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6 ……誰?

6話です。じわじわとブクマが増えてて歓喜してます。

 青い液体は光り出し、みるみるうちに魔族の身体全てを包み込んでしまった。


 そして徐々に光が晴れ、その下から現れたのは、傷一つない綺麗な姿の魔族だった。


「それは?」

霊薬(エリクシール)。いつ見ても圧巻されるよな」


 霊薬(エリクシール)。単に霊薬(れいやく)とも読む場合がある。

 万物の病に効き、どんな怪我であろうと数瞬の後に治してしまうという、半ば伝説上の薬。存在すら危ういものだとする説もある。


 


 なんていう説は勿論偽りだ。俺がこうして持ってるんだから、迷信なわけがないだろう。

 霊薬、よく高難易度のダンジョンなんかの守護者(ゲートキーパー)なんかが落とす。

 ただのモンスターがアイテムを落とす構造は今でも不明だけど、一昔前までは少数ながらも流通していた。今では、一滴たりとも流通していないようだけど。


 無限収納室(インベントリ)にはまだ大量にあるし、流通させたら一躍セレブだな。そんなことはしないけど。


「あの戦いに続いて霊薬か。もう何を出されても驚かないぞ……」


 魔族を素手で圧倒しているところを目の当たりにしたトリニアは、呆れることはあれどあまり驚くことはなかった。先にこっちの準備をしておくべきだったか?でも戦闘で瓶が割れたりしたら嫌だしな。



 リオーネはまだ眠っている。よほど疲れたのか、随分とリラックスした表情だ。

 その頬を軽く小突いて、魔族の方へと意識をやる。


 リオーネと同じく、その目は閉じられていて、眠っている。この場合は気絶していると言った方が正しい。

 その顔に浮かぶのは、リラックスした表情などではなく、痛みに必死に耐えているかのような、苦悶なもの。


 こちらの方も小突く。顔面を、グーで。身体強化はするけど、硬化はしない。魔力で拳を保護する程度はするけど。これなら、音速を超えるだけのただの右ストレートだ。


「ごぶっ……!」

「おはよう。目は覚めたか?」


 右ストレートによる爽快な目覚めを提供する、水無月商会です。


 なんてふざけたことはやめておこう。

 気絶していた魔族が避けられるはずもなく、パンチは吸い込まれるように、顔面に命中した。今度は手加減したし、怪我とかもしてな……やば、鼻血出てる。折角治してやったのに。


 俺は拳をどけて、魔族の前で屈む。ヤンキー座りというやつ。



 最初は状況を飲み込めていなかった魔族だが、俺の姿を認めると、徐々に現状を理解し、そして先ほどの圧倒的な蹂躙を思い出したのか、その顔が苦悶な表情から青ざめたものになっていく。


「お、俺は何故生きて……」

「なに、俺が治してやっただけの話だ。お前からは、まだ聞きたい話もあるからな」


 片手で胸ぐらを掴んで持ち上げる。総重量100kgは超えているであろうその巨大な体躯を、片手だけで持ち上げる。それも、いとも容易く。

 その行動で先ほどのことをさらに鮮明に思い出したのか、魔族が軽い悲鳴を上げた。


「俺は別に、怒ってるわけじゃない。直接的な被害を被ってるわけじゃないからな。ただ、この地下に封印されているのが、俺たちに害をなすってなら、それを止めないわけにもいかないんだ」


 顔を少し近付け、出来る限りの柔和な雰囲気で話しかける。


 ここから一番近い人族の街、それはガッダリオンの城下街。封印されてるのが生物なのはさっきの探知で分かってるけど、もしもやばい系のアレなら、まずは力を蓄えるためにも、多くの人族が集まるあそこに向かうだろう。クソ王の話では、ガッダリオンはそこそこ大きい国らしいから、絶好の餌場だ。


 そうなれば、街への影響がどうなるか分からない。あそこには明達もいる。少なくとも、今日召喚されたばかりで、いきなり戦えるようにはなっていないはずだ。



「それを教えたら、俺は親父に……」

「親父? お前の父親は、強い魔族なのか?」


 さっきまではあんなに威勢がよかったのに、今じゃ随分と萎縮しちまって。俺は優しそうな顔をしてるだろ?そんなに怖がらなくてもいいじゃないか。流石に傷付くぞ。


 それはそうと、見た感じ重役そうなこの責務を任されているこいつの父親なんだから、それなりに強い魔族なんだろうか?


「ぼ、『暴炎のバクラ』っていう異名が付いてる」

「……あいつ、子供いたのか」




 『暴炎のバクラ』。普段はそこら辺にいる魔族と同じような姿をしているが、いざ本気を出して戦うとなると、その身体全てを炎に変えてしまうという、バカみたいに恐ろしい奴だ。

 しかも、その炎自体が奴の固有魔法で、反則臭い能力を持っている。


 それが、『不死者(フレイム・オブ)の炎(・イモータル)』とかいうものなんだが、名前からも分かる通り、決して『死なない炎』なんだ。

 炎が死なないって聞くと『ん?』ってなると思うが、簡単に言えば消えない炎だ。


 その炎に、奴の身体全てを作り変えるという、本当に反則の力。身体が消えない炎で出来ているんだから、自身も死なない。だから、『不死者の炎』。



 俺がクズ王にボイコットを起こして旅に出た後、【イスキヘル】という巨大な平原で、魔族とそれ以外の種族の連合軍による、大きな戦いがあった。

 戦いの結果だけ言えば引き分けになったのだが、この時に魔族側で英雄扱いされたのが、この『暴炎のバクラ』だ。俺も戦ったことがある。ただただ面倒臭いという感想しか抱かなかった。



 あいつ、子供いたんだな。あの強面で嫁とかいたのか。

 

「『暴炎のバクラ』、だと……!?」

「なんだ、トリニアも知ってるのか」

「知ってるも何も、魔族の英雄の一人ではないか! 『イスキヘルの悪魔』とも言われた男だぞ!」

「あーはいはい、分かってる分かってる。だから落ち着け」


 後ろでやけにうるさくしていたトリニアを空いた手で制して落ち着かせる。さりげなくおっぱい触ったけど、でかいし柔らかいし、最高だな。


 そういけばあいつ、そんな異名も付いてたな。イスキヘルでの戦い方が神話上の悪魔みたいなものだったからついた名前だっけな。


「して魔族君、もし何も言わなかったとしたら、今度は俺が怖いことをするぞ?」

「ひっ……」


 魔族を離しながらそう言うと、身体をダンゴムシのように丸めて、縮こまってしまった。情報を漏らす気配はない。


 こりゃ、ちょっとやりすぎちまったか?


 このままじゃ、情報を引き出すも何もない。

 ここは少し、彼に救いの手を差し伸べてやろう。


「じゃあ、取引をしよう」

「……取引?」


 怪訝そうな顔をする。今更何を、とでも言いたいのか。確かにフルボッコにした後だし、今更取引とか言われても、俺だって『は?』ってなるよ。


 でも、お前にとっても有益なもののはずなんだがな、これは?


「まず、お前の名前を聞かせてくれ、バクラの息子」

「ス、スーラだ」


 スーラか。バクラの息子、スーラ。覚えた。人の名前を覚えるのは得意なのだ。


 俺は先とは違って、その場に座り込んで、あぐらをかく。出来るだけ、敵意がないことを示したいのだ。俺の場合は素手だから、このままの姿勢でも問題ないのに違いはないけどさ。


「そうか。ではスーラ、この地下に封印されてるものを教えろ。その代わりと言ってはなんだが、この場は見逃してやる」


 『一つ目の提案』をしながら、右手を差し出す。握手だ。取引をする時には握手って、相馬は決まってるだろう。

 この取引自体は定番なものだ。情報を渡せば見逃す。約束を守るつもりはない!とか、そんなことを言うつもりはない。真実の情報を渡してもらえれば、この場は本当に見逃すつもりだ。


 それどころか、スーラを上手くこちらに取り込んで、逆スパイにでも出来れば、三食住居付きの好待遇生活まで約束してやってもいい。そこは彼の返答次第だ。


 俺の提案を聞いたスーラは、何度も言わせるなという風に怒りこんだ。


「だから、そんなことをすれば親父が……!」


 ああ、そうだよな。このままここにいても俺に殺される。いや、俺は殺すつもりはないけど。気絶させて国に送り届けるくらいだ。


 が、情報を渡して魔族の国に帰ったとしても、父やスーラにこの責務を与えたものたちがタダでは済ませない。最悪、死刑もあり得る。バクラのことだから、自らの子を殺すようなことはしないだろうが、彼以外が赦すかどうかが分からないからな。


 だから、ここで『二つ目の提案』をする。


「『龍腕の男』が現れた、と伝えろ。バクラのことなら、それで解決する」


 『龍腕の男』。一体誰なんでしょうね?


 いやまあ、勿論俺だけどね。バクラと戦ったことがあるっていうのは言ったと思うけど、その時に奴が俺につけた名前が、『龍腕の男』なんだ。《龍天》を使ってる時の状態のことを言ってるんだろうけど、なんだか背中がむず痒い。封印された右目が解き放たれでもしてしまいそうだ。


 俺の場合、本当に何かありそうで怖いってところが尚のこと怖いんだけど。勇者として授かった力を全部把握してるわけでもないからな。もしかしたら、そういった類のものがあるかもしれない。


 ともかく、『とある事情(・・・・・)』で、俺の名を出せば、あいつの気も収まるはずだし。スーラが恐れているような事態も起こらないだろうし。


「そんなもので親父が気を収める筈が!」

「大丈夫だ。何なら、俺も一緒に行ってやる。それならあいつは、確実にお前のことを責めるような真似はしない」

「何を言ってる! 魔族の国に同行するだと!?」

「大丈夫だって言ってんだろ? 俺に任せてろ」


 

 未だ突っかかってくるスーラに、

トドメを刺し、俺の言葉を聞いて怒りを露わにしたトリニアは、言葉で無理やり押し黙らせる。多分、ここは俺にしか出来ない仕事だからな。


 俺が行けば、こいつはある意味人質を獲得することが出来る。俺の言っていることが嘘だったとしても、情報を渡せばこの場は逃げられるし、俺が国まで付いていけば、複数の手練れで囲んで殺すことが出来て、情報を持った人間は消える。一石二鳥だ。違うか。




……ま、『俺しか』付いていかないけどな。寝ているリオーネはともかく、話を聞いてるトリニアはそのまま龍王国に帰すわけだし。



 俺の言葉に衝撃を受けたのか、スーラはその言葉を何度かブツブツと復唱して、詐欺師を見るかのような目で、俺を見つめてきた。俺にホモ気はないからな、見つめられても困る。


「それは、本当なのか……?」

「本当だ。何もかもな」


 即答。嘘を言っているわけではないからな。


「……本当に、殺さないか?」

「ああ。害にならない奴を殺す主義はない」



 またも即答。その言葉を聞くなり、スーラの疑わしいものを見る目と表情が一転。覚悟を決めた者の目になった。



「……分かった。その取引を交わす。この地下のこと、封印のこと、全て話そう」

「色好い返事で嬉しいよ。トリニアも、それでいいだろ?」

「……ふん、好きにしろ。私はもう、お前がどうなっても知らんからな」


 スーラから返ってきたのは、色好い返事だった。あそこまで譲歩したんだから、あれでダメだったら打つ手なしだ。断られたら、力尽くで聞き出すところだったさ。


 トリニアは、どうやら納得行っていないようだ。元々自分たちが追っていた敵だっただけに、他の人を巻き込むのが許せないのかもしれない。そんなに気負いしなくていいのに。


 スーラに差し出していた手が握り返され、それを少ししてから離すと同時に立ち上がる。尻についた埃や砂を叩きながら、もう一度スーラの方へ向き直った。


 スーラも同じように立ち上がっており、先ほどの封印の部屋に誘導した。そう言えば、俺たち隣の部屋に来てたんだっけな。主に俺のせいだけど。

 いや、ダンジョンの、それも封印が大量に施してある部屋の壁が、あんなに脆いだなんて思ってなかったんだよ。だって、入り口の扉は、あんなに硬くて俺の攻撃なんてもろともしないんだぜ?


「じゃあ、この地下には何が封印されてる? 俺が分かってるのは、生物だってことと、かなり大規模なものだってことだけなんだが」

「ざっくりと言ってしまえばそれで合ってる」


 部屋の中央に立って自分が把握していることを言うと、頷きながら正解だと言われた。

 やはり、地下に眠っているのは巨大な生命体で間違いないようだ。


 となると、魔王の遺した産物とか、魔神の体の切れっ端とかか?魔王の云々は可能性としては低めだろうけど、魔神の体の切れっ端、俗に言う魔神の欠片っていう可能性は、十分にあるわけだ。


 現に、魔神討伐後も、俺は何度か各地で魔神の欠片を倒している。腕から切り別れた触手とか、頭から生えてた触手とか、タコ足の一部とか。戦った日の晩は、自作の人工触手でリオーネを弄ってストレス発散していたのは内緒だ。触手ばっかり見てたら、いかがわしい妄想だってしちまうだろ。


 

 おっと、話が逸れたか。つまり言いたかったのは、俺が推測しているのは、ここに眠っているのは魔神の欠片だっていうものだ。


「ここに封印されてるのはな——」


 スーラが勿体振るように息を継ぎ、数秒溜める。場に沈黙が流れる。俺もトリニアも、妙に緊張して、額から汗が流れる。



 そして、スーラが告げた名は、俺が全く予想だにもしていなかった答えだ。


 いや、こんなもの、予想出来る方がおかしい。普通、俺みたいな状況にあれば、誰だって予想出来ない。出来る奴がいたとしたら、そいつは予知能力者か何かだ。





 だって……だって……




「——《邪神クロムス》だ」







……誰なんだよ、それ?

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