② 時計の針は止まらない−6
「何をおっしゃっているんですか。確かにそうですけど、志恩がいなくなったからって…。はい、そうですか。では、家族ぐるみの付き合いは終わりですね…とはなりませんよ。そんなのあんまりです」
ななみはさすがに、それはないだろうと思い、義母に進言する。どんな立場であろうと、自分の言い分が少しでも正しいと思えば、言わずにいられない性分である。
ななみはそのせいで損することも多かったが、自分を欺いてまでうまく立ち回ろうとは思わない。
「ごめんなさい…。そんなこと言うつもりはなかったんだけど…。まあ、突然のことで私も気持ちの整理がついてないの。確かに、これまで志恩を中心に家族ぐるみの付き合いをしてきた。うちには娘がいなかったから、ななみさんは私にとっては娘ができたみたいで嬉しかった…」
「それは私もです。幼い頃に母を亡くしているので、義母さんは本当の母のようでした。」
「そう言ってもらえるとは嬉しいね…。でもね、こうなった以上、いつかは離れないといけない日が来るの…。残念だけど、それがお互いのため…」
先ほどから桃子が突き放すような発言ばかり続けるので、ななみは実にやりきれない思いだった。実の母のように慕ってきたのは、間違いだったのかとさえ思えてくる。
「いや、誤解しないでね。しばらくはこのままでいいと思う。でも、いつか、ななみさんが他の人を好きになって、結婚する日が来る頃には、この付き合いも消えるから…」
最愛の息子の死は、人をこんなにも変えてしまうものなのか…。確かに志恩がいなくなった今、いつかそんな日もくるだろう。
しかし、今言わなくていいだろう。ななみは桃子と一緒に、志恩が亡くなったことを悼むことができると思っていたのに…。こんなことを言われるとは思わなかった。今までとは違う色の悲しみが、じわじわと胸に広がっていく。
「私、帰ります。長居してすみませんでした」
「こちらこそ、ろくにおかまいできずにごめんなさいね。また、落ち着いたら、ゆっくりお話ししましょう…」
ななみは目立たない程度に、足早で百道家を後にして、さっさと車を出した。あんなことを言われた後ではとてもじゃないけど、落ち着いてゆっくり話す気分にはなれない。
志恩がいなくなったことで、世界はゆっくりとだが、確実に変わり始めていることを認めざるを得ない。そのことに、舌打ちしたい気分だ。
しかし、この世界にいない人に対して、舌打ちをすることはさすがにはばかられる。車の中で、いろんな色の悲しみがななみの心を渦巻いていた。ななみは運転中にも関わらず、音も立てずに涙を流していた。