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プロローグ

 物心ついた頃から、俺――――レオス・カルディアは、戦場のなかで生きていた。

 本当の両親の顔も知らないが、俺を拾って育ててくれた親父が、俺にとっての親だった。

 その親父の仕事が傭兵で、後になって知ったのだが、最強と謳われていた傭兵団を率いてたこともあって、あちこちの戦場を俺も駆け回っていた。

 そんなあるとき、唐突に親父は俺に訊いてきた。


「いいか? レオス。お前は他と違う。何が違うか分かるか?」

「……俺だけ【紋章エンブレム】を持ってないこと?」


 恐らく、全人類が【紋章】と呼ばれる力を身に宿し、生きている。

 紋章とは、遥か昔……神々が人間を玩具のように弄んでいたころ、その神々に対抗するために人類が生み出した力だった。

 人間は、神から与えられた言葉を話している。

 だが、人間が神々に対抗するために生み出した紋章は、人間が全て、一から生み出した特殊な言語――――【紋字もんじ】を組み合わせた【紋章陣もんしょうじん】に、紋字を生み出したことで新たに得た力――――【紋力レム】を流し込むことで、効果――――つまり【紋章術もんしょうじゅつ】を発動させる事が出来た。

 だが、神々もバカではない。

 紋章術は、紋字の組み合わせによって効果が変わってくるため、神々はその紋字を組み合わせた紋章陣を見ることで、どのような効果を発揮するのか見抜き始めたのだ。

 それに対抗するために、人類は【紋章】というカバーを紋章陣に被せることで、それを防ぐことに成功したのだ。

 ちなみに、紋力は、血液みたいなもので、常に体中を駆け巡っており、それによって飛躍的に身体能力を向上させる力があった。

 紋力と、ある程度の紋字さえ理解できていれば、様々な紋章術を行使できたが、難しく強力な紋章術であればあるほど、紋章陣は複雑かつ巨大になり、そんな紋章術の研究ができるのは王族や貴族などのお金のある連中ばかりで、彼らはその自身の研究成果を一つの形として、魂に刻み込んだのだ。

 普通の人たちは、紋章術を発動させるための体づくりとして、魂に刻み付けた簡素な紋章が体のどこかに浮かび上がっているのに対し、王族や貴族などの、有力者たちは、豪華な紋章が体のどこかに浮かび上がっていた。

 だからこそ、豪華な紋章を持つ人間は、ただ一般的な紋章術を発動させるためだけの紋章ではなく、それにプラスして、その人間やその一族だけが使える何かしら強力な紋章術を有しているのだ。

 詳しくは知らないが、俺の親父も豪華な紋章が背中に浮かんでいる。


持ってない・・・・・、か……まあ今はそれでいい」

「え?」

「とにかく、お前は他と違って、今は・・戦闘において圧倒的に不利なわけだ。つーわけで、今からみっちり戦場でも生き残れるくれぇには鍛えてやるから」

「え゛!?」

「なぁに、遠慮するんじゃねぇよ。最強と謳われるこの俺が鍛えてやるんだぜ? ――――覚悟しとけよ?」


 その日から、ある意味地獄が始まった。

 紋力がある人間とない人間の力の差は元々歴然で、同じ子供同士でさえ、俺以外の人間が紋章を使える時点で勝てる要素のない中、伝説の傭兵による訓練が始まった。

 当時の俺は5歳で、親父について戦場を渡り歩いてたからか、他の子どもよりかなり大人びていたにもかかわらず、何度泣いたか分からねぇ。

 それでも、10歳になるころには、同い年の紋章者……つっても、俺以外は世界中どこ探しても紋章を使えない人間はいないのだが、とにかく同い年相手には負けることはなく、大人相手でも勝ち越せる程度には強くなった。

 だから、予想してなかった。

 紋章を持たない俺を、そこまで強くした親父が――――死ぬだなんて。


「親父ッ!」

「ヘッ……参ったな……ミスったぜ……」


 親父は、俺を庇い、瀕死の重傷を負った。

 そう……【神】から守ってくれたのだ。


「がふっ……く……ま、まさか……今さら神どもが出張って来るとは……がはっ」

「親父! 頼むから黙ってくれ!」

「あー……ったく……情けねぇツラ晒してんじゃねぇよ……男前が台無しだろうが……」

「親父……?」


 親父は、神から俺のことを守ると、死にそうな体であるにもかかわらず、神から俺をつれて逃げ、そして隠れた。

 そして、今まで見たこともないような慈愛にあふれた表情で俺を見つめ、頭を撫でてきた。


「ハァ……ハァ……他の、仲間が……くっ……別の戦場に稼ぎに……行ってたのが……幸いだったな……。あれは、最初から俺が本気にならねぇと……勝てねぇ……不意を……突かれた時点で……負けだったのさ……」

「お、親父?」


 親父の口から、『負け』という言葉が出て、俺は呆然とした。

 いつも飄々としていて、負けるなんて微塵も感じさせなかったあの親父が、負けと言ったのだ。

 だが、それと同時に、親父に負けと言わせた相手のヤバさも、俺にはよく理解できてしまった。

 まるでこの世の【悪】そのものが、満面の笑みを浮かべているような……そんなヤツだった。


「はぁ……はぁ……い、いいか? レオス……。これが、最後に……お、まえ……に、してやれる……ことだ」

「さ、最後? 何を言ってんだよ……」


 混乱する俺をよそに、親父は俺の背中に手を回すと、指先で俺の背中をなぞった。

 だが、それはなぞられた感覚などではなく、『刻み付ける』ような激痛が俺を襲った。


「がああああああああああああああああああああああああああああっ!」

「根性……見せろや……レオス……」

「ぐッ! お、親父……! いったい何を――――」

「俺の紋章を……お前に刻み込んだ……」

「なっ!?」

「お前は……俺に刻まれる前から……すでに、持ってる・・・・。いずれ……それが……わ……かる……さ」

「お、親父? おい、しっかりしろ親父!」

「逃げろ……レオス……生き延びて……お前にとって……大事な……人ができたとき……それを守れるくらい……強く……なれ……」

「う、ウソだろ? なぁ、親父……か、帰ろう? 帰れば、親父を治療できるから……!」


 涙でグシャグシャになった俺を見て、親父は最後に微笑むと――――。


「生きろ、レオス。お前のことを……愛して――――」

「………………親父?」


 親父は、安らかな表情で、ゆっくりと瞳を閉じた。


「あ、あああ」


 何の力もない、俺を守って。


「あああああああああ」


 親父は――――。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」


 死んだ。

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