ひと時の逢瀬ー3
それから一週間かけて、ななみはフランスのベルサイユ宮殿やルーブル美術館、スペインのサグラダ・ファミリアなどを観光する。
志恩と一緒だったら、もっと楽しかっただろうに…。本当はどうにかして志恩も一緒に来るはずだった。しかし、志恩の担当している仕事でマラリアが流行するというトラブルが起きたため、突然行けなくなったのだ。
ななみも志恩も空港でうまく別れられなかったのは、急に志恩がヨーロッパ旅行に行けなくなったからだろう。志恩は空港までななみを送った後、そのまま仕事で担当している村へ行ってしまった。
もともと、志恩はその村で小学校を建設するための手伝いをしたり、小学校の先生を見つけたりする仕事をしている。今は先生がなかなか見つからなくて、算数は志恩が教えているほどだ。ななみは志恩の案内で、ンドゥ村へ行った。
「シオーン!」
志恩は村のみんなから慕われていた。その様子を見て、どうして志恩がこの仕事を選んだのか、ようやくななみは理解できた。急な仕事でヨーロッパ旅行へ一緒に行けなくなったことも、どうにか受け入れることができた。
急に村でマラリアが流行し出したので、マラリアの流行を食い止めることが緊急課題らしい。人の命を秤にかけられたら、どうすることもできない。
それでも、あと半年すれば、志恩とは日本で会える。半年後には結婚するんだ。そしたら、もう二度と離れることはない。今を耐えればいいんだ。ななみはヨーロッパ旅行中に何度も自分に言い聞かせた。
志恩がアフリカに行ってから、どうして、志恩と一緒に行かなかったのかと、いろんな友人に聞かれたことがある。ななみはそのたびに舌打ちしたい気分だった。一緒に行けるなら、一緒に行きたかった。一緒に行けなかったのだ…。
アフリカへの赴任は、治安や健康上の理由により単身でしか認められない。家族随伴は不可である。それがNPO法人コンティーゴの規則であった。
それで話し合いの末に志恩は結婚前の一年間、単身でアフリカに行くことに決めた。ななみは一年間、待つことにした。
ただし、NPO法人コンティーゴでは活動宣伝のために「視察の旅」を受け入れている。ななみはそれを使って、志恩の活動現場へ行くことができた。そんなことを考えながら観光をしていたら、あっと言う間にヨーロッパでの一週間が過ぎてしまった。