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心を自然解凍  作者: あまやま 想
第6章 人生は踊る されど進まず
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⑤ 七隈雅彦の父親としての苦悩−2

 ここで雅彦からの何かしらリアクションが返ってくるはずなのに…。あまりにも静まり返ったリビングは不自然にすら感じた。ふと、父を見ると、父が急にうなだれていたので、びっくりした。


「父さん、どうしたの? 大丈夫?」


「白々しいな…。そこで、かえでの話を出すとは…。ななみちゃんは、本当にずるいよ…」


「えっ?」


「えっ、じゃないよ。『母さんだって、そう思ったから、私を産んでくれたと思う』って、よく言えたもんだよ。まあ、その通りだけどさ…。その話は香椎のばあちゃんに聞いたのか?」


 ななみは頷いた。ななみの母方の祖母・香椎香苗が母・かえでのことを何度も話してくれていた。ななみにとっては、この話はななみの存在意義そのものである。


「しかも、母さんを味方につけるとは…。本当に大した奴だよ」


「それ、どう言うこと?」


「かえでが、ななみを産むと決めた時に言った言葉と、全く同じだった…。それは二人だけの秘密で、ばあちゃんが知っているはずはないんだ…」


 ななみは声にならない声で、驚きをあらわにした。雅彦は遠くを見ながら言った。


「やりたいことをやらずに終わる人生なんて、生きた屍と同じよ。それにこの子を犠牲にして長生きできたとしても、きっと自分を責め続けて、楽しい人生なんて送れない…と言った…」


「知らなかった…」


「そこまで、腹を括っているなら、外野はどうこう言うべきでない。何があろうと、母子とも無事に産まれてくるようにサポートするのが、外野の役目だ…と何千回、自分に言い聞かせたことか…」


 雅彦は一瞬でも、娘の中にかえでを見つけたことに密かな喜びを感じる。別に六週間も出てこなくても、一瞬でもこうやって会うことができるなら、それでいい。


 かえでの遺志は、確実にななみへと受け継がれていた。気が強くて頑固なところはもとより、大切なモノのために、命をかけようとするところまでそっくりだ。


 確かにそうだ。大切なモノを守るとは、守りたいモノを危険からいたずらに遠ざけることではない。大切なモノがやりたいと言ったことを共に受け入れ、共にリスクを共有することなのかもしれない。


 そのことを伝えに、ななみの元に一瞬でも舞い降りてきたのかな…。そんなことをされたら、認めるしかないじゃないか…。ようやく、雅彦の肚が固まった。


「分かった。アフリカに行ってもいい。そのかわり、一つだけ約束してくれ…」


 ななみは姿勢を正しくして、父の言葉を聞き入れる。まさか、父が急に態度を軟化させるとは…。父の前において、母の力は思いの外、力強く偉大である。父は続けた。


「必ず、生きて返って来てくれ…。これが父さんと母さんとの約束だ。これ以上は絶対に譲れない!」


「分かりました。必ず、生きて帰ってきます!」


 ななみは父が認めてくれたことに心の底から感謝した。雅彦は、ななみが力強く丁寧に返事するのを見て、やや不本意ながらもうんうんと頷くしかない。


 こうやって、子どもは大きくなっていき、手元から離れていく。失うのが怖いからと言って、いつまでも手元に縛り付けておくのは親のエゴでしかない…と雅彦はようやく気付かされた。

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