③ 日曜日の朝−2
ななみは、さっきとうって変わって、目を大きく見開いて父を見る。すると、父は葬儀の時、まだ、ななみの行方が分からずに途方に暮れていた時の話をした。
その後、ななみがブリティッシュ・エアラインに乗って、フランスに行っていることが分かり、ななみが生きていることを伝えに行った。
なんと、雅彦は娘が生きていることと、娘が葬儀に参列できなかった非礼を詫びに、百道家に行っていたのだ。その時に桃子から、
「どうして、あなたの娘だけ…生きているの?」
と、言われたらしい。
「もう、父さんったら…。何で、そのことを教えてくれなかったの?」
「あの時は、言えなかったんだよ。ななみが帰って来た晩に、志恩君が亡くなったことを話して、ななみがすごいショックを受けていたから、畳み掛けるようなことはできなかった。だから、一緒に行こうって言っただろう。でも、ななみが一人で行くと言い張るから…」
そんな遠回しな言い方で分かるはずないだろう…と思ったが、父は昔からこのような人だ。父は父なりに気遣ってくれたのだから、ここで父を責めるのは酷であろう。ななみは何も言えずに、黙ってコーヒーをすすることしかできなかった。
「悪かったな…。伸一さんがいれば、なんとかなるだろうと思ったけど、伸一さんは仕事でいなかったようだし…。桃子さんと二人っきりだったか…」
「うん」
「それは大変だったな…。しかし、それだけ桃子さんが母親として、志恩君を大切にしていたと言うことだよ。もし、逆の立場なら、父さんも桃子さんみたいになっていただろうな…。何より、死んだ母さんに顔向けできん…」
そう言うと雅彦は静かに席を立ち、そそくさと流しへと向かう。ななみは父の横顔がほんのりと赤くなっていることを見逃さなかった。しかし、あえて見ぬふりをした。
父がリビングから出たのを見計らってから、ななみはテーブルを片付けた。料理を作るのは雅彦、後片付けをするのはななみ…と子どもの頃から決められている約束事である。
子どもの頃から、ななみはよく台所の約束を破ったが、父はきちんと約束を守って、いつもななみの胃袋を満たしてくれた。そんなことをななみは、ふと思い出した。
それから、気分転換をしに、特に用はなかったけど、ななみはコンビニへ向かった。