① 残酷な通知−2
雅彦は黙り込んで、ただ首を振るだけである。それから、力なくうなだれた。ななみにとってはあまりにも残酷過ぎる宣告であった。
こんなことになるって…分かっていたら、力づくでも志恩をヨーロッパ旅行に連れて行ったのに…。変に物わかりのいいふりなんてせずに、泣きじゃくってわがまま言って、志恩を困らせておけばよかった。そうすれば、志恩は当初の予定通りに旅行へ行っていたかもしれない。
ななみは自分の押しの弱さを呪いたかった。別に志恩を直接殺した訳ではない。ただ、理由が理由なだけに、間接的に志音の死に関わったような気にさえなる。
それとも志恩の所へ行かずに、一年間、日本で待ち続けていればよかったのか…。そうすれば、あの日、志恩は空港へも行かなかったし、ンドゥ村にも行かなかったかもしれない。今さら、
「あの時、こうしておけばよかった…」
なんて、あれこれ考えても過去は変えられないことぐらい分かっている。でも、ななみは止められなかった。止めてしまったら、志恩がこの世界からいなくなったことを認めたみたいで…。
「ななみ、すまなかったな…。まさか、こんなことになるなんて思っていなかったから、もしもの時に備えて、滞在先のホテルの電話番号も聞いてなかった。どうにかして、連絡を取りたかったけど、何も出来なかった…。本当にごめん…」
一人残されたななみは、あまりに突然の宣告を受け入れられずにいた。さっきまで父と一緒に座っていたソファーに体ごと倒れ込む。
何でこんなことになったのかな…。何も知らなかったとは言え、結果として、最も愛する人の死に目に立ち会えなかったことになる。
思い出そうと思えば、志恩の手の温もりも、大きな背中も、唇の感触さえも、はっきり思い出せる。それなのに、もう二度と、志恩はななみの前に表れることもなければ、触ることも、温もりを感じることもできない。
志恩が世界からいなくなったと言うのに、世界は何事も無かったかのように動き続ける。残酷なぐらいに…。
今のところ、ななみは志恩が亡くなったと言う情報しか知らない。志恩の遺体も見てないし、通夜にも葬儀にも行けなかったから、志恩がこの世界からいなくなったことを実感できずにいた。
何一つ実感できていないのに、世界から一人の人間がいなくなったことを受け入れられるはずも無い。