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新たな仲間と追加報酬

 ――――それは、昔の記憶。

 まだ、親父が生きていて、俺が弱かった頃。

 紋章の使えない俺は、いつも劣等感に苛まれていた。

 親父たちは、俺に紋章がなくても気にせず優しくしてくれた。

 でも、俺は嫌だった。役立たずで、弱い自分に。

 だから、必死になって考えた。

 どうすれば親父たちの役に立てるだろう? って。

 最強と謳われるような親父の傭兵団で、俺が役立てることなんてほとんどない。戦闘ならなおさらだ。

 同い年の一般的な紋章者相手なら、他の技術を鍛えれば確かに勝つことは出来るが、親父の傭兵団のなかじゃ、それも難しかった。同じように鍛えた同い年の紋章者なら、どうしようもない。

 そんな時、俺は一つの道を見つける。

 それは、情報収集だった。

 もちろん、それ専用の部隊も傭兵団の中にはあったが、俺の場合は違う。

 実地に向かい、直接その土地を調査するだけじゃなく、そこに住む人たちと交流を持ち、独自の情報網を広げて情報を得ていたのだ。

 弱くて誰が見ても普通の子供にしか見えない俺だったからこそできたことだった。

 本当に力も弱いため、誰も警戒しないのだ。

 それに、普通の子供を装ってみんなが戦争の準備をして動けない間に、雑用の依頼を一日に二十件以上請け負い、そのお金を傭兵団に回していた。

 微々たる金額ではあったが、それでも年間を通しての個人で稼いだ金額なら、傭兵団のなかでもトップを争っていた。

 まあ、大きな戦争とかで莫大な収入があれば、簡単に抜かれたけどな。

 長いことそういうことをしていると、いつの間にか≪黒猫≫なんて可愛らしい二つ名も貰ったが、今ではそれを覚えてる人間もいないだろう。

 俺は、親父に褒められて嬉しかったんだ。

 これからも親父の役に立って、少しでも団のみんなに恩返しがしたい。

 ――――そう、思っていたのに……。


◆◇◆


「……親父……」

「レオス!?」


 不意に、近くで名前を呼ばれ、俺は徐々に意識を覚醒させていった。

 ここは……どこだ……?

 重い瞼を何とか上げると、見知らぬ天井が目に飛び込んでくる。

 視線を動かすと、泣きそうな表情で、ローゼが俺のことを見つめていた。

 ローゼだけじゃない……入り口にも誰かいる。

 未だにボーっとする頭で、ローゼを見つめ返すと、ローゼは俺を抱きしめてきた。


「アンタ……本当にバカよ! 大バカもいいところよ! どれだけ心配したと思ってるの!?」

「いや、でも……無茶しねぇとローゼが……」

「~~~~っ! うるさい! 言い訳するなっ!」

「えぇ……」


 理不尽だと思いながらも、俺はローゼにされるがままだ。

 とはいっても、ローゼはただ俺を抱きしめているだけなので、危害を加えられているわけでもない。まあある意味役得だな。

 そんなくだらないことを思っていると、ローゼが耳元で呟いた。


「…………ありがと」

「え?」

「こっちみんな、バカ!」

「だから理不尽だろ……」


 呆れた声を出していると、さっきから感じていた気配が動き、部屋に入って来た。


「そろそろいいか?」

「っ!?」


 部屋に入って来たのは、体中に包帯を巻き、それどころか足にリリアが引っ付いた状態のウォードだった。

 ローゼは、急にウォードが入ってきたことに驚き、体をビクつかせた後、すぐに俺を突き放した。


「あ、アンタ! ノックくらいしなさいよ!」

「いや、ここレオスの部屋だろ?」


 ウォードが呆れたようにローゼにそう言った後、視線を俺に向ける。


「よぉ、気分はどうだ?」

「ん……分からねぇ……」

「ははは! そうか! ま、あんだけ血を流してたんだ。そうすぐに動けるようにはならねぇだろうさ」

「そうか……それと、その足に引っ付いてるリリアはどうした?」

「あー……それが、俺が傷だらけで帰って来たもんだから、それでな……」


 なるほど、リリアは大きなケガを負ったウォードの姿を見て、とても不安な気持ちになったのだろう。

 現に泣いたあともあるし、ぶすっとした顔で絶対に放さないと言わんばかりにしがみついている。


「おとーさん、危なかった。すごく心配したんだから」

「あー……その……悪かったって……」

「本当にそう思ってるのかしら?」


 今度はウォードの奥さんであるアンナが、部屋に入って来る。


「レオスさん。この度は主人を助けていただきありがとうございました」


 そして、すぐに俺に頭を下げた。


「あ、頭を上げてくれ! 俺は大したことは出来てねぇんだから!」

「いや、レオス。実際に俺はお前に助けられてるわけさ。俺からも礼を言わせてくれ。ありがとう」

「おにーちゃん、ありがと!」


 続くように、ウォードとリリアも頭を下げた。

 その様子を見て、否定し続けても埒が明かないので、俺は感謝を受け入れた。


「……分かった、感謝の言葉を受け入れる」

「……ありがとよ」

「いいよ、お互いさまだって。それで、わざわざ見舞いに来てくれたのか?」

「ああ、そうだな。お見舞いが一応メインだが……」

「ん? 他に何か用があったのか?」


 俺がそう尋ねると、ウォードは少し言いずらそうにした後、やがて真剣な表情で俺を見つめ、意外な言葉を口にしてきた。


「レオス。俺を……俺たちを雇う気はないか?」

「え?」

「正直、今まで俺が受けてきた依頼の中で、あの危機的な状況で助けてくれる奴なんていねぇと思ってた。……だが、お前は違った。もちろん、結果的にそうなっただけってのもあるかもしれねぇが、俺にとっては助けられたのに変わりはねぇ」

「それは……」

「……俺たちは訳アリの身だ。ヘタしたら危険に晒すかもしれねぇ。だが、俺たちもこのまま一人で戦場を歩き続けるには限界があるんだ。虫のいい話だとは分かってる。それでも、少しは考えてくれないか?」


 つまり、ウォードを雇う……傭兵同士の場合なので、俺の傭兵団に入ると言っているのだ。

 何の実績もないような人間に、≪戦血≫と恐れられる【公紋章】持ちの人間が仲間にしてくれと言っていることに、俺は呆然としてしまった。

 もちろん、親父の傭兵団には何人か【公紋章】持ちの人間はいたが、まさかこの俺自身の仲間にしてくれと言ってくるとは……。

 確かに、ウォードを仲間にすることは危険が伴うだろう。

 だが、自分でもよく分からないのだが、ウォードを仲間にした方がいいと本能のような部分がそう告げていた。

 ……妙な気分だが、俺としてもこの短い間でウォードたちの人柄を知る事が出来ているので、悪い話ではない。

 ワケありと言っても、傭兵はだいたいそんなもんだ。恨みを買うことなんてしょっちゅうあるわけで、ウォードの抱える問題も気にするほどじゃない。

 事実、こうして今までウォードはやって来れてるってのもあるしな。


「……本当に俺なんかでいいのなら、歓迎するぞ」

「そうか……それなら頼む!」

「こっちこそ。傭兵団と呼ぶのもおこがましいが、よろしくな」


 ウォードだけでなく、リリアやアンナまでもが頭を下げるのに合わせて、俺も頭を下げた。

 その様子を黙って見ていたローゼは、ため息を吐く。


「はぁ……まあ当初の目的である仲間を集めるって点で言えば成功ね。その分危険だったわけだけど……」

「受けようって言ったのお前だよな?」

「そっそれは……うるさい!」

「理不尽だ」


 痛くないが、ローゼに軽く殴られながら今回の戦争のことについて考える。

 今回の戦争は、特殊すぎた。

 普通の戦場なら、フォトン式の銃や戦闘車が大量に投入され、激しい銃撃戦が行われる。

 だからこそ、個人の戦闘力よりは純粋な戦力差や武器の質などが勝敗を大きく左右するのだ。

 もちろん、親父のような有名どころの傭兵団なら、個人の戦闘力が化物みたいな連中がたくさんいるわけだから、そりゃあ強いだろう。

 そんな特殊な例は少ないのだが、相手の軍には銃や戦闘車を軽々と潰してしまう化物が大量にいたのだ。

 まあ、お互いにお金がなくて、今回の戦場では戦闘車はそんなに見かけなかったのだが。

 それでも、普通の戦争だったなら、ウォードがあそこまで大怪我をすることもなかっただろう。それだけウォードの紋章術は強力で、今回は相手が悪かったとしか言いようがない。

 質より量の戦争において、今回は一騎当千の戦士がウォードとローゼくらいの中で、銃の効かない化物だらけってのは悪夢でしかないからな。

 明るい雰囲気になり、ゆっくり過ごしていると、ドアがノックされた。


「レオス君、入ってもいいかい?」

「あ、はい。どうぞ」


 入って来たのは、クライカー男爵とルーナだった。

 ルーナは、クライカー男爵の陰に隠れて、顔を俯かせている。

 クライカー男爵は俺の傍まで来ると、笑顔を浮かべた。


「目が覚めたようだね……よかった。顔色もいいようだ」

「おかげさまで。結構ギリギリだったようですが、何とか生きてますよ」

「いや、本当に……君たちには救われた。ありがとう」


 そういうと、クライカー男爵は俺たちに頭を下げた。


「……実は、今回狙われていた領地は……今は亡き、私の妻との思い出の場所だったのだ。その領地の生み出す利益ももちろんあるが、それ以上に……私とルーナにとって、あの場所は失いたくなかったのだよ」

「そういう理由だったんですね……」


 今ようやく、ルーナがなぜ無謀にも戦場に飛び出したか分かった。

 母親との思い出のある場所を奪おうとするバルドー伯爵がどうしても許せなかったのだろう。

 クライカー男爵は頭を上げると、ルーナの頭を撫でる。


「君たちのおかげで、ルーナも生きていた。だからこそ、私は本当に感謝しているんだよ」

「……いえ、俺たちも力になる事が出来てよかったです」


 そんなやり取りをしていると、顔を俯かせていたルーナが、俺の前に出て頭を下げた。


「……勝手な行動をとってしまい……本当に……申し訳ありませんでした……」


 涙声で、そう告げるルーナ。

 ローゼやウォードを見ると、二人とも肩を竦めるだけで、俺に丸投げしてきやがった。

 俺は一つため息を吐くと、ルーナに言う。


「……顔を上げてくれ。確かに、最初はウォードやクライカー男爵の言うことを聞かなかったアンタに思うところがなかったと言えばウソになる。だが、アンタにもアンタなりの譲れないモノがあったんだろ? なら、謝罪より感謝してもらいたいな」


 俺の言葉を受け、ルーナは驚いた様子だったが、微かに笑い、改めて感謝の言葉を口にした。


「……分かった。私を……私と、母の思い出の場所を守ってくれて……ありがとう」

「おう」


 感謝の言葉を受け入れ、俺も笑顔になると、ルーナは顔を真っ赤にした。おい、どうした?

 不思議に思っていると、なぜか不機嫌そうなローゼが俺の腕を軽く抓ってくる。


「いてっ。おい、ローゼ。何すんだよ」

「……別に」


 別にって態度じゃねぇだろ……。

 何故かウォードは俺たちの様子を見てニヤニヤしており、アンナは生暖かい視線を向けてきて、クライカー男爵は何やら感慨深そうに頷いていた。いや、本当に何なんだよ。


「おっと、レオス君のお見舞いと感謝の言葉を言いに来たのも目的の一つだったが、もう一つ話しておきたいことがあったんだ」

「話しておきたいことですか?」

「ああ。今回の報酬についてでね。他の生き残った傭兵たちには、最初の契約通りお金を渡したんだが、君たちにはそれにプラスして、もう一つあげたくてね」

「もう一つ?」


 まさか、追加報酬が貰えるとは思わなかった。確かに頑張ったけどさ。

 何をくれるのか、分からず首を捻っていると、クライカー男爵はこう告げた。


「今回の戦争のおかげで、バルドー伯爵の領地全てが私のクライカー男爵領となった。その領地の一つを、君たちに譲ろうと思う」


 それは、予想以上に大きな追加報酬だった。

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