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心を自然解凍  作者: あまやま 想
第6章 人生は踊る されど進まず
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④ 社内選考の結果ー2

 少なくても、ななみは八月五日…視察の旅へ行く前日まで、このようなCDを聞きながら、車の運転をすることはおろか、生活の中でこのようなCDに触れることは全くなかった。


 ところが、志恩がいなくなった後、今後のことを小笹に相談した際に、少しは気が紛れるから聞いてごらん…と言われて以来、車の中で、はまって聞くようになる。


『苦しい時や悲しい時に泣くのは当たり前だが、それだけでは前に進めない。苦しい時や悲しい時こそ、嘘でもいいから笑え! 嘘でもいいから笑えば、いつの日か、それが本当の笑顔になる』


と、言うメモ書きが、小笹から借りたCDの中に入っていた。それも、借りたCD五枚全てに入っていた。きっと、小笹にも人知れず深い苦しみとか悲しみとかがあって、それからどうにか抜け出したくて、これらのCDを聞いていたのだろう…。


 そう思うと、悲しいのは…、苦しいのは…、自分だけではないんだ…と、ななみは思った。柄にもなく、しみじみと『もののあわれ』を感じずにはいられなかった。


 志恩のいた世界ではななみは、阿部真央や西野カナ、浜崎あゆみ、aiko…など様々なアーティストの歌を聴きながら、車を運転していた。志恩も車の運転が好きだったので、二人でよくドライブに行っていた。


 時にはななみの車で…。時には志恩の車で…。特に阿部真央は二人とのよく聴いていた。


 『あなたの恋人になりたいのです』を聴いては、この人好きかも…と気付いてはドキドキしたり、片思い中でほろ苦いに気持ちを味わったりした頃を思い出した。


 『15の言葉』ではいつもそばに居過ぎて、伝えたいけどなかなか伝えられない本当に大切な言葉を共有した。『ストーカーの唄〜三丁目、貴方の家〜』では一途ゆえに間違った愛情表現しているけど、なんか可愛らしいと志恩に伝えた。


 すると、これを男性がやったら、すぐに警察へ連れて行かれるから、気持ちは分かるけど、行動に移すことは理解できないと言われ、愛情表現とは何かともめた。


 まあこんな具合で、二人で聴いた曲、一曲一曲にかけがえのない思い出がある。どんなに素敵なラブソングも、想う人のいない世界では、ただの言葉の羅列やかたまりにしか聴こえない。


 ましてや、聴くたびに志恩が生きていた頃のことを鮮明に思い出す歌を聴くことは、ななみにとっては残酷な仕打ちそのものである。


 思い出の塊である音楽CDは全て、押し入れの奥の奥にしまい込んだ。ところで、またこの音楽を聴けるようになる日が来るのだろうか…。今は、さっぱり分からない。


 そんな訳で、音楽がよく流れるFMラジオも聴かない。NHK第一とNHK第二はひたすらニュースしかやらないので、落語でお腹一杯の時は気分転換にNHKラジオを聴く。


 一見、何事もなかったかのように、普通に暮らしているけど…。人が一人この世界からいなくなると言うのは、実に大変なことである。どんなに平然をよそっていても、必ず何かが変わっていく。


 そうしないと、残された者はいつまでも心にポッカリ空いた穴を埋めることができない。それは七隈ななみが、七隈ななみであり続けるためにも、必要不可欠な変化ではないか。


 そうだ。きっと、そうだ。ななみがそんなことを考えているうちに、車は七隈家にたどり着いていた。

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