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傭兵都市ヴァングランゼ

 あれから六年の年月が経ち、俺は十六になって、成人を迎えた。

 親父が死んでから、俺はがむしゃらに力を求めた。

 親父が俺の背中に刻んでくれた紋章だが、俺は元々紋章を使えたわけじゃなかったので、紋力レムを体内に持っておらず、結局使うこともできないでいる。

 ……親父が俺に残してくれたものなのに、使えないことがたまらなく悔しい。

 そんな気持ちを振り払うように、親父に教えられた戦闘技術と、新たに師事した師匠の剣術をひたすらに磨き続け、そして今日、俺は親父と同じ道を歩むかのように、【傭兵都市ヴァングランゼ】に足を踏み入れた。

 もちろん、親父は俺が傭兵になろうがならまいが、気にしないだろう。

 だが、俺には戦うことでしか存在を証明できる手段がなかった。

 その手段ですら、紋章を持たない時点で欠陥だらけだというのに……。


「ここが……傭兵都市……」


 傭兵とは、別に戦争をするだけの存在ではない。そんなモノは、巨大な傭兵団などが引き受ける依頼だ。

 力のない末端や、フリーの傭兵たちは、魔物を討伐したり、一般人の雑用を手伝ったりなど、地味な仕事で生計を立てている。

 この傭兵都市では、そんな傭兵になるためのサポートを受ける事が出来るのだ。

 親父のようなすごい傭兵団は、この傭兵都市には所属しておらず、本当に新米の傭兵たちが仲間を見つけたり、自分の傭兵団を立ち上げるための足掛かりにしたりしているのだ。

 傭兵都市は、誰が治めているとかあるわけではないが、一応、世界規模で有名な傭兵団の団長たちが協力して運営しているらしい。

 そもそも巨大な傭兵団は、ある意味で国家と同じであり、様々な国の法を無視して活動したりしている。

 それだけの【力】を持っているからこそ、うかつに国も手が出せないのだ。


「さすがにそんな連中が運営してるだけあって、バカでけぇな……」


 傭兵都市を囲う城壁は、そこら辺の弱小国家の城壁を優に上回る頑丈さと大きさを備えており、どこの国にも属していないにもかかわらず、その発展ぶりがうかがえる。

 巨大な門を抜けると、その先には賑やかな街並みが目に飛び込んできた。


「いらっしゃい! 東の島国から、珍しい武器が入ったよ!」

「美味い飯が食いたきゃ、うちに来な!」

「安いよ、安いよー! 弾薬が今なら10箱で一万ガレだよ!」


 ただ、普通の街並みとは違い、傭兵都市と言うだけあって、露店で商売している人たちの売り物は、武器等の物騒なモノが多かった。……10箱で一万ガレは安いな……後で買うか……。

 時々興味深い露店を多く見かけるが、今はそれよりも【傭兵協会】に登録して、資金を調達したい。

 傭兵協会って言うのも、新人の傭兵たちが生活を安定させやすいように依頼などを斡旋してくれる施設で、入会費や退会費などはないので、金を稼ぐには何かと都合がいいのだ。

 しばらく大通りを歩いていると、目の前に一際目立つ建物が現れた。

 看板には、【傭兵協会】と書かれてある。

 最近じゃフォトン式のドアが多い中、傭兵協会の入り口は、俺のちょうど胸あたりから腰までのスイングドアが採用されていた。……無駄に味のある建物だな。嫌いじゃねぇけど。

 扉を開け、中に入ると、傭兵というイメージからどこか粗野で汚いのかと思っていたのだが、予想以上にキレイで、室内には酒場も設置されているようだった。

 俺が入ったことで、何人かが値踏みをするような視線を向けてくるが、それらを無視して受付に移動する。

 受付に行くと、恐らく指定の制服であろうモノに身を包んだ女性が、書類と睨めっこしていた。


「すまん、ちょっといいか?」

「へ? うひゃあっ!?」


 声をかけると、受付嬢は俺の顔を見て、なぜか奇声を上げられた。


「す、すみません! えっと……その……何かご用でしょうか?」


 受付嬢は、頬を赤く染めながらそう訊いてくる。

 それに対し、俺は一つため息を吐くと、用件を伝えた。


「登録をしたい。手続きをお願いしてもいいか?」

「は、はい! 畏まりました!」


 やけに気合の入った返事のあと、受付嬢は書類を持ってきた。


「こ、こちらの用紙に、必要事項を記入してください!」

「すべて記入しないとダメか?」

「いえ、最低名前さえ記入していただければ大丈夫です! ただ、その場合、こちら側も情報を把握できないので、依頼などを積極的に斡旋することは出来ませんが……」

「そうか、ありがとう」

「ひゃ、ひゃい!」


 受付嬢は、なぜか俺と会話することにやたらと緊張しているようだった、

 俺は年齢と名前、そして使用武器の欄にフォトン式剣銃と記入し、他は空欄のまま提出した。


「これでいいか?」

「はい! えっと……レオス様、ですね」

「ああ」

「申し遅れました、私この傭兵協会の受付をしてますミルフィーナと申します! ただ今から、レオス様の傭兵カードを発行いたしますので、その間詳しい説明などをさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「頼む」


 説明を受けると、傭兵カードを受け取った時点で、先ほどは気付かなかったが、入り口付近にある掲示板の依頼を受ける事が出来るらしい。

 依頼は、基本的にどの依頼も受ける事が出来るが、身の丈に合わない依頼を受け、それで死んだとしても責任は取らない……ということらしい。

 まあ、自分の実力を把握できないようじゃ、戦場に出た時なんかは真っ先に死ぬだろうし、当たり前と言えば当たり前か。

 あと、登録して依頼を受けないというのも別にありなようで、それこそ新しい傭兵団の旗揚げの足掛かりとして利用するのも全然OKだそうだ。それによる罰則金もない。

 ……本当に至れり尽くせりだな。ある意味で商売敵を量産しているようなもんだが……。

 まあ、この都市を運営している傭兵団は、そんな小さい傭兵団なんぞ歯牙にもかけないだろうからな。

 一通りの説明を受けると、ちょうど傭兵カードも発行できたようで、ミルフィーナからそれを受け取る。


「こちらが、傭兵カードとなっています。この都市内部であれば、宿屋などで提示すれば、いくらか割引されるなどのサービスもあるそうですよ」

「なるほど……一つ訊きたいんだが、おススメの宿屋はあるだろうか?」

「そうですね……それなら、【ヤドリギ】というホテルはいかがでしょうか? 少々値段は高いのですが、防犯対策も施されていますし、ホテルのオーナーさんもいい人ですよ」

「分かった、ならそこに行ってみるとしよう。いろいろとありがとう、ミルフィーナ」

「い、いえ! こちらこそ! レオス様の活躍を、お祈りしております……」


 少し微笑みを浮かべ礼を言うと、ミルフィーナは顔を真っ赤にして俯いた。

 その様子に首を傾げながら、昼食をとっていなかったこともあり、せっかくなので協会内の酒場に寄った。

 カウンター席に座り、メニューに目を通していると――――。


「テメェ、俺様が誰か分かってんのか!?」

「アンタなんか知らないわよ。どうせザコでしょ?」


 何やら言い争う声が。

 ……傭兵だし仕方ないんだろうが、ゆっくりと食事がしたかった。

 いきなり食事をする場所を間違えたかな? と、思わずにはいられなかった。

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