格の女は、その鋭い視線で俺を見つめてきた。
「あの……何か?」
「ん? ああ、すまない。名乗るのが遅くなったが、私の名前はソフィア・ラピス。警備隊の分隊長を任されている」
マジかよ。
目の前にいる女……ソフィアさんは、俺の本能ともいえる部分が、全力で戦うことを拒否してくるような相手なのに、それでも分隊長クラスだという。これ、大隊長とか幹部、ましてや総司令官とかどんなレベルだよ……。
それに、女で分隊長まで上り詰めていることがヤバイ。
警備隊も、傭兵と同じで荒くれ者を相手にするだけあって、相当危険な仕事だ。
いったい、どれだけ強いのやら……。
「えっと……俺はレオス・カルディアです」
「ん? カルディア? どこかで聞いたような……」
ソフィアさんは、俺の名前を聞いて、少し考える仕草をした。
「……私の気のせい……か……? ……まあいい。とにかく、ご苦労であった。また何かあれば、遠慮なく頼ってくれ」
「はい、ありがとうございました」
ソフィアさんに礼を言うと、ソフィアさんはドーガを連れて行った。
「ふぅ……」
「レオス君! ありがとう! 君のおかげで助かったよ!」
「いえ、仕事ですので」
「おっと、そう言えば、荷物も運んでくれたんだったね。今書類を持ってくるから、待っててね」
エリオさんは、書類をとりに店へと戻って行った。
その姿を見送っているときだった。
「れ、レオス……?」
「え?」
不意に、名前を呼ばれたため、振り向くと――――そこには、ドーガと言い争いをしていた女が、呆然とした様子で俺を見ていた。
「?」
初めて傭兵協会で見た時は、遠くて顔もハッキリと見なかったが……こうしてみると、女の容姿の優れ具合が分かる。
勝気な目と、美少女とも美女ともとれる、端正な顔立ち。先ほどのソフィアさんといい勝負だろう。
なるほど、ドーガが誘いたくなるのも分かるかもしれない。
だが……何だ? この違和感。どこかで見たことがあるような――――。
女の紋章を見た時と同じように、引っ掛かりを覚えながら首を傾げていると、女は俺に近づいてきて――――。
「このバカ……! 連絡もしないで……どこに行ってたのよ……!」
「!?」
突然、女は俺に抱き付いてきた。
さっきまでドーガの様子を眺めていた周囲の人間も、警備隊の登場によっていなくなったとはいえ、完全にいなくなったわけじゃない。
それに、俺にはこの女のことが思い出せないでいた。
「ち、ちょっと待ってくれ。アンタ、俺を誰かと勘違いしてないか!?」
「え? アンタ、何言って――――」
女はそこまで言いかけて、何かに気付くと、次第に表情を険しくしていく。
「……レオス。まさかとは思うけど、私のこと、知らないなんて言うつもりじゃないわよね……?」
「は? いや、知らないも何も、今日初めて会ったんじゃ――――」
俺は、言葉の続きを言う事が出来なかった。
なぜなら、女が顔を伏せ、体を震わせたかと思うと、次の瞬間、金炎が俺を包み込んだからだ。
「レオスの……バカあああああああああああああっ!」
「なっ!? この炎……まさか!?」
金炎。
この炎は、知っている。いや、知らないはずがない。
それに、金炎は、俺を燃やし尽くさず、優しく、まるで叱るようにちょっとした熱さしか感じられなかった。
そう、この炎を使うのは――――。
「ローゼ……か……?」
「最初から気付きなさいよ……このバカっ!」
金炎を纏う女――――ローゼは、涙をこらえながらも、嬉しそうに笑い、俺を抱く力を強めた。
【不死鳥】のローゼ・フレイオス。
――――こうして再会したのは、かつて俺と同じく、親父の傭兵団にいた、いわゆる幼馴染みだった。