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心を自然解凍  作者: あまやま 想
第4章 外から見た百道桃子
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② 室見川先生の見立て−2

 そう言うと、室見川は何かを書き込んでいく。健芯には全く分からなかったが、カルテでも書いているのだろう。心療内科でも、他の病院のようにカルテを書くらしい。


「それにしても、このような環境の中で全くグレることなく、よくここまで来られたものですな…」


「父のおかげですよ」


「そうですか…。まあ、確かにそうですな…。しかし、一方であなたは『家庭内冷戦』の犠牲者でもあるのですよ」


「家庭内冷戦?」


 室見川はきょとんとしている健芯に家庭内冷戦について説明した。あくまで室見川の造語であるが、夫婦の価値観のずれによって起こる水面下での戦いのことである。


 特徴として、夫婦そろって、どこか引っ込み思案なところがあり、あまり表立ってケンカしない。一方で、子ども達をそれぞれの味方につけ、知らぬうちに自分の分身のように仕立て上げ、代理戦争のような状態になることが多い。


 多くの場合、夫婦とも無意識のうちにやっていることが多く、その多くは問題として浮上することもない。


 ただし、何かの形で問題になった際は、当事者同士に問題を起こしている自覚がないため、問題解決に時間や仲介者などを必要とすることがよく見られる。


「なるほどですね。確かに我が家では、誰もが越えてはならない一線を越えずに引っ込めるところがありますね…。お互いに感情的になることなく、平然としていることが一番って感じです」


「そうでしょうな…。それはこの前、お父様と話した時にも感じたことです。まあ、何もなければそれでいいですが、深い人付き合いはそれだけでは成り立ちません。時にはお互いの主張がぶつかったり、言いたくもない苦言を言ったり、認めたくないものを認めたりしなければいけません」


 確かにそうだな、しかし…。健芯は頷きながらも何か引っかかるものを感じながらも、室見川の話を聞き続ける。


「そうしないと、いつまで経ってもお互い傷つかないように気を遣うだけの薄っぺらい関係のままです。一番いいのはぶつかり合ったり、認めたくないものを受け入れたりしながら、お互いを受け入れることですが、これがなかなか難しい…」


 健芯は室見川の言うことに、いささか憤りを感じた。室見川の言うことは確かに正しい。


 しかし、彼の言う通りにして、本当に理解し合える人に出会えるとは到底思えなかった。それなら、家族であっても、表面上の薄っぺらい関係で十分でないか。なまじ、自己主張ができるばっかりに、かえって人間関係を悪化させたり、破壊したりすることだってあるのだから…。

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