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心を自然解凍  作者: あまやま 想
2章 残された家族の視点
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残された家族−4

 母にとって、兄貴の存在が特別であることは、物心が付いた時から分かっていた。いつも積極的で社交的、そしてカリスマ性があった。


 兄貴は母の望んだ通りの子どもだった。その兄貴が、突然の事故で亡くなってから二週間が過ぎた。まさか、こんなことになるなんて、健芯は思ってもいなかった。いや、誰もがこんな結末を迎えるなんて考えもしないだろう。


 志恩とは対照的に健芯は、安定して穏やかに暮らすことを選んだ。学生時代、必死に勉強して、地元の市役所職員になった。


 確かに兄貴の人生と比べれば、面白くもないし、きっと薄っぺらいだろう。しかし、リスクはほとんどない。最近、婚活を始めた。三十までに結婚して、子ども二人の家庭…。絵に描いたような平凡な幸せこそ、健芯の望んだものである。


 母は全くと言ってもいいほど、健芯を受け入れようとしなかった。放任と言えば聞こえはいいが、あれは完全に放置である。父は兄貴のバクチ的人生を心地よく思ってなかったみたいで、何かあるたびに、


「健芯は賢い。人生は常に手堅くないといかんぞ。志恩みたいな生き方を母さんは手放しでほめるが、父さんには何がいいのかさっぱり分からん。健芯、お前はお前らしく生きろ」


と、言っていた。父がいたからこそ、健芯は母の愛がなくても、ぐれずにやってこられたと言っても過言でない。兄貴が生きていた頃は絶妙なバランスが成り立っていた。


 しかし、兄貴の突然の死は絶妙なバランスをいども簡単に壊した。母は仏壇の前でほとんど一日中過ごすようになった。


 そして、毎日喪服みたいな暗い服しか着なくなった。それまで派手に着飾って、いかに社交的に過ごすかを日課にしていたから、はっきり言って驚きである。


 母は着飾ってばかりいたので、喪服みたいな服を母は少ししか持ってなかった。すぐに服の替えもなくなって、母は喪服を着て、日常を過ごそうとしたので、さすがに父も止めさせてようとした。


 しかし、母は止めなかった。父はあきれて、父の姉の智香叔母さんにお願いして、黒のスカートと白いシャツを何着か送ってもらった。それを母はしたり顔で毎日着ている。


 最初こそ、近所の人々も哀れみをもって見守っていたが、今ではすっかり浮いている。そりゃ、毎日仏壇の前にずっといて、外に出るときも、いつも喪服みたいな格好で過ごしているのだから…。

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