④ コンティーゴの親睦会ー1
十月最後の日曜日、NPO法人コンティーゴの親睦会にななみは向かっている。朝、雅彦は何か言いたいようであったが、結局何も言わなかった。
この一ヶ月、何度も行かないで欲しいと言っていたが、その思いは伝わらなかったから仕方ない。
雅彦が心配しているのは、ななみが志恩の弔いにアフリカへ行きたいと言い出したらどうしようかと言うことである。そんなことも知らずに、ななみは行ってしまった。
電車で揺られること一時間、ななみは会場に着いた。会場はコンティーゴの東京事務局近くにある貸会議室である。目の前には大きなターミナル駅があった。ここに日本各地から関係者が集まって来た。
ななみは思ったよりも早く着いたため、席に座って、いろんな人々が入って来るのをのんびり眺めていた。その中に、志恩の両親もいたのでびっくりした。
あちらも入るなり、ななみに気付いたらしく、そのままななみの座っているテーブルにやって来た。そして、伸一と桃子はななみの左側に座る。
「ななみさん、お久しぶりね、志恩の四十九日以来じゃないの…」
桃子がさっそく声をかける。伸一は特に何も言わずに、ななみに向かって頭を下げた。ななみも伸一に向かって頭を下げる。
「義母さん、お久しぶりです。お二人でいらっしゃるとは珍しいですね」
「主人が定年を迎えてからは、どこに行くのも一緒よ。今日は主人から『志恩が見て来た世界を共有しないか…』と言い出したほどよ」
伸一はたまらずコホン…と大きな咳を立てる。開口一番いきなり、そんなことを話すとは女性同士の会話は恐ろしいものである。
「それはすばらしいではないですか? 私も志恩が普段どんな活動をしていたのか詳しく知りたくて、ここへ来ました。そして、この組織のこととかも、詳しく知りたいのです。とにかく、知りたいことだらけですね…」
ななみはそこまで言って、自分に対して『どれだけ知りたがり』なんだよ…とひっそり突っ込みを入れる。訳も分からず、少しだけ恥ずかしくなって、顔をほんのり赤らめる。
「ななみさん、ありがとう。そう言ってもらえると、私達もうれしいよ。志恩も天国で喜んでいるよ。きっと…」
「伸一さんの言う通りよ。ななみさん、本当にありがとう。ななみさんのような素敵な人を娘にできないことが、本当に申し訳ない…」
「こら、よさないか、桃子。そんなことをななみさんに言っても、ななみさんを困らせるだけだろう…」
ななみには伸一と桃子がとても素敵な夫婦に見えた。もし、母・かえでが生きていたら、雅彦とかえでもこんな夫婦になっていたのだろうか?
ななみには、これまでの伸一と桃子の間に何があったかど、知る由もないから仕方ない。困難を乗り越えた先にあるものは、何も知らない第三者にとっては素晴らしく見えるものである。そんなことが分かるほど、ななみはまだ長く生きていない。




