幕間 その頃、勇者たちは
勇者たち三人のお話です。なろう作品って、割と勇者はイラつくキャラに設定されて、俗に言う『ざまぁ』的展開が用意されてるのが定番ですよね。そういう展開も好きなんですが、出来ればこの勇者君たちには、好感を持てるようなキャラでいてほしいんです。
王様のキャラ、難しいです。特に口調が。
「白羽……」
行ってしまった幼馴染の後を追いかけず、その場で呆然とする。
なんだよ、元勇者って。そんな話、してくれたことないじゃないか。突然そんなこと言われて、『はいそーですか』って納得出来るほど、俺の頭は柔らかくないのに。
「火野君は知ってたの?」
「水城さん……いいや、知らなかったよ、白羽が勇者だったなんて」
心配してくれたのか、後ろから水城さんが声をかけてくる。
知ってるわけないよ。というより、今のこの状況だって、全然信じられない。白羽がよく見てるアニメや漫画なんかでは、こういう展開は日常茶飯事なのかもしれないけど、俺は詳しくないから。
だから、こういう時もどうすればいいか、分からない。
俺たちは、白羽が言っていた通り、一般人だ。戦いの『た』の字も知らないような。いきなり世界を救ってくれって言われて、そんなことが出来る力なんて、俺たちにはない。
「って、希菜子、何してんの?」
「え、いえ、何か手の甲に、文字みたいなものが浮かび上がってて」
水城さんに釣られて後ろを向くと、十島さんが何やら右の手の甲を眺めて、『ほー』とか『うわー』とか言っていた。
何だろう。文字? 手の甲に文字……浮かび上がる?
自分の手を見てみるけど、そこには何もない。
……いや、違う。これは、左の手の甲だ。右の手の甲には、確かに、十島さんが言っていた通り、見たことがない文字のようなものが浮かび上がっていた。
何だ、これ。文字自体は読んだことがない。文字、というよりも刻印みたいなものだろうか。剣みたいな形になっている文字群の周りに、幾つもの小さな文字群がある。
……おかしい? この刻印みたいなものを形成している文字、見たことがない。
けれど、読める。見たことがないはずなのに、読める。意味が、理解出来る。内容が、頭に流れ込んで行く。
「うぐ……っ!」
「火野君……? 大丈夫?」
頭が痛い。酷い頭痛だ。頭が割れそうなほどに。
収まらない頭痛に耐えながら、俺は何かに操られるように、左手を右手の甲に重ねた。
浮かび上がっていた刻印のようなものは、左の手のひらへと移り、手よりも少し大きいくらいのサイズに『拡張した』。
そして、右手を何かを掴むような形にして左の手のひらに重ね、言葉を紡ぐ。
「『断て……紅玉』?」
そこに書いてあるのとは、違う言葉。この文字を見た瞬間に、頭に流れ込んできた言葉。
その鍵とともに、『抜剣』する。
刹那、左手、いや、左腕全体を覆うように赤い炎が燃え盛り、離した右の手には、炎を纏う真紅の剣が握られていた。
剣身には無数の文字の羅列。先ほどの刻印を形成していた文字と、同じもの。
「……って、え?」
……俺は今、何をしてる?
意味の分からない模様に手を重ねて、頭の中に響いた何かの通りにすれば、いきなり剣が現れた。何だこれ。
「ちょ、火野君! 私たちもヤバイことになってる!」
「えっ!?」
自分のことに気を取られすぎて、他のことに全く意識が向いていなかった。
水城さんの悲鳴のような叫びが聞こえ、顔を上げて2人の方を見ると、2人の方でもなにやら怪奇なことが起こっていた。
水城さんの方は、手首と足首辺りから、無数の文字で形成された『翼』が生えていた。よく見れば、周囲を少しだけ、水の玉のようなものが漂っている。
十島さんの方は、俺のと同じように、文字がぎっしりと刻まれた長杖を持っていた。よく見れば、彼女の足元に、小さな砂の嵐のようなものが発生していた。
第一感想、意味が分からない。
「勇者方……それは一体何か?」
「いや、俺たちにも分からないんですけど……」
困惑している王様に聞かれるけど、本当に分からない。
心当たりが全くもってない。皆無だ。これが何なのかも、何で俺たちにこんなことが出来るのかも、さっぱり分からない。
……一つだけ、心当たりがあるとすれば。
『なあ、明。ファンタジーに出てくる勇者が、なんで強いか知ってるか?』
『いや、知らないけど』
『それはな……それぞれ、何かしらの反則級能力を与えられるからなんだ』
昔、幼馴染と話したことが、脳裏をよぎる。
ファンタジーの勇者。それが強いのは、反則級能力を与えられているから。
だとすれば、俺たちがこの変な剣を呼び出したり出来たのも、その反則級能力が与えられたから……なのかもしれない。
ただ、確証がない。
(白羽……まだ、そう遠くへは行ってないはず……!)
「王様、すみません。白羽……さっき飛び出していった奴、探してきます!」
「ちょ、火野君!?」
「火野さん!?」
皆の制止も聞かずに、部屋から飛び出していく。
白羽、どこにいるんだよ?
★★★★★★★
「見つからない……」
王城を飛び出して数時間、まだ白羽は見つかっていなかった。この街は広い。けど、白羽だってまだ、街の中にいると思うんだ。ただの勘だけど。
でも、そうじゃなくちゃ困る。もう外に出てしまっていたとすれば、あの意味の分からない力のことも聞けずじまいだ。
そうだ、あの剣だけど、念じれば直ぐに消えた。右手の甲にあった刻印だけど、浮かび上がっていたそれも、手の甲に直接描かれたような形になっていた。刺青みたいだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
数時間全力で走り続けていたせいで、もう体力も限界だ。
……それも、おかしい話だけど。
だって、全力で走ったなら、普通数時間も疲れないはずがない。こっちに来る前の俺なら、間違いなく数十分程度でバテていたと思う。
身体能力も、上がっている。心なしか、視力や聴覚なんかの五感も鋭くなっている気がする。
「もう……ダメだ……」
とうとう足が限界を迎えた。近くにあったベンチに腰掛け、息を整えながら流れ行く人混みを見つめる。
色んな人がいる。初めは急いでいたから気にも留めなかったけど、明らかに人じゃないのも混ざってる。猫をそのまま人にしたような人? も人に猫耳を生やしたような人も。
そういう人の大体が、日本では見られないような特徴を持ってる。
(人族……って、多分俺たちみたいな奴らのことだよね。それ以外の種族もいるってことは、治安はいいのかな?)
中々に理解のある少年である。
【ガッダリオン】は人族の国として栄えているが、基本的には『来るもの拒まず』の姿勢を貫いている。ゆえに、街の中には人族だけでなく、様々な種族が在住している。亜人差別などがないのだ。それだけに、治安が良いといっても、間違いではないのかもしれない。
ただ、そんな治安の良い街の人混みから、不穏な話を耳にする。
「知ってる? 大きな地龍が現れたって話」
「知ってるわよ。騎士様たちが討伐隊を編成してるっていう、あれでしょ?」
(龍……?)
近くで話している女性二人の話を、少し強化された感覚のある耳が拾う。
この世界にはそんなものまでいるのか、という感心とともに、襲われたりしないのかという一抹の不安。
俺は襲撃にあったら、戦う術もなく、真っ先に殺されそうだな……なんて考えていた。
「それがね、二時間くらい前だったかしら。勤務中に支部長室の前を通った時に聞こえたんだけど、なんでも、元SSSランクの冒険者が現れたんですって」
「ええ!? ……それ、本当なの?」
(SSSランク?)
冒険者? っていうのはやっぱり、人々が困ってたら助けるみたいな、あの団体?
そのSSS……凄いんだろうか。基準が分からない身としては、それがどれだけ凄いのかも分からない。
「それでね、その人に討伐を依頼したのよ。名前は何だったかしら……」
「SSSランクの冒険者がいたら安心だろうけど……」
どうやら、女性Aのほうは、その冒険者がいるところの職場で働いているようだ。それくらいメジャーだったら、俺もある程度知ってる。『ギルド』、だよね?
「……ああ、思い出したわ」
女性Aが、名前を思い出したのか、頭に電球を浮かべて言った。
「ハクハ・ミナザキ? みたいな名前だったわ」
…………
(ハクハだーっ!?)
思わず噴き出してしまって、周りから変な目で見られる。いや仕方ない。
ハクハ・ミナザキ。多分ハクハ・ミナ『ヅ』キだと思う。部屋の外から聞いていた、扉越しだったなら、そういう聞き間違いも生じるだろう。
多分、いやこのタイミングで凄いかもしれない冒険者って、それ確実に白羽だ。来て早々何をやらかしてるんだ、あいつは。農夫にでもなるんじゃなかったのか。何だ地龍の討伐って。ふざけてるのか。
でも、二時間前。彼女が話を盗み聞きしたのが。となると、もう街にはいないかもしれない。白羽のことだ。決まった瞬間に向かってるに決まってる。
「……戻ろうか」
王城で、あいつの帰りを待つしかないのかもしれない。あいつが王城に帰ってくるかは分からないけど、帰って来なかったらギルドってやつに話を聞きに行く。
トボトボとした足取りで、王城へと戻っていった。
「水無月君、見つかりましたか?」
「あいつが地龍の討伐に向かったとかいう意味の分からない話を聞いた」
「……よく分からないけど、大変だったんだよね」
「地龍……ここに迫ってきているという、あの地龍か……?」
謁見の間に戻って来るとそこには誰もおらず、皆部屋を移動したと入口の騎士に言われた。
案内通りに進むと、そこは応接間のようなものだった。そこで警備の騎士が二人、国王様に、その向かいに座る水城さんと十島さんの二人。
扉を開けて入っていくと、皆は一様として驚いた。
「もう無理……あいつには付いていけない……」
「かなり精神的に参ってるわね、これ」
十島さんの隣しか空いていなかったので、そこに腰掛ける。
俺たちが全員揃うのを待っていたのか、その瞬間に国王様が口を開いた。
「勇者方……宜しいかな?」
「あ、はい。すみません、いきなり飛び出して」
「いや、そちらは良いのだ。それよりも先に、確認しなければならないことがある」
「確認しなきゃいけないこと?」
「ああ……」
神妙な顔になっている国王様が言う。恐らく、あのことだ。
「勇者方は、戦う覚悟はお持ちか?」
「……」
戦う覚悟。多分だけど、白羽があの場で、一番言いたかったこと。俺たちに覚悟もないくせに、戦場に立たせたら容赦しないっていう、国王様たちに対するあの警句。
それとともに、覚悟がないのなら戦場に立つのはやめておけっていう、俺たちに対しての警句。
「先ほどの勇者に言われたことではないが、我々も、無理やり召喚しておいて、『戦え』と言うことも出来ぬ」
俺たち三人からは言葉がない。皆、黙っている。
「出来れば、この世界を救ってほしい。だが、もし戦いたくないと言うならば、我々はあなた方が元の世界に帰るまで、この城で、安全を保障しよう」
「帰る方法……あるんですか?」
「過去にガルアースに召喚された歴代の勇者たちは、一人を除いて元の世界に帰ったという記録が残っておる」
「実際に、水無月君は帰って来てる。帰る方法があるっていうのは、本当だと思うよ」
ああ、そうだ。国王様はこう言ってくれてる。俺たちは一般人だ。変な世界に勇者として召喚されたからって、それは変わらない。戦いたくないなら、ここで平穏に暮らしていればいい。なんなら、冒険者になって、ちょっとした冒険を楽しむのもいい。
無理に、危険なところに向かう必要はないんだ。
「ゆえに、戦う覚悟をお持ちか、ここで聞いているのだ。お持ちならば、我々はあなた方が一流の戦士になれるよう、出来得る限りの支援をさせてもらうつもりなのだ」
戦わずに逃げるか、戦うために剣を取るか。
「……火野君、どうするの?」
「俺は……」
十島さんを挟んで向こうから水城さんに聞かれる。
俺は、人助けがしたい。誰かを救いたいってのはただのエゴで、ある人に憧れてるからってのが本音だ。
その人は、俺を助けてくれた。何度も、何度も。初めて会ったのは幼稚園の頃。俺が大きな犬に襲われてるところを、助けてくれたんだ。
不良に絡まれてるところを助けてもらったこともあるし、車に轢かれそうになったところを助けてもらったこともある。
あいつは、強い。俺なんかとは比べ物にならないくらい、心が強い。『必要があれば世界を救う』なんて、あんなもの嘘だ。俺は知ってる。あいつが誰よりも正義感が強いこと。
俺は、そんなあいつの背に憧れた。今までは無理だったけど、今は違う。あいつを追いかけて追いかけて、ようやく追いつけるかもしれない『チャンス』が来たんだ。
俺は、人助けがしたい。憧れていたあいつよりも、もっとずっと、多くの人を救いたい。それで、『凄いな』って褒めてもらいたい。誰からでもない、あいつに。
ズキリと、頭が痛む。それを押さえ込んで、答えを捻り出す。
とっくに、答えは決まってるだろ?
「俺は、やります」
「火野さん……」
「火野君……」
俺のその言葉に、水城さんと十島さんは反論はしなかった。
「ようやく、ようやくあいつに追いつけるかもしれないんです。そのチャンスを、棒に振ったりは出来ない」
折角力を手に入れた。意味が分からない、刻印のような力だけど、人助けに使えるのは間違いない。
「それに、目の前に困ってる人がいて、自分にそれを救う力があるかもしれなくて。それでも救わないっていうのは、俺が嫌だ」
そうだ。あいつに憧れているからというのもあるけど、目の前の人を見捨てるのは、憧れ云々より、『俺の』気分が悪い。
改めて国王様に向き直って、姿勢を正して。
「……救えるかどうかは分かりません。それでもいいなら」
「……心から感謝する、勇者よ……」
安堵したのか、国王様は大きく息を吐き、少し涙を流した。
大袈裟だとは思う。俺がいなくても、強い人は沢山いる。少なくとも、白羽は大丈夫だ。あいつがいれば、世界の危機なんて、どうにでもなってしまいそうな感覚さえする。
俺が言ったのを聞いた水城さんと十島さんは、お互いに見合わせて、小さな笑みをこぼすと、二人ともに国王様に向き直って言う。
「あーあ、火野君に格好良いところ、全部持っていかれちゃったなー。ね、希菜子」
「本当ですよ。私たちにだって、格好くらいつけさせてください」
その口調から察するに、二人も……
「では?」
「私たちもやります、王様。一人だけを戦わせるなんて、嫌ですから」
「世界のために、っていうのはまだ重たいですけど、あくまで火野君と佳奈ちゃんを守るためなら」
「感謝する……」
水城さんは、一人だけを戦わせない、逆に言ってしまえば、自分だけが逃げるのは嫌だという理由。
十島さんは、まだ世界を救うとまでは行かないけど、身近な、水城さんや俺を守るために戦うという理由。
どっちも、俺と同じで、まともな理由ではない。けれど、それでもいいじゃないか。
だって、俺たちは『一般人』なんだ。詩人が詠う物語に出てくるような、綺麗な解答なんて持ち合わせてない。
俺たちの答えを聞いた国王様は、お付きの騎士の一人に、直ぐに命令を出した。
「君、彼らを」
「はっ!」
騎士が部屋から飛び出し、どこかへ走り去っていってしまう。
その光景を眺めながら、また話しかけてきた水城さんに、返事をする。
「……良かったの、火野君?」
「……うん。いいよ、これで」
「そっか……」
これで良い。きっと、白羽がこの場にいたら、『上出来だ』とも言うだろう。
それから数分が経ち、戻ってきた騎士の後ろには、三人の人物がいた。
一人目は腰に刀を差した、黒髪の大きな男性。身長はゆうに190を超えているのではなかろうか。厳しい顔付きで、俺たちを眺めている。
二人目は長い亜麻色の髪の女性。頭からはピョコンと、猫耳が生えている。よく見れば、同じ色の尻尾も生えている。一人目と違って、武器なんかは持っていない。その代わりに、手には籠手のようなものを嵌めている。
三人目は、これまた女性で、こちらは緑の髪で長い。髪だけでなく、耳も長い。背には老人たちが使うようなものではなく、魔法使いが持っているような、細やかな装飾がなされた杖を背負っていた。
「勇者方、紹介致しよう」
全員が入室し、扉が閉まったのを確認すると、国王様が順に説明をしていく。
「右の者が、剣術指南役のカルラ。担当は火野様」
「よう」
黒髪の男性が声を上げる。見た目に合う、渋い男の声だ。
「中央の者が、武術指南役のエリア。担当は水城様」
「よろしくね」
拳を打ち鳴らしながら、亜麻色の髪の女性が声を上げる。
「そして、左の者が、杖術兼魔法指南役のライラ。担当は十島様だ」
「よろしくお願いしますね、皆さん」
緑の髪の女性が、ゆったりと微笑みながら挨拶をする。
「以上の者が、勇者方の師匠という形になる」
この人たちが、俺たちの師匠。俺の師匠のカルラさんは、何だか厳つい目で睨んできている。正直に言おう。怖い。本当にこの人とやっていけるんだろうか。
カルラ……迦楼羅? 何だったか、インドかどこかの昔の話であったような。ガルダを前身としたうんたらかんたら、って話だった気がするけど。
黒髪でカルラって名前、この世界にも日本とかアジア圏みたいな国があるのか? なんて、全く関係のないことを考えていた。
「よ、宜しくお願いします、カルラさん」
「うっわ、すっごい綺麗な髪……」
「ライラさん、宜しくお願いします」
それぞれの師匠の前に立ち、握手で挨拶をする。俺も手を差し出した。握り返してくれたけど、この人力強い。おかしい。加減はしてくれてるんだろうけど、もう痛い。手が潰れるかと思うほどの力だ。というか目が怖い。
二人の方は穏やかに進んでる。俺だけ、俺だけか、これは。
「今日はもう疲れたであろう。これで終わりとさせていただく。部屋は係の者に案内させよう。そこで、ゆっくりと休むといい。明日からのことは、指南役の者に聞いてくれ」
「あ、ありがとうございます、国王様」
離された未だ痛む手をさすりながら、国王様の言う通りに、案内役の人に部屋に通された。
広い。そしてでかい。そして大きい。その上綺麗だ。何度かホテルに泊まったことあるけど、そんなのよりも全然綺麗だ。テレビで見るような、ロイヤルスイートルーム? みたいなものよりも綺麗に見える。それもそうか、ここ王城だもんな。
ベッドに倒れ込み、少し目を閉じると、今日起きたことが脳内で整理されていく。
白羽が、元勇者だった。変な刻印が出てきた。戦う決意をして、怖い師匠が出来た。
(ふぁぁ……)
ダメだ。色々ありすぎて、細かいところを整理しきれない。それと、眠い。まだ夕方くらいのはずだけど、さっき走り回ったせいもあってか、体の疲労がピークだ。
明日からは、ハードな訓練が始まるんだろうか。あの人……カルラさんの訓練、かなり辛そうだ。寝ておかないと、まずい気がする。
寝よう。明日からに備えて。白羽を探せなかったのは痛いけど、そのうちひょっこり帰ってくると思う。あいつ、なんだかんだ言って心配性だから、『様子を見に来ただけだ』とか言ってこっちに来そうだ。
そんなことを考えながら、思考をシャットアウトする。明日から、頑張ろう。
それから三日後のことだった。白羽が、王城に顔を出した。
第一声は、『別に、様子を見に来ただけだ』だった。
本当はこの後、もう一話幕間を入れる予定だったのですが、予想以上に長くなってしまい、「あれこれ章として書いた方がよくない?」ということになってしまったので、次回からは2章ではなく0.5章になります。