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心を自然解凍  作者: あまやま 想
2章 残された家族の視点
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残された家族−3

「百道さん、まだいらっしゃったのですか? 今日は金曜日ですよ」


「篠栗副社長、申し訳ありません。何か、帰る気にならなくて…」


 篠栗が、伸一以外に誰もいない総務課のオフィスに入って来た。篠栗は伸一のかつての部下であったが、上の覚えがめでたいのか、五十歳にして副社長まで昇りつめている。


 もともと、人事課で長いこと一緒に仕事していた。しかし、伸一は人事抗争に嫌気がさして、七年前に篠栗を人事課長にねじこんだのを最後に、のんびりとした総務課へ飛ばされた。


「百道さん、誰もいない時に、副社長なんて呼ぶのは止めて下さいよ。私が副社長になれたのは、七年前に百道さんが人事課長に私を推薦してくれたおかげですから…」


 伸一は七年前、当時の社長から人事課長をやるように言われた際、これ以上、人事抗争に関わりたくなかったから固辞した。そしたら、社長から他に適任者はいないか聞かれたので、篠栗の名前を上げただけである。


 その結果、伸一は総務課へ飛ばされることになる。伸一は篠栗に面倒なことを押し付けたな…と思うのだが、篠栗は伸一のおかげで副社長まで登りつめたと思っている。


 人事課長だって、社長に推薦しただけで、篠栗を課長にすると決めたのは社長である。ましてや、副社長まで登りつめたのは、篠栗自身の力とコネの力である。


 しかし、伸一は副社長になったかつての部下に慕われるのは別に悪い気がしないので、あえて何も言わなかった。


「いやいや、副社長、そう言う訳にもいかないでしょう。社内では…。どこに誰がいるか分かりませんからね…」


「百道さんは相変わらずですね…。ところで今から軽くどうですか? 何かお困りのようですけど、話すだけでも少しは楽になりますよ」


「副社長のお誘いとあれば、無下にできませんね。喜んでお供させて頂きましょう」


「もう、百道さんには本当にかないませんね…」


 昔からそうだったが、篠栗はさりげない気配りがうまい。そう言うのも含めて、篠栗が副社長たる由縁だろう。最近では次期社長の呼び声も高い。


 しかし、一方で八方美人な一面もあり、気軽に相談できる人がいない。篠栗は時々、伸一を飲みに誘っては会社の相談をしていた。


 伸一にとっても、総務課にいながら篠栗経由で社内の機密事項を知れるので、それなりにメリットがあった。総務課にいると、人事課のように情報が入って来ないので、伸一にとっても有り難かった。


 七年間、窓際でのらりくらりと定年までやって来られたのは、篠栗の情報によるところが大きい。何より今は、仕事の話で夢中になることで、志恩のことから気を紛らわすことができるのが有り難かった。


 同じ窓際の同僚と飲んでも気を遣うし、愚痴しか聞かされないし、何一つメリットがない。しかし、篠栗は違う。長年、人事課で一緒にやって来て、気心がしれているから遠慮がいらない。それこそ何より嬉しいことである。

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