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38 決着なんです

一人称戦闘は苦手です。修正はいつかするので、今はこれでご容赦していただきたく……。

「……『汝、我が手足となりて、舞え。黒曜』」


 途端に、ハクハから『異質』な力を感じた。

 本来のこいつの力じゃない。これは……闇の力か


 何だ、一体。何が起こってる。闇の魔法? いや、これは魔法じゃない。魔力は感じない。

 固有能力? だとしたら、一体いつ手に入れた。ハクハは帰ってきて1ヶ月程度だと聞いた。その間に手に入れたというのか?


……あり得る。こいつなら。理不尽、不条理を極めたような男だ。何があったとしても、不思議じゃない。



 ハクハの周りを、黒い何かが渦巻いている。あれは、文字か? 右肩の大きな刻印のようなものを中心として、ハクハの体に纏わりつくような形で、大量の文字というか記号というか、そんなものが。


「噛め」

「っ!?」


 渦の中から聞こえた声に反応して、両腕を胸の前で交差させる。そこへ、黒い文字群が突撃してくる。龍のような形を作って。


 ハクハの『噛め』という言葉通り、そいつは噛み付いて来ようとした。砕こうと、破壊しようとして拳を打ち付けるが、一部分が削れるだけで、大部分の破壊には繋がらなかった。


 小規模の『龍神滅槍(ガングロアー)』で何とか全てを破壊しきり、その正体を探ろうとした頃には、ハクハの『変貌』も、終わりを告げていた。


……何だ、これは。


「最近さ、火力不足を痛感してたんだよ。どうしても、お前たちの防御力を抜けなくてな。それで、強い攻撃力が欲しいって願い続けた結果、こうなった」

「冗談キツイぜ、ハクハ……!」

「冗談なんかじゃないさ。かっこいいだろ? でっかい鎧みたいで」


 これが、冗談と言わずして何と言うか。


 ハクハには変わりはなかった。否、あるにはあったが、気にならない程度だった。文字群が部分的に鎧のようなものを形成して、その周りを小規模の文字群が幾つも浮遊している。ただそれだけだ。


 だが、浮かんでいるそれはなんだ。巨大な……腕、だと?


 あいつが手を握ると、後ろの巨大な腕も連動して手を握る。腕を振り回すと、後ろの腕も振り回す。


 とても、普通の光景には見えなかった。


「よし。待たせて悪かったな。もう少し楽しくなると思うから、許してくれ」

「く……あははっ! なんだそりゃぁっ、俺の知らねぇ間に、物騒なもん覚えやがって! 楽しませてくれるのか!?」

「ああ、きっとな」


 笑いが止まらなかった。腹の底から溢れてくる笑いを抑えようとしても、逆に酷くなる一方だった。


 俺は今から、アレと戦うのか。人1人分程の大きさのある腕を、2本も相手取って。


 それに加えて、あいつの力は未知数と来た。今も昔も、あいつと喧嘩するときは、短期決戦で臨まなきゃならない。俺自身が長期戦闘に向いてないというのもあるが、あいつには魔力の底っつうもんがねぇから。


 だから、余力は残さない。数分でケリをつける。










 これが、3段階目の『黒曜』だ。何というか、ゴツくなった。体に纏う刻印たちは形にまとまりを見せるようになったし、俺単体だけで見れば、そこまで違いはないんだ。数が段違いに増えたってだけで。


 問題は、このデフォルトでついている『腕』だ。腕、と言っていいんだろうか。刻印が集合して腕を形成しているだけであって、形はこれにこだわる必要はない。あくまでも、腕がデフォルトだったってだけだ。


 今の俺は、蠢く鎧を身に纏って、巨大な腕を2本従えているような、そんな姿だ。


「行くぜ? 言っとくが、もう手加減は無しだ」

「来い。その意味の分からない性格、叩き直してやる」



 リゲスが出た。爆発的な速度で突き出された右腕を、刻印を操って弾き、代わりだと言わんばかりの刻印付きの右ストレートをお見舞いする。流石に刻印に攻撃が弾かれるとは思ってもみなかったのか、一瞬だけ驚いていたが、それは一瞬にとどまり、リゲスもまた、俺の攻撃を弾いた。


 今までの俺なら、ここで終わっていた。だが、今は違う。


 ここで数歩分距離を取り、何もない空間を殴る。それに呼応して、背後の巨大な腕がリゲスへと迫る。


 圧倒的質量と威力。その2つを兼ね備えたこれを、簡単には防げまい。


 そう、楽観的な思考を抱いていたのだが、そう簡単にも行かず、腕を交差した必死な形相のリゲスに防がれてしまう。


「うぐ、ぎっ……」

「う、このチート野郎め……!」

「だ、ぁぁああ!」


 何とか押し切ろうとしたが、叶わず、大きく弾かれてしまった。この質量差で弾くとか、こいつの筋力、一体どうなっている。


 けど、ここでやられるか。やられてたまるかよ。


「しっ!」


 左側にあった腕の刻印を崩し、手に持ってから再形成する。突起のついた長細い紐状になった刻印で、そのままリゲスを打つ。


「チィッ、何だそりゃ、鞭かっ!?」

「見りゃ分かんだ、ろ!」


 鞭打ち乱舞。こういう武器は使ったことはなかったが、適当にやればなんとかなるものだ。


 意外にも効いているのか、鞭を防御しているリゲスの表情は辛そうだ。鋭い痛みというのが走るから、効きやすいのかもしれない。


(チャンスッ!)


 鞭を手放してバラバラに戻し、自動で腕に変形させておく。その間に自分はリゲスの懐に潜り込み、一撃を加えようとした。


 腕部分の刻印を高速で回転させ、先の尖っていない簡易ドリルのようなものを作り出す。貫きはしないが、威力は増すだろう。


 その簡易ドリルで、アッパー……!


「喰らうかぁ!」

「喰らえよ……っ」


 当たるかと思われたその攻撃は、咄嗟に身を捻ったリゲスに回避された。


 攻撃を避けたリゲスは、そのままステップし、凄まじい炸裂音を放ちながら蹴りを放ってきた。

 しまった、アッパーは空振りしたら、隙が大きすぎる。刻印で防御を……!


「『龍神滅槍(ガングロアー)』っ!」

「ば、足から……!?」


 何と、足の先から『ガングロアー』を放ってきたのだ。


(ぜ、全力防御……っ、殻!)


 浮いていた巨腕2本を解体し、即座に自らの体を守る殻を形成する。


 視界が黒い刻印に遮られたかと思うと、直後、真っ白な光に覆われた。


「ぐ、おぉ……っ」


 今まで味わったことがないほど強烈な衝撃に襲われ、数mほどずり下がってしまう。


 自らを守る刻印が、外側から消されていくのが分かる。本家の『ガングロアー』というのは、やはり強力なものだった。もっと堅牢なものであるならばまだしも、即席のもので防げるようなものではない。


 かと言って、転移で逃げることも出来ない。この空間ではどこに飛ぶか分からないし、そもそも、黒曜の発動中は魔法が使えない。


 レーザーのような光は勢いを落とさずに、こちらの体を押してくる。力がなくなるまで耐えれば、何とかなるかもしれない。


「さっさと倒れろ、ハクハァ!」

「んなこと言われて、倒れる阿呆がいるか!」


 体中の魔力を全集中させ、また、巨腕以外の部分の刻印も総動員させて、ギリギリ『ガングロアー』を防げる程度のシールドを作り出していく。多少のダメージは覚悟の上。大部分を防げればそれでいい。


「つら、ぬけぇぇぇ!」

「させるかぁあああ!!」









 超高出力エネルギーと、超高密度の防御壁。この2つが全力で衝突した時の結果というものは、いとも容易く想像することが出来るだろう。


 恐らく、狭間の空間が許容出来る限界に、限りなく近かったであろう。爆発……いや、爆発とも言えないようなものだった。


 光の槍の主、龍神の少女は、その反動で吹き飛び、真っ黒な盾の主、元勇者の少年は、あまりの勢いの強さに吹き飛ばされた。



 2人とも、起き上がらない。この勝負、引き分けで終わるかと思われた。



 しかし。


「あ、はは……ははっ」


 龍神は立った。見ていられないような姿ではあったが、立った。何が楽しいのか、笑いながら。


「俺の……勝ちか、ハクハ……!」

「馬鹿、野郎……。んなわけ、ねぇだろ……っ!」


 少年もまた、立ち上がった。傷だらけ、刻印もその数を減らしていたが、立ち上がった。


 両者、常人から見れば、明らかに戦闘の続行など不可能なように見える。龍神の足は出力過多のせいでボロボロ。少年の腕はそれを防いだせいであらぬ方向に曲がっている。


 けれど、その目からは、闘志の炎が消えていなかった。真っ赤に燃え上がる紅蓮の炎が、確かに見られた。








「こ、『黒曜』……っ!」


 折れた腕を魔力で無理矢理補強し、何もない空間を殴る。残った刻印で巨腕2本を何とか作り出し、攻撃を試みたのだ。


「さっさと倒れろ、よっ!」

「お前に負けてたまるかよ、リゲス……っ!」


 既に満身創痍だった。右腕は折れ、左腕に関しては砕けているだろう。他の部分も痛む。無事なところなんてないくらいに。


 けれど、それはこいつも同じはずだった。あの爆発に巻き込まれたのだ。見た目からして、無事なはずがない。


 3606戦1803勝1803敗。今のところ、引き分けだった。あいつが決着をつけると言ったのは、つまり、これを3607戦目として真の勝者を決めようということだろう。こいつのことだから、どうせ、「もう一回」と言うに決まっていたが。


 巨腕がリゲスの小さな体に迫り、リゲスはそれを手を突き出して受け止める。だが、奴の体もボロボロで、それを耐えきれるほどの力は残っていなかった。


「ク、ソッ……。流石に、力を使いすぎたかっ……」

「調子乗って『ガングロアー』連発なんかするからだろうが……!」


 あれは、見た目よりも遥かに力を使う。俺の劣化版でそうなのだ。本家の消費というのはどれほどのものなのか。一度聞いた限りでは、本気で撃つのは2発が限度だと。あまりの高出力エネルギーに、たとえ龍神の肉体であっても耐えられなくなるそうだ。


 1度目の『ガングロアー』は本気ではなかった。が、その後に弱いものを何度か。そして、先ほどの本気の撃ち合いだ。とうに限界を超えていてもおかしくはない。


「打ち砕けっ!」

「あぐっ、うぁっ」


 激痛が走る中、腕を何度も振り下ろし、巨腕を打ち付ける。その度に苦悶の表情を浮かべるリゲスに、我ながら非情だなという感想を抱かなくもなかった。


 腕と腕が打ち合う爆音の中、一瞬、それとは違う小さな音が聞こえた。



 何かが砕けるような音が。


「ば、か……もう少し耐えろ……!」


 どこか、逝ったか。


 もう少し、もう少しだ。


 2本の巨腕を解体、1本の巨大な槍のような形状に変化させ、回転させながらリゲスへと突撃させる。腕を振る動作に合わせて、遅くはないスピードで放たれた槍は、当たりこそはしなかったが、リゲスが即席で張った防御壁を貫通してくれた。


 そのまま奴の背後へと飛び去った槍を、再度解体し、自分の手元へと寄せてきて、今度は普通サイズの剣を数十本作り出し、一気に射出する。



 俺の戦闘能力は、良く言えば、リゲスに迫るもの。悪く言えば、総合的にリゲスよりも少し劣る。


 が、それは総合的に見て、だ。俺が唯一リゲスに勝てる自信を持っているもの。それは、この火力だ。お互い、攻撃力だけを比較すれば、俺の方が上だ。

 しかし、防御力も加味するならば、やはり短期決戦が望ましかった。俺は、あいつが全力で防御に回る前に仕留めなければならない状況にあった。



 けど、この『黒曜』があるならば。もしかすると、それすらも覆せるかもしれなかった。


「喰らうかぁ!」

「ちっ、戻れ!」


 すんでのところで飛来する剣たちを砕き、躱したリゲスが、真っ赤なオーラを纏いながら迫ってくる。


 右から迫る拳を黒曜で防ぎ、右の回し蹴りを繰り出すが、屈むことで躱される。


「だらぁっ!」

「がっ……はっ……!」


 そのままの状態、足のバネを使った全力のアッパーを、もろに受けてしまう。よろよろと後退し、口に付着した血を拭う。


 後少しなのに、攻めきれない。リゲスも攻め始めてきた。防御に回れば、負ける確率は高くなる。攻めなければ負ける。しかし、決め手に欠ける。


 そこで、俺は『ある提案』をすることにした。


「なあ、リゲス……」

「なんだ、降参か……?」

「ちげぇよ……。次の一撃で、決めようって提案をだな」


 言うと、リゲスは驚いたような顔をした。


「真面目に戦うのは諦めた、か?」

「俺もお前も、もう限界だろうが。見栄はってんじゃねぇぞ……」


 あいつの見た目もそうだが、動きからして、限界を超えているのは分かる。これは、奴にも魅力的な提案なはずなのだ。


 迷ったのか迷っていないのか、返答はすぐに返ってきた。


「……いいぜ。次の攻撃、立ってた奴が勝者だ」



……ノッてきた。狙い通りだった。



 そう言ったリゲスに近寄って行き、静かに右手を差し出した。


「なら、握手だ。ケリをつける前に、な」

「ここで攻撃するのは勘弁しろよ?」


『にひひ』と笑いながら言い出すリゲス。それも考えたが、どのみち防がれそうなので却下した。全身ボロボロだったが、腕は無事だったのか、握手に問題はなかった。



——さて、どうなるか。



 お互いに目で合図し、距離を取る。


「いいな、リゲス」

「ああ、準備は出来たぜ、ハクハ」


 少し元気になったのか、肩を回しながら魔力を高めていくリゲス。その感じには覚えがあった。というか、さっきも使っていた。


 あれは、『ガングロアー』だ。それも、極大のもの。


 おかしい。あれだけボロボロなのに使うなんて、自殺行為だ。仮に俺を倒したとしても、自分もただでは済まないではないか。


 そう思っていたところに、奴は補足した。


「本当なら撃てるはずはねぇんだが……。何せ、ここは『仮想空間』だ。傷はすぐに治る。死んでもな」

「お前、そんな魔法まで使ってこの空間作ったのかよ……」


 『仮想空間』。正確には、それらを形成する魔法。

 その中で受けた傷や死んだ人間は、外に出れば全てが無かったことになる。大人数で組むのが前提の大規模な術式で、主に貴族の学校の演習場なんかに使われる魔法だ。


 リゲスはそれを、この狭間の闘技場に仕込んでいると言った。なんつうアホだ。道理で、後先考えずに突撃してくるものだと思ったよ。



 リゲスの腕の先に、青い魔力と赤いオーラが集っていく。2つは混ざりながら、黒い何かを作り出した。


 あれは滅気と呼ばれるものだ。龍神だけが使える魔力に似た非なるもの……赤いオーラと、通常の魔力を混ぜた際に発生するもの。名の通り、触れたものを滅する効果がある。


 だが、触れたものを滅してしまうがために、自分さえも滅してしまうんだ。あいつは体がアホみたいに強いから即座にってわけじゃないだろうが、痛みはあるだろう。本気だ。


「滅気、全開だ……。避けられると思うなよ、ハクハ」


 右拳を引き、それに引かれるように滅気も付いていく。


 そして、放った。


「『極・龍神滅槍(ガングロアー)』!!」


 視界全てを覆うような、黒い何か。もはや、槍ですらないと思うのだが、これが全力のものなのだと言う。


 ドーム状のこの空間、全てを埋め尽くすように放たれているので、逃げようにも逃げられない。今この瞬間にも、目の前まで来ようかとしている。



 そんな滅びを前に、俺は、黒曜を——






——解いた。


「『転移(・・)』」


 短距離転移によってリゲスのすぐ後ろに現れ、再度黒曜を展開し、全ての刻印を右手に集結させる。それはまるで、一つの巨大な剣のようだった。



「な、なんでっ!?」


 そうだ、この空間では転移が使えない。あまりにも座標なんかが揺らぎすぎて、無理矢理に使えば『いわのなかにいる』ならぬ『ひとのなかにいる』を実現してしまうかもしれないから。


  そうだ。俺の転移、および空間魔法は、空間そのものを把握しなくちゃいけない。だから、短距離での転移以外は戦闘中に不向きなのだ。



 しかし、俺の魔法は……。



握手した(・・・・)のが運の尽きだったな、リゲス!」

「てめ、まさかっ!?」



……あの時、お前の体に、『目標』をつけさせてもらったよ。『転移を可能にするため』に。本当に、本当にごく弱いものだったから、お前にも分からなかっただろう。


 目標となる加工した俺の魔力を、リゲスの体に付着させて、準備自体は全て終わっていたのだ。後は、リゲスが『自分の視界も塞がるほどの大きな技』を使ってくれるのを待ち、死角を狙って転移するだけだった。座標の把握は必要ない。目標となる俺の魔力を辿るだけだったから。



 右腕に収束させていた刻印を、リゲスの体目掛けて全力で振りかぶる。

 俺の右腕を支柱として形成された巨大な剣のような刻印は、その小さな体に真っ直ぐと向かった。


「らぁぁああああっ!!!」

「させ、るかぁあああああっ!!」






 真っ直ぐと、貫いた。


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