③ 日曜日の朝−1
日曜日の朝、夏の終わり特有の涼しさが広がっていた。お盆を過ぎると、朝晩はいくらか暑さも和らぐ。いつものように、リビングに向かうと既に父が朝食を食べていた。
「ななみ、おはよう」
「おはよう、父さん」
ななみは洗面台で顔を洗ってから、再びリビングに戻り、テーブルに腰をかける。平日みたいにばっちりメイクをしなくてもいいし、時間にも追われないから、実に優雅である。
「いただきます!」
「ところで、ななみ。この間はどうだった?」
「この間って、何?」
「百道家へ挨拶に行ったんだろう? 桃子さん、どうだった?」
「ああ…」
日曜日のちょっと優雅な気分が一瞬にして、ふっとんだ。できれば、せめて朝食が終わってから聞いて欲しいものである。しばらく、無言でごまかした。
「さては、何か嫌なことがあったな…。」
さすがは父親である。ごまかそうとしても、すぐに暴かれてしまう。しかし、テンポがゆったりしているのは、父の優しさゆえか…。できれば、尋ねるタイミングをゆったり図って欲しいものである。
「だから、父さんも一緒に行くって、言っただろう。仮にも、息子が突然、何の前触れなく事故死しているんだ。それだけでも親は不安定になると言うのに…。義理の娘が、元気な状態で挨拶に来たら、とてもじゃないけど、平然とはしていられないだろう…」
「お悔やみを言いに行ったら、いけなかったの?」
確かに、父の言うことは最もである。しかし、何の前触れなく、そんなことを娘に言い放つとは無神経極まりない。デリカシーのかけらもない。ななみは思わず、父を睨みつける。
「そんなことは一言も言ってない。母親と息子の恋人で、故人を偲ぶのがいけない…と言っているんだ」
「何で?」
まさか、父がこのようなことを言うとは思わなかった。ななみが睨みつけるのが気にならないのか、あえて無視しているのか、よく分からないが、雅彦は何食わぬ顔でおいしそうにコーヒーを飲みながら言う。
「どっちにとっても、かけがえのない大切な人だから、どうしても感情があふれる。冷静になれるはずがない。女性ならなおさらだ」
「……」
「ましてや、志恩君は、ななみと空港で別れた後に事故にあっている。どんなに、ななみが悪くないと分かっていても、どうして、ななみだけ帰って来たんだ…と言う気持ちがわく。多分、そのようなことを言われたんだろう? 実は父さんも言われた…」
「えっ、何だって?」