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心を自然解凍  作者: あまやま 想
第4章 外から見た百道桃子
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③ 真実を知りたい!

「父さん、義母さんは大丈夫かな?」


 ななみは日曜の朝、朝食を作る雅彦に尋ねる。父の背中は昔に比べると、幾分か小さくなったように思えた。


 秋分の日も過ぎて、ようやく残暑もかげをひそめ、秋めいてきた。何も変わらないようで、万物は確実に変わっていく。季節のように、はっきり移ろいでいくモノもあれば、父のように少しずつ年老いていくモノもある。


 中には志恩のように、何の前触れもなく、突然姿を消すモノもごくまれにある。人はどんな形であれ、急な変化にはついていけないから、取り残された者は途方に暮れることしかできない。


「どうだろうな…。伸一さんや健芯君でさえ、どうしていいか分からないんだから、僕らは遠くから見守ることしかできないんじゃないかな…」


 しばらく間をおいて、父から帰って来る返事は何とも要領得ない。歯切れの悪い受け答えは、雅彦らしくなかった。聞いても分からないことを聞いたからだろうか…。父がトーストとハムエッグをテーブルに持って来た。


「ところで、ななみ。これに顔を出すのか?」


「うん、せっかくだから、行こうと思っているけど…」


「そうか…。あれから、まだ一ヶ月しか経っていないと言うのに…」


 父が、どうしてこんなに歯切れが悪いのか、その理由がやっと分かった。ななみの元にNPO法人コンティーゴから親睦会の案内が届いたのである。


 職員やボランティア参加者はもちろんのこと、ななみのように視察の旅に行った者、これからボランティアをしようと思う者など、国際ボランティアに少しでも関心のある者を集めて、活動報告などをすることが目的である。


 ななみは何でもいいからコンティーゴのことを知りたかった。なぜなら、婚約相手が行っていたにも関わらず、実のところNPO法人コンティーゴが何をする組織なのか、今いちつかめずにいた。


 どうせ一年待てば、志恩が帰って来て、結婚することになっていたので、ろくに調べようともしなかった。思えば、あまりにも間抜けだった。待っていれば、幸せになれると思っていたのだから…。


 ところが父・雅彦はあまりいい顔をしなかった。不慮の事故とは言え、コンティーゴと関わらなければ、こんなことにはならなかったと考えているようだ。また、百道家にも配慮する必要もある。


「だからこそ、私、知りたいんだ。事件が風化する前に…。あの日、あの場所で何があったのか調べないと…。本当だったら、私、結婚するはずだったんだよ。それなのに、何も知らないなんて、志恩に申し訳ないよ…」


「そうか…。まあ、気持ちは分かるが、親睦会があるのは一ヶ月後だ。あせって、今、結論を出す必要もない。それに…その日、急に仕事が入るとも限らないし…」


「コールセンターは土・日お休みです!」


 ななみは思わず強い口調で返す。父が、まさかそのようなことを言うとは思わなかったからである。よほど、行かせたくないらしい。


「まあ、とにかく。世の中には、知らなくてもよいことだってあると思うんだけどな…。ななみは、それでも知りたいと言うことか?」


「もちろんよ! せっかくのチャンスなのに、知らぬふりをして生きていけるほど、私は賢くないから…」


 あくまで、ななみは自分の主張を曲げない。父はただ首を振ることしかできなかった。それから、雅彦は黙ってリビングを出て行く。


 ななみは何事もなかったかのように、朝食の後片付けをする。いくつになっても、父のこう言う所は昔のままだな…と思った。

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