ひと時の逢瀬ー2
ななみは急いで、その場を後にする。そのまま、出国審査場へ行く。ここもがら空きですぐに終わった。
志恩と別れてから、わずか十分足らずで搭乗口に着く。仮にも国際空港だと言うのに、日本の小さな地方空港のようだ。おかげでかなり時間に余裕がある。ななみは備え付けのソファに座った。
涙が止まらなかった。本当は志恩の胸に飛び込んで、思いっきり泣きたかった。でも、そんなことをしても志恩を困らせるだけだ。
泣かないようにするために、あんな別れ方をしてしまった。たとえ、志恩を困らせたとしても、飛行機に間に合わなくなったとしても、胸に飛び込んでおくべきだった。
ななみは、車に戻ってから大泣きしているに違いない志恩のことを思うと、胸がきゅっと締め付けられる。志恩はななみ以上に涙もろい。ななみがこらえきれずに泣いていたら、志恩はそれにつられて泣いていただろう。
保安検査場前で、二人で泣きながら抱き合うカップルは不審きわまりなく、またすごく滑稽であろう。二人にかすかな理性が働いたからこそ、そのような行動を避けられたのだろう。いや、やっぱり変な理性を働かせずに、思いっきり別れを惜しむべきだった。
搭乗口前のソファで泣くだけ泣いた後、ややすっきりした面持ちで一抹の後悔を抱えながら、パリ行きの飛行機へと乗り込んだ。
ななみはせっかくのヨーロッパ旅行だから、たとえ一人であったとしても、楽しまないともったいない…と何度も、何度も言い聞かせて、少しでも早く気持ちを切り替えようとする。
本当は二人で一緒に行くはずだったのに…。しかし、やっぱりできずに、どうにかして気持ちを切り替えようとしても、自分を欺くことはできないことにようやく気付くのであった。