② 時計の針は止まらない−4
「義母さん、ごめんなさい。まさか、こんなことになるとは思いもしなかったとは言え、私、志恩の葬儀に出ることが出来ませんでした。本当に申し訳ありません…」
「ちょっと、顔を上げてちょうだい。どうして、ななみさんが謝る必要があるの…。こうやって、生きて戻って来てくれたことで、私達がどれだけ救われたと思っているの? それに葬儀のことは知りようがなかったんだから、仕方ないじゃないの。今、こうやって来てくれただけで、もう十分よ…」
義母が優しい言葉をかけてくれているのに、ななみの心は全く晴れなかった。むしろ、優しい言葉をかけられればかけられるほど、じわじわと責められているようで心苦しい。
どんなに言葉をかけられようとも、志恩の葬儀に出られなかったことは覆らないし、何よりも一緒に行くはずだった旅行へ一緒に行けていれば、こんなことにはならなかった。
「もし、志恩と一緒に旅行へ行けていたら、こんなことにはならなかったのに…。私がもっと強引に志恩を旅行に連れて行っていれば…。本当にごめんなさい」
「いい加減にしなさい!」
突然、義母がピシャリと言い放つ。ななみはあまりに突然のことに、我を忘れて悲しみにくれていたことを恥じた。
「そんなことを言ったら、私だって、どうして志恩がアフリカで一年間、働きたいって言った時に止められなかったのか…とか、困っている人はそんなに遠くに行かなくても、日本にもたくさんいるんだから、日本で活動している団体で働きなさい…と言えばよかった。今さら、悔やんでも仕方ないけど…」
桃子は堪えきれずに、嗚咽をこぼしながら、ななみに話した。ななみは恋人よりも母親の方が悔やむことの方が多いに違いないと思い、何も言わずに義母の話に耳を傾ける。
「まさか、こんなことになるとは思いもしなかった…。ようやくNPO法人の正規職員になれたと喜ぶ志恩に対して、NPO法人なんてうさんくさいから、止めておきなさい…なんて言えなかった…」
「……」
「それに、このご時世ね、どんな仕事であれ、正職員になることが難しいし、志恩はいろいろなNPO法人とか、ボランティア団体の臨時職員を渡り歩いていたからね。ななみさんも、志恩と長い付き合いだったから、よく知っているでしょう?」
「はい…」
ななみは、桃子の話を遮ることも、口を挟むことも出来ずに、ただひたすら相槌を打つことしかできなかった。
「やっと、コンティーゴで正規職員として採用された時は本当に嬉しそうだった。一年間、アフリカで働いた後は、東京の事務局で後方支援を担当することになっていたし、ななみさんとも結婚することも決まっていた。本当にこれからだったのに…」
桃子はとうとう堪えきれずに泣き出した。ななみもそれにつられて泣いてしまった。さっき、仏壇の前でたくさん泣いたばかりなのに…。いつになったら、涙は涸れるのだろう…。