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心を自然解凍  作者: あまやま 想
第4章 外から見た百道桃子
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⑤ 志恩の四十九日−2

「てれっと社長って、どんな遊びですか?」


 何も分からない雅彦が尋ねる。伸一も何も知らないようで、何度か首をかしげていた。


「簡単に言えば、同じ数字のカードを四枚そろえたら勝ちですが、このゲームの駆け引きカードをそろえた後にあります。せっかくだから、供養がてら一回やってみましょう。健芯、あなたには、子どもの頃にこのゲームを教えたから覚えているよね?」


 健芯は、桃子から突然声をかけられたのでびっくりした。あの母が、自分から進んで声をかける日が来るとは…。志恩がらみのこととは言え、このように話しかけられるとは夢のようである。


 そして、幼い日に母からてれっと社長のルールを教わっていたとは…。そのことに健芯は驚いた。健芯は、兄からてれっと社長のやり方を教わったとばかり思っていた。


「健芯、もしかして忘れたの? いつだったかな…。小さい頃、志恩と健芯と母さんで遊んだじゃないの?」


「ああ、そうだったけ? それはちょっと思い出せないけど、ゲームのやり方は覚えているよ」


 このやり取りに伸一と室見川は大いに驚き、思わずお互いを見合わせる。これからの家族融和を考えた際、これは何かのきっかけになるかもしれない…と二人とも思った。


「あ、私も分かります。前、志恩から教えてもらいました」


 ななみは視察の旅で知ったことを伏せた上で、供養がてらやるゲームに名乗りを上げる。桃子が微笑みながら、ななみを手招きする。ななみには桃子が前と違って、少しずつ落ち着きを取り戻しているように見受けられた。


 三人は、桃子の解説を交えながらゲームを進める。本来なら隠す手の内を見せながら、ゲームを進めていくのは不思議であった。やがて、健芯のカードがそろった。ここからがてれっと社長の肝となるので、桃子は特に念入りに説明をしていた。


「なるほど。カードを四枚そろえると言うシンプルなゲームでありながら、カードをそろえた後の駆け引きはなかなか面白いですね」


 室見川が思わずうなった。このゲームは桃子のカウンセリングを進める上での重要なキーワードになるかもしれないと考えたからだ。それにしても、実に面白いゲームである。


 カードをそろえた後、誰にも気付かれないようにカードを床などに伏せることや、そのことに気付かずに最後までぼんやりしていると負けになるルールは、はっきり言って異色である。


「さて、これで全員、ルールが分かったでしょう? それでは、今度は真剣にやるよ!」


 桃子がそう言うと、さっきまで解説を聞いていた室見川・伸一・雅彦の三人も加わった。吉塚は、遺族の方々とこのようなことをやるのは恐れ多いと言って、一人だけ加わらなかった。


 六人もいると、場のカードが少なくなるため、なかなか手持ちのカードがそろわないことが多い。ところが、三回連続で桃子からカードを伏せているので、健芯が


「母さん、ちょっと、手持ちのカードを見せてよ!」


と追求した。すると、桃子が慌てて、場のカードと手持ちのカードを混ぜる。このゲームの性質上、四枚きっちりそろえなくても、そろったふりをしてごまかすことができる。


「てれっと社長は駆け引きのゲームだ」


と、生前に志恩が言っていたことをななみは思い出した。一方、何も分からずに三回連続最下位の室見川は、桃子のカードの引きの強さと勘違いして驚いていた。


 しかし、実は三回ともいかさまをしていたことが分かり、鳩が豆鉄砲を食らったかのようになっていた。伸一と雅彦はお互いに顔を見合わせ、首をかしげるばかりである。はたして、桃子は志恩の突然死のショックから立ち直ったのだろうか…。

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