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心を自然解凍  作者: あまやま 想
第6章 人生は踊る されど進まず
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② 父・雅彦の思い

 雅彦は一人で夕食を食べていた。ななみが正社員になるための社内選考で東京へ行っているため、帰りはどっかで食べて帰って来ると連絡があったからだ。


 雅彦は娘が正社員になってくれれば、変な気を起こすことなく頑張ってくれるのでは…と密かに期待している。


 ななみは表立って口にしないが、コンティーゴの親睦会に行ってからずっと様子がおかしい。大方、組織の人間にそそのかされて、志恩の遺志を受け継いで、志恩の無念を晴らしてやってくれ…とでも言われたのだろう。


 ななみは昔から変に気が強くて、変に正義感が強い所があった。その上頑固で、一度こうと決めたら何があろうと譲らない。全く、誰に似たのだろうか…。

 そう言うところまで本当に母・かえでにそっくりだ。かえでが命がけで生んだ娘は、見た目はもとより、中身まで母親と瓜二つになってしまった。


 こんな夜は、何か映画でも見たくなる。雅彦は家にあるDVDをいくつか見繕った。最終的には『世界の中心で愛をさけぶ』か『いま、会いにゆきます』かで迷っている。


 どちらも大切な人を病で亡くす物語で、雅彦にとっては涙なしで見ることのできない作品である。どちらもちょうど十年ほど前に映画化され、ななみと一緒に映画館へ行って見て来た。


 あの頃、二十になったばかりのななみとセカチューのあらすじでもめたことがある。サクが白血病で苦しんでいるアキをオーストラリアへ連れて行く場面で、サクが連れて行きたい気持ちは分かる。


 しかし、実際に連れて行くのはどうかしている。どんなに行きたいと言っても、隣でそっと最後を見守ってあげるのが正しいと言っていた。確かに正論である。


 一方で、実際にそのような場面に出くわしたら、どこにだって連れ出したくなるのが人情だろう。


 それこそ、月だろうが、火星だろうが、雅彦は言われたらどこにでも連れて行こうと、あの日考えていたのだから…。そう、ななみに話したところ、泣きながら…


「信じられない! それでも、大人しく見送るのが、残された者の努めでしょう。この世界から旅立つ人がいい知れない不安と恐怖と戦っているのを、そっと支えてあげないと…。母さん、かわいそう…」


と、言っていたかな…。しかし、ななみは今も同じことが言えるだろうか。婚約者を失った今でも、同じことが言えるだろうか。


 雅彦はななみにもう一度、十年前の問いかけをしてみようと思ったが…。いや、止めよう…。雅彦は小さく首をふった。雅彦は変なことをして、寝た子を起こすようなことになったら、本末転倒だと思った。

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