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心を自然解凍  作者: あまやま 想
2章 残された家族の視点
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残された家族−5

 母がこんな風になってから、家事をほとんどしなくなったので、ごはんは外食か、コンビニ弁当か、カップラーメンのいずれかで過ごすようになった。健芯は寝る時ぐらいしか家に帰らなくなった。父も寝る時ぐらいしか帰っていない。


 母にとって、兄貴は理想の分身だったのかもしれない。その悲しみは誰よりも大きいのかもしれない。


 健芯にとっても、兄貴の突然の死は悲しかったが、日常生活まで犠牲にはできなかった。父だって同じだと思う。だから、家にいるのがつらくて帰れなくなっている。


 悲しくてやりきれないのは分かるけど、日常生活が破綻したり、身内に薄情って言ったりするのは違う。そう言えたら、どんなに楽だろうか。健芯は母の深過ぎる悲しみが分かるからこそ、何も言えずにいた。


 言ってしまったら、母には目の前の健芯が見えてなくて、遠くの世界へ行ってしまった兄貴ばかり見ようとしていることを認めてしまうようで怖い…。


 健芯は気を取り直して、野菜炒めを作った。ごはんは朝出て行く時にスイッチを押していたので、既にホカホカに炊けている。みそ汁はインスタントをお湯で溶くだけである。


 それでも、さすがに毎日作り物ばかり食べていては体に良くないと思い、これを機会に少しずつ料理を覚えることにした。母がいつ元に戻るか分からない以上、手料理が食べたくなったら自分で作るしかない。


 料理ができるようになれば、婚活にも役立つ。兄貴だって、天国で弟が幸せになることを望んでいるだろう。


 ところで今、ななみさんはどうしているだろうか? 結婚を目前に控えていたのに…。そう言えば、ななみさんが一回あいさつに来たと言っていたけど、大丈夫だったのかな…。母があんな状況でまともに応対できたとは思えない。


 ようやく、ごはんができたので、母をリビングへ呼んだ。たまには母と話さないといけないと思ったからだ。ところが帰ってきた返事は…。


「志恩と食べるから、こっちに持って来て!」


 思わず背筋が凍った。健芯は余計な気遣いなどしなければよかったと悔いた。そして、何とも言えない苦々しいものが体中に広がっていた。


 同じ家に人がいて、一緒にごはんを食べようと言っているのに、母はこの世にいない人とご飯を食べている。実に理不尽極まりない。野菜炒め、何かしょっぱいな…と思っていたら、涙がこぼれていた。


 健芯はやりきれなくて、冷蔵庫からおもむろに「麦とホップ」を取り出して飲んだ。一人寂しくご飯を食べた後、ひっそりと片付けてから自分の部屋に戻る。健芯は特に意味もなくパソコンを開いて、ただ暇な時間をつぶしていた。

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