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28 謎の力と謎の男

久しぶりの2日連続更新です。


また、たまたま見つけたのですが、一瞬だけ日間の中間ら辺に名前がありました。もう消えてるかと思いますが、それでも嬉しかったです。



……一体、これは何だ。この能力は、何なんだ。


 俺は、バリスなる翼の生えた男と、空中で死闘を繰り広げていた。奴は武器も何も持たず、また、自ら攻撃してこようともしない。

 リリィも、隙を縫っては矢を放つ。放たれるたびに一閃となって瞬く矢だが、残念ながら、バリスに致命傷を与えることは出来ずにいる。


 バリスは現在、軽傷だ。不意打ちでリリィが与えた腕の傷、そして、稀に命中する俺の拳。それ以外は無事と言える。


 対する俺はどうだろうか。外見上は無傷のように見える。が、体の節々に謎の痛みが走っている。攻撃を受けたわけではない。しかし、ダメージは受けている。


「おらおら、さっきまでの威勢はどうしたァ!」

「うっ、さい……!」


 痛む脇腹を庇うこともせず、渾身の右ストレートを加えるが、その拳は、異様な方向へと曲げられてしまう。

 腕がぐにゃりと、バリスの右手側に曲げられる。


(攻撃を曲げる能力? いや、それもあるだろうけど、それだけじゃないはずだ)


 でないと、攻撃を受けていない俺が、ダメージを負う道理がない。

 となると、反射か? 攻撃を曲げ、そしてそのダメージを反射する?


「くっ……」

「なんだ? もう終わりか?」


 距離を取り、策を考えていた俺を、からかうようにしてバリスが言う。


 奴の能力が、本当に攻撃を曲げてダメージを反射させるというものなら、事実上無敵ではないか。太刀打ちしようがない。


 が、おかしいのは、稀にではあるが、こちらの攻撃が通っているということだ。腕の傷は不意打ちだったからだとしても、俺の拳によって傷を与えられているというのは、どういうことだ。


「リリィ、体に痛みとかはないか」


 リリィが浮遊している地点まで後退して聞いた。曲げた地点に与えられたダメージを反射しているなら、距離に関係はなく、リリィにも痛みは発生しているはずだ。距離に関係がなければ……の話だが。


「首と、後は肩の辺りが痛むわね」

「丁度、矢が当たろうとして曲げられた場所か……。腕は大丈夫なのか?」

「ええ、特には」


 首と肩をさすりながら答えたリリィに聞き返すと、腕は痛まないという答えが返ってきた。


 俺の予想していた答えと、概ね同じ答えだ。曲げられた地点のダメージはあるが、不意打ちによって、途中で曲げられたが、擦り傷程度でも、正式にダメージを与えた部分に痛みはないらしい。俺の体にも言えることだった。


 それが分かったところで、どうということはない。対処方法が分からないのだから、どうすることも出来ないだろう。


「随分と余裕そうにしてるんだな、お前」

「はん。実際に余裕なんだよ。てめぇらの攻撃なんざ、オレの能力の前じゃ無力だ」


 睨みを利かせて言うも、逆効果となってしまった。


「その能力、湾曲と反射か?」

「ちげぇな。全然ちげぇ。てめぇの推察能力はそんなもんか?」


 全然違うと来たか。


 なら、なんだと言うのか。能力が何なのかも分からない。その上、分かったとしても対処出来るかが分からない。


……本格的に、『詰んだ』か?


「だとしても、ここは譲れないけどな!」

「おおっとぉ。良い動きしてんじゃねぇか。だが、おせぇぜ?」


 瞬時にバリスへと肉薄し、連打を浴びせるが、全て曲げられてしまう。そして、今まで自分から攻撃しようとしてこなかったバリスが、初めて反撃に出た。


 パンチのために突き出した俺の右腕をつかんだバリスは、それをそのまま引くと、近付いてきた俺の顔面目掛けて、全力で拳を打ち付けた。


「がっ……!?」

「ほれ見ろ。てめぇがおせぇから、オレも飽きて手が出ちまった」


 遅い拳だった。だが、この状況で避けられるはずもなく、真正面から受けてしまう。短距離転移をする暇さえなかった。そもそも、腕が掴まれている状態で転移しても、結果は同じだ。


「おぉ、意外と硬ぇな」

「うぐ、がぁあ!」

「おっと」


 バリスが呑気にしているのを見て苛立ち、力任せに腕を解きに行った。力には自信があった。


 空いた手で思い切り奴の体を掴んで、体から引き剥がす。その流れのまま後退し、声が聞こえたために体を横に逸らした。


「《封魔の矢》」


 避けなさい。その言葉と同時に俺の横を過ぎていった矢は、バリスの心臓目掛けて走った。


 だがやはり曲げられる。心臓に命中するかと思われた白き矢は、不可解なまでに曲がり、逸れ、奴の右後方へと消えた。


「……《封魔の矢》が、効かないですって?」

「魔法を打ち消す矢とは、中々粋なことをしてくれんじゃねぇか、女ァ?」


 リリィは驚愕する。魔法を打ち消すはずの矢なのに、変わらず相手に曲げられた。


……奴のあれは、魔法ではない? 種族的な、あるいは魔法以外の何かなのか?


「くそっ、どうする……!」

「悪いけど、奴を倒す方法、なら、私にも思い浮かば、ないわよ……」


 ダメージを反射されたのか、胸の部分を押さえながら、苦しそうに息をするリリィが言った。


 彼女は見るからに限界が近い。魔法……彼女の弓と矢は強力なのだろうが、その分、放つたびに彼女からは大量の魔力が失われているように思う。消費も大きいのだ。


「せめて、攻撃が当たれば……」

「もうギブアップかァ?」

「んなわけ、ねぇだろ。直ぐにボコボコにしてやるから待ってろよ」


 目一杯粋がってみるが、かく言う俺も限界が近い。魔力の方は減らないから良いとしても、体力ばかりはどうにもならない。傷のない痛みの方も問題がある。


 何より、謎の力によって攻撃が曲げられ、逸らされる。命中しないのなら、どれだけ打ち込んでも、無駄な体力の消費でしかない。


 何か、何か無いか。奴に致命傷を与えられる、決定的な一撃は。


「バリス、もたもたしている暇はない。早々に決めろ」

「へいへい、偉大なる計画のため、だろ? めんどくせぇことこの上ねぇんだがなぁ」

「偉大なる計画?」

「おっと、これ以上は言えねぇな」


 うっかりしたとでも言いたいのか、八重歯を見せてニカリと笑ってみせる翼の赤男。偉大なる計画、一体何のことだ。

 また何か、戦争のことでも考えているのか。また、命が奪われるのか。罪のない命が、無慈悲なこのクズ王によって。


「させ、ねぇよ!」

「良い顔じゃねぇか。怒りと憎悪に染まった、『悪』の顔だ」


 俺たちの間にあった距離は、俺の転移によって一瞬にして食い尽くされ、俺は奴の背後に現れる。体を捻り、渾身の回し蹴りを喰らわす。


「ダメダメだなぁ、てめぇは」


 蹴りが命中するその瞬間に、振り向いたバリスと目が合う。


 金色の瞳が、鋭く、悪戯に光る。


 1度目に瞬きをした時には、奴の右腕が消えていた。


 次に瞬きをした時には、腕が俺の眼前まで迫っていた。


 そして、気が付いた時には、顔を鷲掴みにされていた。蹴りは奴の左手に受け止められていて、微かなダメージを与えることしか出来なかったようだ。


「いっぺん、落ちてこい(・・・・・)

「なっ……!?」


 宙に浮かんでいた俺の体を、奴は思い切り遠くへ投げた。


 音速程度ならゆうに超えているのではないかと思わせるほどの速度で、俺の体は、簡単に地面に向かって墜落していった。


 流石に、これを受けたら、まずい……!


 転移を使って回避しようと企むが、上手く脳が働いてくれない。どうしても、痛みの方に意識がいってしまう。


 ダメだ、この程度の痛みに集中を削がれて、どうする! こんな、肉体の痛み(・・・・・)なんて、収まってしまえばそれまでだろう!


 こんなのもの、心の痛み(・・・・)に比べれば、屁でもないはずだろう……!


 と、自分を躍起させるが、現実は厳しい。魔法は上手く紡がれず、霧散して消えるだけだった。


「ハクハぁぁーッ!!!」


 山なりに飛んでいった俺は、巨大な爆発音のようなものを轟かせ、地面に墜落した。











 夢のようなものを見た。いや、夢ではないかもしれない。夢かもしれない。違うかもしれない。


 その何か分からないものの中で、俺に語りかけるものがいた。


『やあ』

「お前……誰だ?」


 声がした方……後ろに振り返ると、頭部のない男がいた。いや、男なのかどうかも分からない。不自然な頭部以外を見るならば、胸の膨らみもなく、服装もまた、男のものだ。ゆえに、男だと断じた。


 男はゆっくりと笑った。頭はない。表情がない。だから笑っているのかも分からない。ただ、こいつら笑っているのだと、そう感じた。


『僕かい? 君自身とも言えるし、全くの別人とも言える』

「……何が言いたい?」

『今はどうでも良いことだろう? 君は力が欲しい。違うかい?」


 俺の方へと開いた手を差し出し、そしてギュッと握り締める。


「お前が、力をくれるとでも?」

『違うよ。僕は、既に君の力だ』

「……どういうことだ?」

『分からなくてもいいよ。でも、君自身も、僕の力を使ったことはあるんじゃないかな?』

「……お前……」


 こいつの言っていることは理解出来ないが、心にはすっと入ってきた。理解は出来なかったが、理解した。分からなくても分かる。そんな不思議な感覚に襲われて、小さな頭痛にも襲われる。


 何だ、こいつは。一体、俺の何を知っている。俺がこいつの力を、既に使っている?


 それではまるで、こいつが俺の能力自身だとでも、そんな風な言い草だ。案外、それもあるのかもしれない。勇者として召喚されて、その時に得た能力のことを、俺はまだ、完全には把握していない。空間魔法が使えて、その他の魔法は使えない。魔力量は膨大で、使えば使うほどに回復速度が早くなるため、実質的に減らない。


 俺自身が把握しているのは、実際その程度のものだ。時折頭によぎる『超直感』も、あれが一体能力なのかなんなのか、そんなことすら分からない。


『種明かしはまだ早いよ、白羽君。僕の真髄は、君にはまだ早い』

「じゃあ、何故今出てきた? 何をしに、こんな夢を見せている?」

『アレを倒したいんだろう? ヒントだけでも与えてあげようかなって、そう思っただけさ』


 二ヘラと笑いながら——直感的にそう感じた——、差し出した手を戻し、そんなことを言い出した。


「ヒント……?」

『君はもう、奴を倒すだけの手がかりは得ている。得ているけど、気が付いてないだけだ』

「何の、話だ?」


 手がかりを……得ている?


 それつまり、それに気付きさえすれば、俺は奴を倒せると、そういうことか? 手がかりとは、一体なんだ?


 突っかかろうとした時、謎の男はそれを片手で制し、真剣な口調になった。


『……奴は、君に触れていただろう? 何故、奴は最後、君の蹴りを受け止めたんだい? 君は奴に触れられない。でも、それは本当に、君だけに言えることかい?』


 男が話しているのは、最後、奴が俺を投げた時のことだ。俺が転移で奴に蹴りを入れようとしたら、それを手で受け止められ、頭部を鷲掴みにされた。

 頭の中で、あの時の状況と、男の言葉を繋ぎ合わせていく。



 カチリと、パズルのピースが、ハマった気がした。


「……そういう、ことか?」

『そういうこと。勘の良い子は好きだよ』


 気付けば、男の体は消えかかっていた。砕けたガラスの欠片みたいに、体の端から、徐々に消えていく。


『それじゃあ、早く行くといい。のんびりしてると、手遅れになってしまうよ』

「待て、お前の名前だけでも……!」


 淡い光となって、儚く消えていく男に手を伸ばしながら、叫ぶ。手は届かない。最初に向かい合った時よりも、距離は離れていた。


 段々と離れていく男を、走り、追いかける。俺が近付くたびに、男は離れていく。速度を上げれば、その分早く遠くなっていく。追いかければ追いかけるほど、男とは遠ざかっていく。


『あはは、名なんてないよ。ただの能力(・・)だからね』


 その一言だけを残して、男の体は消えた。それと同時に、体が妙な浮遊感に襲われて、そのまま意識を失う。夢の中で意識を失うとは、これまた奇妙な体験だ。





「…………っ!」


 次に意識を覚ました時、俺は大きなクレーターの中心で、傷だらけになって倒れていた。

 満身創痍。そんな言葉がぴったりと似合う。


 でもまだ動ける。手はくっついているし、足は地を蹴る能力を全う出来る。何一つとして欠陥はない。少しばかり肉体が痛むだけだ。


 地に手をつき、支柱として、ゆっくりと立ち上がる。体は既にズタボロだ。本来なら、動くことさえままならないほどの怪我だ。


 それでも動こう。そこに敵がいるのなら、救うべき相手が、世界があるのなら、立ち上がらなければならないんだ。


「……行くぞ」


 いつか、自分と妖精王を鼓舞させるために使った言葉と、同じ言葉。しかし、意味合いは違う。


 謎の男と話したからか、気分は最高なまでに落ち着いている。今までの怒りはどこに消えたとでも言いたいくらい、気分爽快だ。


 バリスは言った。俺の顔が、怒りと憎悪に染まっていると。


 ならば、それさえも動力源にしてしまえばいい。怒りも、憎しみも、恨みも。全てを力に変え、今、お前を討ってみせよう。


 魔力を足場にする使い慣れた手法で、跳び出す。狙うはバリスとヌィアーザの討伐。






 その日、地から天に目掛けて、一筋の黒い流星が翔けた。

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