4 意外なるトリニアと発見
あらすじの方にも追記してあるんですが、本小説は『書けたら投稿』というような形ですので、更新ペースが非常にバラバラです。慣れてきたら一定ペースにするので、今だけはどうかお願いいたします。
誤字、脱字の指摘など、随時募集しています。
トクン、トクン、と独特の魔力の波長が合うような感覚がして、頭の中に声が聞こえてくる。
《……ん? この感覚は一体……》
「おいお前どういうことだよこいつ神龍種どころか龍王国とかいうところの軍の副軍団長じゃねぇかよそもそも侵攻も何もしてきてねぇじゃねぇか報告ってなんだ報告ってちゃんと確認したのかギルドの連中はこれ俺たちじゃなかったら確実にビビって気絶でもし」
《待て待て待て待て! 落ち着いてくれ! その声は、ハクハか……?》
ティルマが事態を理解するよりも早く、思いの丈をぶつけてやった。残念ながら途中で遮られてしまったが、言いたいことの半分くらいは言えたか。
しかし、落ち着けとは言われたものの、15分しか時間ないしな。細かく言えば後14分も残ってない。要点だけ言っていこう。
「……はぁ。いいか、15分しかないからな。手短に、必要なことだけを言っていくぞ」
《いや待ってくれ! 全く以って話が見えん! 一体何の話をしているんだ!?》
制止の声なんてものは耳にも入れず、現状を理解出来るだけの最低限の説明をしていく。
「俺が討伐を頼まれた地龍な、あれこの近くにいるらしいっていう魔族を倒しに来た、龍王国の遣いだった。今そいつと魔族の探索してるんだけどさ、あ、そういやそいつの名前トリニアって言うんだけど、その関係で今軽くなんちゃって龍騎士状態だからさ、もし空飛んでる地龍とか見かけても追撃しないでくれよ」
……MAXスピードでな。
《ちょ、ま、落ち着いてくれ! なんだって? 近くに現れた龍を捜すために、魔族と一緒に行動してるだと?》
「お前が落ち着け」
慌てるティルマは今の状況と全く違うことを言っていた。魔族と協力して龍を探してどうするつもりなんだ。百害あって一利なしだよ、それ。
わざとらしく呆れたポーズをとって、ため息を吐く。仕方ない、もっとゆっくりと、丁寧に説明してやろう。
「後一回しか言わないからな、よく聞けよ? 迫ってきてた地龍ってのは味方で、この近くに出たっていう魔族を倒しに来てたんだ。細かいことは理解出来ないだろうから省くけど、今そいつの背中に乗って魔族捜してるから、空飛んでる地龍を見かけても、撃ち落としたりするなよ?」
今度は間々を空けて、分かりやすいように説明した。最初からこうやって説明していれば楽だったんだろうけど、それじゃ俺の怒りが収まらないからな。そこまで怒ってるわけでもないけど。
あわわわ、とか言いながら話を聞いてたティルマだったが、今度は理解出来たようで、落ち着いて俺の言ったことを纏めだした。
《よ、要は地龍は敵じゃなくて、魔族が出たからその警告を出しておくようにってことと、空飛ぶ龍を撃ち落とすなっていう命令を出しておけということか?》
「そういうこと。まあ、流石に地上から攻撃当てられるような奴はいないだろうけど、念のためな」
地上2km地点の動く的に当てるって、かなり難しい技術だしな。それでも、当てられる奴は当てられるし、言っておかなくて撃ち落とされでもしたら終わりだし。
トリニアは副軍団長なんだろ。なら、それなりの戦闘力はあるだろうし、もし攻撃が飛んできても避けてしまいそうだけどな。念には念をだ。
何より重要なのは魔族に警戒するようにっていう勧告の方だしな。これは伝えておかないと、俺たちが痛い立場になるし。これで結局、魔族を見つけられなかったとしても、言ったのが《龍神リゲス》だったと知ったら、上の奴らも黙るだろ。
《わ、分かった……それで、この感覚は何なのだ? 頭の中に直接声が流れるような……》
「あ、お前帰ったら説教な。首洗って待っとけよ。じゃな」
話を続けようとするティルマの話を無視して、最後に言うだけ言って指輪の機能を停止させる。今のティルマの表情が楽しみだ。俺のお説教は長いからな。数時間は続くという覚悟を持っておいたほうがいいぞ。あ、それを伝えておいたら良かった。まあいいか。
『……ハクハ。荒ぶってるな、お前』
「これが俺のデフォルトだ」
トリニアから突っ込むような声が聞こえて、それに軽快なノリで返す。別に荒ぶってないよ。ちょっと楽しいけどな。
リオーネは相当集中しているのか、さっきから何一つ話さない。たまに意味の分からない単語を呟くけど、多分地上の様子に関して何事か呟いてるんだろう。
トリニアは鼻唄を歌いながら空の旅をしている。今回の目的はどこかへ行くのではなく、出来るだけ広範囲を探るためだから、あまり速すぎるスピードは出せない。リオーネの知覚感度を超えたら探知出来ないからな。
龍なんて、本気出したら簡単に音速を超えやがるからな。そんなスピードを出されたら、探知どころじゃなくなる。振り落とされちまう。
俺と言えば、やるべきことというか、伝えるべきことは伝えたから、やることが無くなってしまった。
無限収納室の整理でもするか?でもそれなら、もっと広い空間じゃないと、中のものを出せないしな。
少し本気で困ったな。何か役立つことでもしたいんだけど、リオーネはこうなってしまった以上、手を出せば逆に足手まといになるし、トリニアに関しては何をどう手伝えばいいのかすら分からん。
こうなったら、身体強化で視覚でも強化して、目視で魔族を探すか?全力で強化をすれば、数km先くらいまでなら見渡せるし、何かしらのヒントを掴むくらいは出来るだろう。丁度空の上だから、これと言った障害物もなくて、見渡しもいいしな。
「よっと、『強化』」
両目に部分的な強化をかけて、視力を超強化する。途端に、遠くを歩いている商人の団体が目に入る。これ、調節が難しいんだよな。
キリキリと、カメラの倍率を変えるような感じで、元に近い状態へと持っていく。
……よし、これで大丈夫。後はここから、ズームインやアウトを駆使して、何かしらの手がかりを探っていく。
まずは右手の方向。ズームインで地面近くを探ってみるが、特にこれといって目ぼしいものはない。視点を空に向けて見るが、こちらにも何もない。こっちはハズレか。
次は左手の方向。同じく地面を探ってみるが、魔物と戦っている冒険者たちが見えるだけで、他には何もない。空にも何もない。やはり、そんなに簡単に手がかりなんて見つからないか?
めげずに後方を探る。結構渓谷からも離れてきたな。
こっちにあるのは小さな丘と、後はちょっとした村か。あんな村あったのか。緑に挟まれてる場所だし、環境には恵まれてそうだな。
あっちの丘は、何度も行ったことがある。今は花が散ってるけど、春になったら桜が咲くんだ。花見にも幾度となく来たし。いやまあ、こっちにいたのが数年だから、幾度となくって言っても数回なんだけどな。
そうだなぁ、落ち着いたらまた、リオーネと来よう。あそこの地下に張り巡らされてるダンジョンからは美味しい水も採れるし。
そういえば、あそこのダンジョン、奥の方に変な扉があったんだっけ。鍵穴もなかったし、力技でも開かなくて諦めたけど、結局奥には何があったんだろうな。
んで、前方にああああああぁぁぁぁぁああああああああ!?
「ダン、ジョン……!?」
『む、どうかしたのか?』
そうだよ、何で気付かなかったんだ。渓谷からは少し離れてるけど、あの小さな丘の地下には、ダンジョンがあるじゃないか。
しかも、その奥には、如何にもな雰囲気の『開かない扉』があるじゃないか!
「リオーネ! あの丘! あの丘に全力で探知魔法! 出来れば地下深くまで!」
「え? ……あっ」
言われたリオーネも気が付いたようで、焦った顔で探知魔法の方向を、全方位から丘の地下一点だけに切り替える。一点だけにすることで、さらに精密性が増すのだ。
そこそこ大きなダンジョン全体を探知している途中、俺はトリニアに頼んで丘の近くまで運んでもらった。彼女は何が何だか分からない風だったが、俺の予想が正しければ、じきに分かるはずだ。
「ハクハ、当たりだよ! 奥深くの方に、魔族の独特な反応がある! 地下深くだから、言われなかったら絶対に気づいてなかったかな、これは……」
「やっぱりか……!」
当たりか外れか、正直に言ってしまえば五分五分だったが、今回は当たりの方に軍配が上がったようだ。
『二人とも、出来れば私にも分かるように話して欲しいのだが』
頬を緩ませて喜ぶリオーネとハイタッチを交わしていると、事態を理解出来ていないトリニアにそう聞かれた。
「おほん、この丘の地下にはな、自然に出来たダンジョンがあるんだ。その奥深くに、どうしても開かない扉があってさ。もしかしたら、って思ったんだけど、どうやらその通りだったみたいだ」
『ふむ……では、魔族はその奥に用があったと?』
「そうなるだろうな」
軽く咳払いをしてから説明すると、トリニアは一発で理解してくれたようだ。どっかの無乳女とは大違いだな。
トリニアにダンジョンの入り口の場所を説明したら、そのすぐ真ん前で降ろしてくれた。このダンジョンの入り口は、丘にある何かの石碑を退かすと出てくるのだ。地下に続く階段がな。
ズズズっと、大きな石造りの石碑を横にスライドさせて動かすと、下から同じく石造りの階段が出てきた。
最近はあまり使われていなかったのか、階段は埃まみれだった。が、一つだけ、真新しい足跡があった。魔族のものだな。この道を使ったのは間違いないようだ。
このダンジョンも寂れたのか?昔はもっと活気があったはずなんだが。ああ、確かにこのダンジョンの敵は少し強めだから、初心者が来るのは厳しいかもしれないけど。
「よし、二人とも! 準備はいいか!」
「おっー!」
『お、おー』
階段を背にして掛け声をあげると、元気よくリオーネが手を突き上げて返事をし、トリニアは少し恥ずかしそうに前足を少しだけ上げた。ダメだなぁ、こういう時はもっと元気よく、羞恥心なんて捨てないと。リオーネを見てみろ。あの純粋無垢な表情。もはやただの幼女だ。
まあいい。皆の準備も出来たところで、早速ダンジョンに乗り込……む……?
「あ、上がったテンション折るようで悪いけど、トリニアはどうするんだ? 人の姿になるのか?」
自分でテンション上げさせといて話の筋を折るみたいで本当にすまないと思うけど、このままじゃトリニアが入れないからな。階段の大きさは人1人が通れるくらいのものだし、明らかにトリニアサイズの龍が入るとは思えない。
となると、人の姿になるのか。龍人だったよな。あれになれば通れるだろう。元がこれほど大きい龍だから、龍人状態でもどれだけ大きいか分からないけど。大きすぎて通れないなんてことになったら、残念だけど留守番だ。無限収納室にいい魔道具があったら別だけど、全部を把握してるわけじゃないし。
『ん、少し待っていろ。こういう時のための龍人族だ』
言うと、トリニアの体が光り出した。やっぱり龍人になるのか。こういう変身ってロマンだよな。リゲスの奴、俺に龍になれる技とか教えてくれねぇかな。光り輝く龍になって、俺参上!とかやってみたい。
徐々に光が小さく、小さくなっていき、人の形へと落ち着く。光はまだ完全には無くなってないけど、大きさ的に言えば俺よりもかなり小さいな。俺が178cmくらいだから、160cmから165cmくらいかな。
そして、完全に光が収まり、中から龍人となったトリニアが現れる。
「……は?」
「……ほぇ!?」
「どうした? 二人して、あり得ないものでも見たような顔をして」
が、俺たちは恐らく、今がこっちに来てから一番驚いた。
髪は綺麗な紅色。前が大胆に開いた衣装を身に纏っていて、その胸部にはエベレストが二つ。ムチムチ感が出ている非常に艶っぽい太ももは露出されていて、男性からの嬉しさの悲鳴が溢れそうだ。
モデルにでもなれそうなほど見事なくびれがあり、背中から尻にかけてのラインは絶妙なバランスを誇っている。筋肉はあまり多くない。が、無駄な脂肪も付いていない。適度に引き締まった肉体だ。
背中には赤褐色の小さな翼が生えていて、腰の下部から尻にかけての間くらいから、龍の時の尻尾をそのまま小さくしたかのような、槍のような尻尾が生えている。また、体の所々には赤褐色の鱗が見られる。
背はさっきも言った通りの160cm中盤くらいで、顔付きは女性、というよりは少女。美しいというよりは、可愛らしいという言葉が似合うようなものだった。尻尾や鱗のことを抜きにして考えれば、中学生から高校生くらいに見える。
「い、いや……なぁ?」
「う、うん……」
俺たちは今、最高に驚愕して、言葉を失っていた。
だって……
「「トリニアがそこまで美少女だとは思ってなかった」」
「お前たち、一回死ぬか?」
何処からともなく取り出した漆黒の槍を両手で構えたトリニアを二人して落ち着かせ、もう一度よく観察してみる。
やっぱり、龍の時の姿からは想像が出来ないほどの美少女だ。副軍団長で見た目があれなもんだから、てっきり厳つい顔の女の人かと思っていた。
けれど蓋を開けてみればあらびっくり。リオーネにも負けず劣らずの可憐さを持った美少女だったとは。いや、念のために言っておくが、俺はリオーネ一筋だぞ?本当だからな?
それに何というか、服装がだな、大胆すぎてだな。露出は激しいし、おっぱいなんてゆさんゆさん揺れてるし、非常に目に危なくも幸せな光景となっている。
「……ふぅ」
もみゅ、もみゅ。
「なんでそこでおっぱい揉むの!?」
「命の危険を感じた」
「それは大丈夫なのか?」
「主にトリニアのせいだけどな」
おうそうだよ、トリニアのせいで命の危険を感じた。原因としては出血死だ。鼻からのな。リオーネのおっぱいでも揉んでなかったら、本当に獣にでもなってしまいそうだ。
「トリニアのせいでボク、おっぱい揉まれるなんておかしいよね?」
何もおかしくなんてないさ。俺の目は誤魔化されない。トリニアは確かにエベレスト級のおっぱいを持ってはいるが、リオーネも服を脱いだら同じサイズはある。リオーネも十分エベレスト級だからな。
ティルマ?あいつはそうだな、阿蘇山レベルだ。
「それより、トリニアの件も解決したし、早く入ろうぜ。本来ならこんなところで話してる余裕もないだろ?」
そうこうしているうちにも魔族は何かしらの目的を進めているはず。早くしないと手遅れになってしまう。
「むぅ、ハクハに言われるのは納得いかないんだけど……」
「まあ、こいつの言うことも尤もだ。今は魔族を追うことが最優先だからな」
リオーネは完全に納得していない様子だが、それをトリニアが抑えている。最初にふざけ始めたのは俺だけど、ちょっとやりすぎてしまったか。目的を完全に忘れていた。
悪いのはあんな大胆な格好をしているトリニアと、柔らかくて豊満なおっぱいを持つリオーネなのだ。俺は、何も、悪くない。
結局、頭を撫でてやったら許してくれた。子猫っぽい。
「じゃあ、気を取り直して出発だ」
「ボクは魔族の動きを把握しておくね」
「後ろは任せておけ」
陣形は決まった。俺が1番、トリニアが3番、リオーネが間の2番だ。
リオーネには出来る限り、魔族の動向をチェックしていて欲しいから、真ん中に配置して敵から遠ざける。いくらリオーネでも、戦闘をこなしながらの探知は厳しいだろうからな。
無限収納室から『消えない灯火』という松明型のマジックアイテムを取り出し、リオーネに火をつけてもらう。
これは昔、とあるダンジョンで手に入れたマジックアイテムで、一度火をつければ、点けた者が念じない限り火が消えないという優れものだ。
そう、マジックアイテムと魔道具の違いなんだけど、ダンジョンなんかで取れる天然物の魔力が込められた品を『マジックアイテム』、魔道技師たちが作成した道具に魔力を込めたものを『魔道具』と呼ぶ。まあ、明確な差はない。他人から見れば、マジックアイテムも魔道具も見分けはつかないしな。
身近なところでいうと、この『消えない灯火』はマジックアイテム。『輪廻のローブ』や『念話の指輪』が魔道具だ。
ま、曖昧なものだっていう認識でいい。要は『魔力の込められた特別な品』だってことだ。
松明が暗い階段を照らす。一段、また一段と、踏み外さないようにゆっくりと進んでいく。意外と急な階段だから、踏み外すと割と痛い。
特にこれといった問題もなく階段を下り終えた。眼前に広がっているのは、見覚えのある、石造りの遺跡のような回廊。
「このダンジョンに来るのも久し振りだな」
「最後に行ったのっていつだっけ?」
「帰ってからの期間も合わせるんなら、3年か4年前じゃないか?」
花見には来るけど、わざわざダンジョンに潜ることはなかったからな。
ダンジョンの壁には勝手に火がつく謎の松明が設置されているけど、いかんせん古いものだから、あまり明るくない。『消えない灯火』は手放せない。
「ハクハ、あっちだよ」
探知をしていたリオーネが指差したのは、早速二又になっていた道の、左のほうだった。
「分かった。トリニア、後ろは任せたぞ」
「ああ、矢の一本も通さん」
いつでも戦闘が出来るような状態にはしておいて、リオーネが指差した方へと歩いて行く。
「せいっ!」
「ほっ、とうっ、と」
トリニアが槍を振るい、俺はひたすら殴る。トリニアが槍を振るうたびに、蝙蝠やリザード系列の敵が真っ二つになり、俺が拳を走らせるたびに、クラブ系やスコーピオン系の敵の甲羅にヒビが入る。
このダンジョンに出てくるのは、確か一律Bランク以上。強力な敵となると、Aランクにも及ぶ。
そんな敵をものともせずに倒してしまう辺り、トリニアの実力は本物だな。素手で倒してる俺も俺だけど。
いやでも俺の場合はほら、《龍天》を使ったとしても徒手空拳だしさ。素手が慣れてるんだよ。身体強化とか身体硬化使えば、そこいらの武器なんかよりは、ずっと強力な武器になるし。
「……これで終わり、か?」
「そうみたいだな」
20数匹の魔物を倒して、一息つく。俺たちは三人とも、まだ全く息切れすら起こしていない。体力には自信があるメンツばっかりだし、当然っちゃあ当然かもしれないけどさ。
俺たちがダンジョンに侵入して、もうすぐ1時間半。ここって、奥までこんなに長かったか?慎重に進んでいるから長く感じるのか、それとも本当に長くなっているのか。
まさかこのダンジョン、まだ成長途中とか?
ダンジョンと言うのは生きているから、当然成長もする。大きいダンジョンというのは、最初から大きかったわけではなく、小さな小さな空洞が、徐々に徐々にその敷地を広げていって出来るものだ。
このダンジョンが出来てからどれくらいの時が経つのか知らないけど、可能性は十分にあるよな。
それでも、そんなに急激に大きくなるはずもないから、そろそろ着く頃だろうけど……
「着いたよ!」
噂をすればなんとやら、だ。
目の前には、開け放たれた扉。俺たちが何をやっても開かなかったはずの扉が、こうして開いている。
「魔族の反応は、この奥からだよ」
「そうか。おつかれ、リオーネ。少し気を休めててくれ」
「……うん、そうさせてもらうよ。流石にちょっと、疲れちゃっ、た……」
ずっと脳を働かせっぱなしだったリオーネの額に軽くキスをして、気持ちよく眠ってしまったリオーネをトリニアに預ける。ずっとだったもんな。疲れちまうのも分かる。気持ち良さそうに寝てるから、起きる前に解決してやりたいな。
よし。魔族の居場所さえ分かれば、後は俺の仕事だ。リオーネにばっかり頼ってちゃいけないよな。
扉の先へと進む。部屋の中は他の場所に比べて明るかった。『消えない灯火』はもういらないな。
虚空に展開した無限収納室に直すと同時に、部屋の中央に何かの影を認めた。
人影だ。
気配を殺して近くまで進んでみると、そいつは人影ではあったけれど、人ではなかった。
黒い肌。人のような肌ではなく、ごつごつとした、大きな鱗のようなもの。悪魔のような細い尻尾に、翼。
頭からは角が生えていて、その鋭い瞳は見たものを恐怖のどん底に陥れるかのようだ。
徐々に気配を現し、自分たちの正体を主張する。すると、そいつは俺たちの方を向いて、殺気たっぷりの声で言った。
「……誰か来るって連絡は、来てなかった筈なんだけどな」
若い、見た目からして暴力的そうな男の魔族。
こいつが、トリニアが捜していたという魔族……か。