② 時計の針は止まらない−5
「やりきたいようにやらせた結果がこれなら、親としては死んでもやりきれん!」
桃子は一気にまくしたてた。これまで抑えていた思いが、とめどなく溢れ出ている。親だからこその思いや後悔が、痛いほどななみに降り注ぐ。
しかし、桃子としては、今さら悔やんだところで過去は変えられないと伝えたかっただけだが…。やっぱり、感情を無理やり理性で押さえ込もうとしても無理であった。
「まあ、今さら、たらればの話をしても仕方ないのよね…。過去は変えられないって、分かっているんだけど…。もし、志恩が亡くなった原因について、謝らないといけないとしたら、私は死ぬまで謝り続けたとしても、親として自分自身を許せないでしょうね…」
「義母さん、そんな自分を責めないで下さい。そんなことをされたら、私…」
「苦しくなるでしょう? だから、ななみさんは自分を責めたらダメよ。それよりも、私こそ、ななみさんに謝らないといけない」
「どうして…ですか?」
ななみは、どうして桃子がななみに謝らないといけないのか、全く分からずにいた。ようやく、落ち着いた桃子が静かに言う。
「入籍はまだだったとは言え、こんなことになってしまって、ごめんなさい。志恩に代わって謝る…」
「そんな、止めて下さい…。本当に謝らないといけないのは、志恩を事故に遭わせた…バスの運転手です!」
ななみがそう言うと、桃子は静かに首をふった。どうやら、そう言うことを言いたい訳でないらしい。
「私が言いたいのはそう言うことではないの…。私が志恩の母親だから、どんな理由があろうと、息子の不始末は母親として謝る。ただ、それだけ…。それに、ななみさん、あなた、志恩と結婚できなくなった以上、私はあなたの義理の母親になることもできないのよ。志恩がいなくなった今、私とあなたをつなぐモノがないの…」
桃子の言っていることは最もであるが、ななみは急に義母から突き放されたことに戸惑いを隠せずにいた。確かに、志恩と結婚できなくなった今、桃子がななみの義母になることはない。
しかし、既に結納まですませ、家族ぐるみの付き合いもあるのに、急に赤の他人へ戻ることなんてできない…。何より、幼い頃に、実の母を病気で失っているななみにとって、桃子は義母以上の存在である。




