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軍王

 ――――軍事大国レギリオン。

 ここでは、国民一人一人が末端の傭兵レベルの戦闘力を有しており、その軍事力から国を挙げての傭兵紛いの政策も行っていた。

 そんなレギリオンの末端の村を、とある傭兵崩れの盗賊集団が襲撃した。

 レギリオンでは、どんなに辺境の地でも、戦闘車が必ず配備されており、有事の際には村人がそれらを操って戦うのだが、いくら戦闘力があるとはいえ、所詮は村人。

 虚しくもその村は蹂躙され、更に戦闘車を含めた戦利品を盗賊たちに奪われた。

 奪われた装備品の数々は、どれも現役で活躍する傭兵たちが使っているような最新モデルの銃や防具だったのだが、その一つ一つにとある紋章が刻み込まれていた。

 その紋章は、レギリオンの絶対君主、『軍王』の紋章に他ならなかった。

 そして、その紋章が刻み込まれているということは、『軍王』の所有物の一つという証でもあった。


「リーダー。あの村はよかったっすね」

「ああ。女どもや食料なんかに限らず、まさか戦闘車まで手に入るとは……さすが軍事大国だな。おかげで俺たちの戦力が増えるってもんよ」

「まったくですぜ」


 盗賊のリーダーに、部下が嬉しそうに話しかける。

 盗賊に身を落とした彼らは、元々は傭兵として活動していたのだが、素行が悪く依頼先で問題行動ばかり起こして仕事が回ってこなくなった連中で構成されていた。

 もちろん、素行不良の傭兵団も数多くあるが、団が大きかったり、強力な傭兵がいたりして、盗賊に身を落とす必要がない場合もある。

 何よりも一番大きな要因としては、そんな傭兵団にも需要と言うものは存在し、取り締まろうにも後ろ盾とその傭兵団自体が強力なこともあって、難しいのだ。


「まあ、しばらくは甘い蜜を啜らせてもらおうか。辺境の村なら、少ないリスクで多くの武器が手に入るからな」

「それに、女もですね」


 下種な笑みを浮かべる部下とリーダー。

 そんな会話をしていると、別の部下がリーダーに声をかけた。


「リーダー!」

「あ? どうした?」

「前方に人がいます!」

「何?」


 報告してきた部下に渡された双眼鏡を覗いてみると、玉座らしき豪華な椅子に座る、一人の男性が宙に浮いていた。


「なんだ? アイツは……周りには他に誰もいねぇようだが……」


 リーダーは部下たちに警戒するように告げ、男性との距離を徐々に縮めた。

 やがて、目視で姿がはっきり見える位置まで近づく。

 少し長めの深緑の髪に、鋭い黄色の瞳。

 整った容姿は、盗賊たちを見下す視線と相まって、非常に冷たく見えた。

 白銀の毛皮のついた真紅のマントに、非常に豪華な軍服に身を包んでいる。

 男性は足を組み、不遜な態度で椅子に座りながら盗賊たちを見下ろしていた。


「……」

「おい、誰だテメェ!」


 見下されていることを察したリーダーは、男性に向かって怒鳴った。

 すると、男性は静かに、そしてゆっくりと口を開いた。


「誰の許可を得て、我が『所有物』に触れている?」

「あ? 何言って――――」

「あ、ああ……あああああああああああ!」

「なっ!?」


 突然、リーダーの隣にいた部下の一人が絶叫した。

 その部下に視線を向けたときには、なぜか身に着けていた防具で押しつぶされたかのように体が潰れ、息絶えていた。


「な、何が……」


 リーダーは、部下の突然死に理解が及ばず混乱する。

 他の部下たちも仲間が急に死んだことで、動揺していた。


「う、狼狽えるんじゃねぇ! 一体何しやがった!?」


 リーダーは正気に返るとすぐに部下を鎮め、未だに宙で悠々と座り続ける男性に食って掛かった。


「何をしたか……単純なことだ。我のモノに触れたから、死んだだけのこと」

「何を訳の分からないことを……テメエら、やれ! 所詮相手は一人だ!」


 リーダーがそう指示すると、部下たちはいっせいに銃を構え、更には戦闘車までもが男性に銃砲の照準を合わせ、発射しようとした。

 だが、銃声は一向に聞こえてこない。


「おい、何をやってる!?」

「そ、それが、銃が使えないんです!」

「なんだと!?」


 さっきまで使えていた最新モデルの武器は、突然誰も使う事が出来なくなった。

 それどころか、なぜか盗賊たちはその場に体が固定されているかのように、体を動かす事が出来なくなった。


「何が起きている!? 何が起きてるってんだよ!?」


 立て続けに起こる意味不明の事態に、リーダーは喚くことしかできない。

 すると、その様子を興味な下げに見下ろしていた男性が、再び口を開いた。


「無駄だ。貴様らが不敬にも我が『所有物』に触れているのだ……生かして帰すはずがなかろう?」

「て、テメェは一体何なんだよ!?」


 リーダーの言葉に、男性はこう告げた。


「我は『軍王』だ」

「な――――」


 その言葉に、リーダーだけでなくその場の全員が絶句した。

 盗賊たちの様子に、男性――――『軍王』は慈愛に満ちた表情を浮かべた。


「驚いたであろう? 我が『所有物』に触れた不届き者どもを始末するため、我が直々に手を下しにやって来たのだ」

「な……あ……」

「ただ、貴様らの気持ちも分からんでもない。蹂躙は愉しいからな。それに、我が『所有物』も非常に強力だ。魅力的に見えるのは仕方がない」


 そこまで言って、『軍王』は笑みを深める。


「ゆえに、我は貴様らの欲望を肯定しよう。戦意を肯定しよう。決意を肯定しよう。――――そう、貴様らのすべてを肯定しよう」


 その言葉は、すべてを包み込むかのように優しく、それでいて恐ろしかった。

 ……そして、その認識は正しかった。

 『軍王』は右手を軽く上げると、『軍王』の右手の甲から紋章が浮かび上がる。

 浮かび上がった紋章は、豪華な盾型の中に、軍旗が交差しており、その中央には剣が描かれていた。

 それは、盗賊たちが身に着けていた防具や武器、そして戦闘車にも刻まれており、『軍王』の紋章が出現したことで、それらも光を放ち始めた。


「何が……何が起きて……」


 盗賊たちは、呆然と自身の身に纏う装備品の変化を見ていることしかできない。

 装備品にも刻み込まれた紋章が輝きだしたかと思うと、まるで最初から意思を持っていたかのように装備品たちは勝手に盗賊たちの下を離れ、『軍王』の周囲に集っていった。

 それは戦闘車も例外ではなく、中に乗っていた盗賊がはじき出され、『軍王』の下に向かう。

 やがてすべての装備品が『軍王』の下に集い、盗賊たちの身を守る物は何一つなくなってしまった。

 『軍王』の下に集った武器や防具は、矛先を、銃口を、砲身を、それぞれゆっくりと盗賊たちへと向ける。

 盗賊たちは今から何が起こるのか徐々に理解し、顔を恐怖と絶望で歪める姿を見て、『軍王』は慈愛に満ちた笑みから、冷酷かつ残酷な笑みに変わった。


「――――そして、そのすべてを踏みにじろう」


 武器は、容赦なく盗賊へと襲い掛かった。

 ある盗賊の一人には数十本もの剣や斧が突き刺さり、また別の盗賊には銃弾の嵐が浴びせられる。

 普通は防弾ジャケットとして使われる防具も、今はその強固さが凶器となり、まるで銃弾のような速度で次々と盗賊たちを吹っ飛ばしていく。

 戦闘車はあり得るはずのない空中移動をしながら高威力の砲撃で殲滅するだけでなく、戦闘車の巨体とその移動速度で、盗賊たちをぐちゃぐちゃに押しつぶしていった。

 その光景は、凄惨極まりなく、一瞬にしてその地を赤黒く染め上げた。

 気づけば、盗賊のリーダーだけ残される形で、他の盗賊たちはすべて死に絶えた。


「あ……あ……」

「先ほど、貴様は我一人と言ったな?」


 仲間だった者たちの血で染まり、もはや微かにでも正気を保つことができているのが奇跡の状態のリーダーに、『軍王』は不遜な態度で言い放った。


「貴様らは一人を相手にしていたのではない。『国』を相手にしていたのだ」

「――――」

「せいぜいその過ちを悔いるがいい。――――ここで死ぬがな」


 そういうと、『軍王』の周囲に浮いていた一つの銃が、リーダーの眉間を撃ち抜いた。

 全滅した盗賊たちを、つまらなさそうに『軍王』は見つめていると、不意に『軍王』の付近の空間が歪み、一人の貴公子然とした男性が姿を現した。


「陛下」

「なんだ? エリアス」

「……≪戦血≫が先の戦争に参加していたようですが……」

「……そうか」


 エリアスと呼ばれた男の言葉に、何の感情も感じられない声で『軍王』はそう返す。


「……我は帰るぞ。エリアス、ここの始末をしておけ」

「御意」


 そのまま、『軍王』は何も読み取れない無表情のまま、玉座に座った状態で城の方へ帰って行った。

 宙に浮いていた武器たちは、『軍王』が紋章を消したことで地に落ちる。

 エリアスは赤黒く染まったその地と、地に落ちた武器を見た後、心配そうな表情で『軍王』の背中を見つめるのだった。

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