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20 別れ、帰還、復帰

最後の方、脱力してよく分からないことになってるので、修正する可能性があります。

 跳んで跳んで跳んで跳んで跳んで跳んで跳んで跳んで跳んでーっ!


 あ、どうも、水無月 白羽です。こっちの世界ではハクハ・ミナヅキって名乗ってます。フルネームで名乗ったことはありませんが。






 ただいま、跳びまわって(・・・・・・)おります。


 え、状況が読めない? それもそうですか。突然のこの状況に、戸惑いを隠せない方も、さぞ多いことでしょう。


 では、少しだけ回想シーンに突入するとしましょう。回想シーン担当の、ミナヅキさーん!



 はーい! 回想シーン担当の、ミナヅキでーす! ただいま、リオーネから放たれている魔法を、避けていまーす! ぶっちゃけ、何発か掠ってます、痛いです!





……なんて、ふざけたことは無しにしよう。ちょっとやってみたけど、これは想像以上に辛い。こういう仕事には、絶対に就かないでおこう。


 何故、俺がリオーネに魔法をぶっ放されているのか。その理由は簡単。





 魔族のこと、聞き忘れました。その上でちょっとえっちなことをしてしまいました。それも公衆の面前で。自業自得なんて言わせない。


「避けちゃダメーっ!」

「避けなきゃ死ぬぞ!?」

「死なない程度に当たって!」

「死なない程度の威力じゃないよな!」


 明らかに即死級の攻撃を、休む暇なく打ってくるもんだから、避けるのも一苦労だ。ほんの少し掠っただけなのにかなり痛い。というか、龍の形をした炎に、拳大ほどの雷の球に、リオーネの背中に生えてる黒い靄みたいな翼って、殆ど最強魔法じゃねぇか。いい加減俺も死ぬぞ。避けながら被害が出ないように相殺して行ってるからいいものの、してなかったら大地陥没じゃ済まされないぞこれ。


 いやもうおっぱい揉んで愛の囁きしたらちょっとリオーネが喘いで皆にそれを聞かれただけだろ。そこまで暴走しなくてもいうおぁぁああああああああ!? 

 あっぶな! 『帝王の死翼(カイゼルウィング)』はあかんて! それ成功したら即死のやっちゃろ!? というか、使用に成功した時に、反動で大量の虫の幻覚見るようになるとかいうの、あったよな!

 

「落ち着け! 俺が悪かった!」

「反省してないよね! また揉むよね!」

「ない! 揉む!」

「ハクハ、今日こそは怒ったからね!」

「うおおおぉぉぉおおおお!?」


 顔の真横を真っ赤なボーロもとい真っ赤なボールが通過していく。横髪が少し焦げた気がする。


 って、相殺しなきゃやばい。位置的に俺の後ろには【ファフネア】がある。さっきのボールが飛んでいったら、1秒で灰塵と化してしまう。急いで転移で移動して、魔法の相殺を行う。ヘリオスは本当にいい仕事をしてくれた。あいつの『遮断』みたいに、空間と空間の間を断ち切れば、攻撃の類は全部貫通してこなくなるんだよな。結構脳みそ使うけど、とやかく言ってる場合じゃない。


「まず、何でそんなに怒ってるんだ!?」

「周りの状況を見てから言いなよ! あそこにいる人たちなんて、顔真っ赤に染めてボクのほう見てるよ!」

「おいお前ら、人の嫁に何見惚れてんだ、埋めるぞ!」

「ハクハが悪いんでしょーっ!」


 リオーネが突き出した両手の先に、どす黒い魔力が集まっていく。


 は、嘘だろ!? ここでそれはマズイぞ!?


「いやちょ、まっ、『界滅(ラグナロク)』は流石に無理があ……」


 本当にその名の通り。『界滅(ラグナロク)』。神話とか伝承とか、そういうのが好きな奴なら、聞いただけでどんな魔法なのか、想像がつくんじゃないかな。


 そうだよ! こんなところで使う魔法じゃないぞ! 一回使ったら一年の間は使えないんだから、いざという時のために取っておけよ! ただの喧嘩のために使ってどうする! いや日常茶飯事なんだけどな!?


 急いでリオーネを落ち着かせるべく、地上の彼女の下へと急行する。ちょっとふざけすぎた。


 それと同時だった。大きな影が、俺たちの頭上に現れたのは。正確には違う。そいつが大口を開いて、リオーネの頭部を食したのが同時だったんだ。


落ち着け、馬鹿(おひふへ、ふぁは)





…………?







「リオーネぇぇええええ!?」

「はうぅ……」


 首から下だけが宙ぶらりんになった状態のリオーネが小さく声を漏らす。苦しそうな声ではなかったが、気持ちがいいものでもないだろう。このシーンだけだと、黄色いあの人を彷彿とさせる。


 全身の力が抜けて、本当に頭だけを食われたかのように脱力したのを確認すると、大きな影は静かにリオーネを脇道へ吐き出した。


『ぷっ……。どれ、落ち着いたか、リオーネ』

「た、食べられた……ッ」

『咥えただけだろう、大袈裟な』


 トリニアだ。龍化したトリニア。あれ、龍状態のトリニアってこんなに小さかったっけ? いや、十分にでかいっちゃでかいんだけど、初めに見たときはもっと大きかった気がする。これも龍人族の能力か何かなのかかもしれない。


 リオーネを吐き出したトリニアドラゴンは、いつか見たのと同じような感じで、すっかりと見慣れてしまった姿に戻っていく。本当なら龍の姿が本来のものなはずなんだけど、こっちの方で接してきたわけだしなぁ。


 要は、人の姿だ。足は開いていないが、腕は組んでいる。準仁王立ち、仁王立ち予備軍って言ったところか。



……何か、怒っていらっしゃる? 可愛い可愛いお顔なのに、眉間にシワが寄ってますよ。


「何をこんなところで暴れているんだ。ハクハ、向こうでは何か分かったのか?」

「い、いや、特に何も聞けなかっ、た……」

「そうか、なら仕方がないだろう。済んでしまったことは済んでしまったことだ。問題のことは後で考えればいい」


 矢継ぎ早にそんなことを言い出す始末。あれ、俺って怒られる立場なの? 今回のこと、70%くらい被害者なんだけど。むしろ魔法を一発残らず相殺したところを褒めて欲しいくらいなんだけど。


 そんな俺のことを無視して、トリニアはアレクの方に向き直った。


「取り敢えず、民にもう一度説くところから始めるべきではないか? アレク、お前はまだ、二人のことを殺そうとしているのか?」

「それがな……さっきから、邪神のことなど気にならなくなっていてな……今でも、何故二人を殺そうとしたのかが分からない」


……お?


「洗脳が解けかけているのではないか? これは良い傾向なのか、ハクハ?」

「あ、ああ。多分、洗脳していたキッカケの何かが消えたから、徐々に解けかけているんだと思う……」


 洗脳が解け始めているってことは、洗脳自体を施していたのはヘリオスかリィーサなのか? いや、何かあいつの『物』が関与してたって可能性もあるか。


 この洗脳系の何かだと考えられていたものだけど、俺とリオーネが初め見たときに嫌そうにしていたのには、もちろん理由がある。


 え? そんなの簡単だろ。遣いがかけた複雑なものだったんだよ。外部から無理矢理に解こうとすると、被術者が死ぬんだよ。だから、俺もリオーネも手を出そうとしなかった。加護ありでのリオーネなら、解呪も可能だっただろうけど。


 ともかく、アレクの洗脳が解け始めてるなら、他の奴らの洗脳も解けてきているはずだ。思わぬ形で魔族たちの問題を解決する手助けをしたみたいだ。


「よし。では、街に戻ろう。アレクから言えば、皆も納得するのではないか?」

「そうだな。二人とも、すまなかった。許してくれと言うつもりはないが……」


 アレクが地に膝をつこうとしているのを見て、バクラ親子とギデアが止めにかかる。




……ん!? ギデア!? いつの間に!


「良いってことだ。結局、俺たちは無事だったんだからな」

「そうだぞ、アレク。俺にアレクにギデア。《三勇士》同士、また仲良くやれば良いさ」

「お前たち元々仲良くもないだろう」

「水差してんじゃねぇよ、脳筋ギデアめ」

『あははははははは』


 バクラはアレクを慰めるように肩に手を置き、スーラはうんうんと頷きながら言う。ギデアは若干空気読めない子発言してるが、それも冗句として受け流してしまうあたり、流石だとしか言えない。


 というか待てよ、三勇士同士ってなんだよ。三勇士ってあれだろ、強い三人。スーラとギデアとアレクの三人が三勇士だってか。何でたったの2日で三勇士全員と知り合ってんだ、俺は。


 呆気に取られている俺とリオーネ以外は、街へと歩き始めながら笑い語りあっている。置いて行かれた。


「……トリニアは、逞しいな」

「ボクには、皆が輝いて見えるよ……」

「大丈夫だ、リオーネ。人生ゆっくり行こう」

「ボク、人じゃなくて妖精だけどね……」


 トボトボと付いて行くことにした。俺たち、相変わらず扱いが酷いと思うんだよ。







 それからの事は最高スピードで進行した。街の中にいた洗脳されていた過激派の連中も、その殆どが大人しくなっていて、アレクを筆頭に、処刑が行われそうになっていた時と同じ広間で、事態の説明が行われた。これは街にいた魔族たちは強制参加のもので、皆の間にも、少なからずの困惑と焦燥はあったと思う。


 ただ、一部の馬鹿な奴らのせいで、俺とリオーネの存在を表に出され、全ての所業を俺たちが解決したということにされて、その混乱は落ち着いた。 

 最初は『元勇者とか逆に危ない』みたいな感じだったんだけど、何故か俺が魔族たちと他の種族の友好関係を結ぶための使者とかいう扱いにされて、しかもリオーネの魔法で祭りみたいなことをしだして、まあ友好的な関係にはなったかな、って感じだ。


 でも、まあ、完全に信用されたわけではないかな。俺自身、歴史上で魔族たちに直接的な被害が及ぶようなことはした気がするけど、こっちから仕掛けるようなことはしていないつもりだ。魔王討伐のあれは、こっちでも『是非お願いする』みたいな雰囲気だったし。

 何より、アレクやギデア、二人によって事情を説明されたバクラとスーラの話の影響も大きいと思う。トップクラスの奴らが口を揃えて『こいつアホだから大丈夫』みたいなことを言うんだから、その信憑性も高いというものだろう。

 

 んで、さっきも言ったと思うけど、その集会の途中からリオーネの魔法や、他の魔族たちの協力で、祭みたいなものが開催された。俺も十分に満喫した。ワーム串はまた食わせられそうになったけど。

 その祭りの影響もあって、『今は取り敢えず楽しんで疲れを取ろう。会議は夜に行う』ってことになった。時間感覚が薄れていると思うけど、その集会が開催されたの、昼過ぎだからな。処刑事件が朝起きて、そこからノンストップで遣い撃退まで行ったもんだから。





 そして、夜だ。俺たちは未だに賑わいが残る広間に集まって、昨日使った城の広い隠し部屋に行くことにした。あそこなら広いから話し合いだって出来るし。広間に集まった時に変なオヤジどもに絡まれたけど、これは信用されてるって認識でいいんだろうか。


「本当に、すまなかった」

「そのことはさっきも言ったろ。仕方ないと言えば仕方ないことなんだ」


 皆が机に座ったのを確認したアレクが、机に頭を擦り付けるほどの勢いで頭を下げる。


 スーラの言うとおり、あれは仕方ないという一面もある。昨日のバクラの話によれば、洗脳されたのは、元から他種族に対して抵抗心とかそういうものを持っていた奴らだけらしいけど、放置していたってことはその程度のものだった、ってことだ。彼らが弾けたのは遣いのせいだと言うのも、正論ではある。


「アレク、それなら教えて欲しい。邪神復活のことだけど、あの計画って今はどうなってるんだ?」

「完全に凍結したさ。ただ、魔法陣の解除が進んでいたのが問題でな。もしかすると、時間の経過で中の邪神に破られるやもしれぬ……」


 顎をさすりながらアレクが言う。


 封印の魔法陣ってあれだよな。解れかけてたあれ。中の邪神が破って来る可能性があるってことは、割と解除の方は進んでたってことか。何となくだけど補強しといてよかったな。あれほどガッチガチに固めておけば大丈夫だろう。


 って、それならもう問題ないな。計画がまだ進んでるなら別だけど、凍結しているってんなら、今更何かが起きることもないだろう。


「あ、すまん、魔法陣なら俺が補強した、すまん」

「……なら、何も問題はないだろう」

「そっか」


 なんか呆れたような目で見られた。いや、少し違う? なんだろう、これ。疑惑? 遠慮? 違うな、俺の知ってる感じだとは思うんだけど。


 なんだろう、こう、尊いものを見るような。そうだ、これ尊敬の眼差しとか、そういうものに近い。ちょっと疑惑とか入ってるっぽいけど、そんな感じだ。なんでや。



 えっと、俺が助けを求められたのって、確か邪神復活の阻止と、過激派の連中の鎮圧、だったっけ?

 邪神の復活は結果的に阻止したし、過激派の連中が狂った理由も見つけ出し……てはないけど解決した。


 ってことは……


「これで問題は解決ってことでいいのか?」

「そうだな……いきなり頼んでおいた側から言ってはあれなんだが、本当に助かった」


 問題解決、ってことに気がついた俺が言うと、バクラが立って礼を述べた。


 それに座ったままで、軽く手を挙げて返す。


「気にすんな。困った時はお互い様って言うだろ? それに、貸しを作れるって考えたら安いもんだ」

「ありがとうな、ハクハ。まだ問題は残ってるが、それは些細なもんだからな。後は、俺たちだけで何とかする」


 そう言うなり、目の前まで歩いてきて手を差し出してきたので、立ち上がってそれに応える形で手を握る。


 確かな握手だ。昔は良くしたものだ。相変わらずゴツゴツしてるな、こいつの手は。魔族の手は共通でゴツゴツしてそうだけど。


 バクラは見るからに嬉しそうだ。山積みになっていた問題群が、ものの2日で消化出来たら、そりゃ嬉しいか。俺は結構忙しかったけどな。


 そう言えば、あの無乳ギルドマスターに何回か連絡送って以来、音沙汰なしなんだよな。そろそろ、事の顛末とか報告しておかないとヤバいかもしれない。


「ああ、俺もそろそろ戻らないとやばい気がしてきた」


 そこまで言って手を離して席に着くと、バクラと入れ替わるようにして、ギデアが立ち上がった。


「ミナヅキ、ではなくハクハだったな。ここに来てくれたのがお前で、本当に良かった」


 突然の感謝の意だ。ギデアには俺の名前を『ミナヅキ』として教えていたからか、ハクハの名前の方は呼びづらそうだ。って、教えてから会ったこともないから、呼びづらいも何もないだろうに。


「呼びにくいならミナヅキのままでいいぞ?」

「む、そうか。ミナヅキ、次は観光にでも来い。これでも、観光スポットは多い方なんだ」

「その時は頼むぜ、ギデア」


 ミナヅキの方で固定したようだ。

 バクラと同じように、近くまで来て手を差し出してくるギデアの手を取って、また来るということを伝えておく。今回は色々忙しかったからな。普通に、何も起きていない状態でも一度来てみたい。


 というか、ギデアはいつ来たんだ。俺が皆と一緒に行った時はいなかったけど。後から合流したのか? あ、そう言えば合流した後に、リオーネが『虫が……』とか言って少し呻いてたけど、それ倒したのがギデアだったりするのか。後でリオーネに聞いておこう。


 ギデアが座り、今度はアレクが立ち上がる。お前、最近出番多いな。


 先の二人とは違い、最初から俺の前まで来ている。そして、地に膝をつけ、正座をする。




……ワッツ?


「その、なんだ……すまなかった。こうなったのも、私の心が弱かったためだな……」

「そうかもしれないけど、相手があいつらなら仕方ないさ」


 またも頭を下げるアレク。もうこれで三回……四回? 三回か? 分からないけど、それくらい謝ってる。多い、流石に多いよ、アレク兄さん。しかも今回に限っては正座してますやん。土下座でもする気か?


「貴様もそう言うのだな、ハクハ……いや……」


 危うく土下座をしそうだった彼は、しかし土下座はしなかった。


 うん。土下座『は』しなかった。


 代わりにさっきよりも強い尊敬の眼差しみたいなものを向けてきて、意味の分からないことを言い出した。



「貴方もそう言ってくれるのですか、ハクハ様」

「……は?」


 は?


 は?


 いや待て、なんだハクハ()って。ハクハ()って。お前は一体何を言っているんだ。お前昨日は『貴様ァァァァァァ!!』みたいな感じの雰囲気だったじゃん。それなのに、なんで今は正座して、ハクハ様なんて言ってんだ。馬鹿なのか。いや馬鹿なのは間違いないけど。


 俺の戸惑いも他所に、アレクは続けた。


「私は考えたのです、ハクハ様。貴方は私を殺すことも出来た。それなのに、そうしなかった。それに加え、こうして赦しまで与えてくれる」

「お、おう?」


 確かに殺せたけど殺してないよ。ただ、それは情報を絞り出すためとか、そういう理由があったわけであって、別に慈悲とかがあったわけじゃない。殺すつもりがあったわけでもないけど、死ぬ0.1歩手前くらいまでは逝かせたつもりだったんだけど。


 しかもなんだって? 赦し? いつ?


 あ、もしかして、さっきの謝罪で俺が『仕方ない』とか言ったのがそれに該当するのか。赦し、なのかな……? もう怒ってはないし、許したのは間違いないけど、そこまで敬われるような真似はした覚えはない。ってかやめろ。ハクハ様ってなんやねん。


「……本当に、ありがとうございました、ハクハ様」

「……まあ、別にいいか」


 アレクは握手ではなく土下座だった。ファンタジー世界でのこういう場面って、片膝をついてのアレだっていう認識が強かった……というより、何度もそういう場面を見てきたわけだけど、アレクは土下座なのか。割と日本的なイメージが強いな。


 こういう時、どうしたらいいかがイマイチ分からなかったので、取り敢えず屈んで頭を撫でてやった。わぁ、ゴツゴツしてるぅ♪何も気持ちよくなぁい♡


 アホか。


 肩を軽く叩きながら、席へと促すと直ぐに戻ってくれた。随分と大人しくなったもんだ。


 最後に来たのはスーラだった。こいつで最後だ。


「あの時あそこに来たのがお前じゃなかったって考えると、なんかゾッとするな」


 スーラが頬を掻きながら、半笑いで言う。


 あの時ってのは、俺がスーラをフルボッコにした時のことか。

 俺がこの事態に巻き込まれるようになった原因は、あの時のフルボッコが原因だった気がするんだけど、今にして思えばあれも良い思い出だ。いやぁ、まだ昨日のことだけどさ。随分と遠い記憶に思えてくる。


「間違いなく、今みたいに良い結果にはならなかっただろうな」

「だよなぁ。お前で良かったよ、ハクハ。ありがとう」


 なんだろう、この違和感。『絶対に礼なんて言わないよな』みたいな雰囲気のスーラが、ここまで素直に感謝しているところが、驚愕に値するのだろうか。そんなに真正面から感謝されると照れるよ。あの火だるま野郎の時はそうでもなかったけどな。


 あ、スーラって一応三勇士の一人なんだったか。強いのかな?


「そう言えば、スーラも三勇士なんだよな。今度はもっと、準備をした上で戦おう」

「はっ。やすやすと負ける気はねぇぜ?」

「言ったな?」


 拳と拳を軽く打ち合わせて、再戦の約束を交わす。あの時は若干不意打ちめいたこともしちまったから、今度は正々堂々戦うんだ。親子二人で同時に向かってきてくれるっていうシチュエーションもいいな。三勇士全員と戦うってのも良さそうだ。


 おいそこ、戦闘狂って言わない。俺は戦闘狂じゃない。出来れば平和的に暮らしたいんだよ。


 これで全員か。バクラ親子にギデアとアレク……うん、全員、だ?


 周囲を見回していると、ふとトリニアと目があった。


 あれ、トリニアってこの後どうするんだ? リゲスの指示で魔族を探しに来たって言ってたけど、じゃあ報告とかが必要だよな。直で龍王国に戻るんだろうか。


「私はまだ何も言わない。どの道、お前たちを人族の国まで送り届けるつもりだからな」


 と、そう言った。


「お。送ってくれるのか?」

「当然だ。あまり役には立てなかったからな。このくらいはしてやらないと、と思ってな」

「助かるよ」

「ボク、またあの感じで飛べると思うと嬉しいなぁ」


 役にたてなかったっていうけど、そんなことはない。最初の段階で空から探すっていう荒技をしたからこそ、あのダンジョンのことに気がついたわけだし、そもそもトリニアがケリオン渓谷に来ていなかったら、魔族のことも知る術がなかった。ある意味、一番の功績者とも言える。


 リオーネも、また背に乗って飛べるって聞いて嬉しそうにしている。朝のこともあったけど、すっかり元気そうだな。後で刻印のことについても説明しておかないと。


「リオーネもありがとうな。お前がいなきゃ、俺たち全員死んでたぜ」

「えへへ、照れちゃうな」

「バクラお前殺すぞ、なに口説こうとしてんだ、あぁ?」

「してねぇ!」

「冗談だ」


 本当に冗談だからな?




 さて……


「……そんじゃまあ、俺たちは帰るよ」


 立席しながら帰る旨を伝えた。皆の顔を見渡すと、少し寂しそうな、残念がってる奴もいる。


 けど、大丈夫だ。前のアレとは違って、今回はただ大陸跨いで人族の国に帰るだけだ。直ぐにでもまた会える。遠いからいつでもってわけにはいかないが。


「元気でな、ハクハ。こっちのことが落ち着いたら、また連絡を送る」


 穏やかな表情でバクラが言う。


「それは頼むよ。何か厳しそうなことがあったら、遠慮なく呼んでくれ。貸し一つで請け負ってやるから」

「なるべく呼びたくねぇな、そのヘルパー」


 呼べよ。呼びたくないってなんだよ。んな酷い要求なんてしねぇよ。


「んじゃ皆、またいつかな」


 避難用、つまり外に向かう方の転移魔法陣に向かって歩き出す。街中に出てもいいけど、直接外に出た方が楽だ。


「おうよ」

「元気でな、ハクハ」

「ハクハ様、お困りなら問答無用で呼び出してください。いつでも、どこでも駆けつけますので」

「俺とも一度、手合わせを願いたいな」


 バクラ、スーラ、アレク、ギデアに見送られながら、魔法陣の上に乗って起動する。


 軽く手を振って別れの挨拶とする。視界が光に呑まれて、独特の浮遊感が襲ってくる。


 そして、気付いたときにはもう、街の外にいた。


 振り返って、魔族の街を見納めにする。多分、次に来るのは暫く先だろう。直ぐに新たな問題が浮上するかもしれないけど、あいつらなら大抵の問題は自分たちで解決してしまいそうだ。俺の出番は、ここで一旦終わり。


 今度はギデアと約束した通り、観光目的で来よう。来月が再来月か、はたまた半年後か1年後か。それは分からないけど、まだまだ見ていないものも沢山ある。ワーム串だけは勘弁。


「直進でいいのか?」

「ああ。真っ直ぐ【ガッダリオン】に向かう」

「了解だ」


 腕を回して肩を鳴らしていたトリニアに聞かれ、そう答える。ここから【ガッダリオン】……というより、あの国がある南の大陸【ローリア】までは数千km。正確に測ったことはない、というより測れないんだけど、他の大陸に比べたら近い方だとは思う。

 ここから北にある【ニンブル】までは万を超え、西の【フォトロ】まで行こうと思ってもそれくらいの距離はあるはずだ。これくらい(ぬる)い。トリニアに乗せて行ってもらってもかなりの時間がかかると思う。ティルマには報告しないといけないし、そろそろ明たち三人の『本勇者』のほうも気になる。

 早く帰りたいし、寄り道なんてしなくていいだろう。


 トリニアの少女と形容するのがふさわしいくらいの身体が光に包まれていって、巨大な地龍に変わる。初めて会ったときと同じで、かなり大きい。翼まで生えてやがる。


 それに跨って、準備が出来たところで声をかける。


『いいな? さあ、行くぞ!』


 風を纏うようにして飛び立ち、俺たちは2日ぶりに帰る【ガッダリオン】へ急いだ。








「で、連絡があれだけとは、一体どういう了見なのだ?」


 俺たち三人の目の前には、怒りを隠さない、むしろか隠そうとしないティルマがいた。説明するから待て。


 トリニアの背に乗って、無事出発した俺たちは、途中で睡眠や休憩を挟みつつ、【ガッダリオン】には【ファフネア】を出た2日後に到着した。向こうを出たのが夜でこっちに着いたのが早朝だから、1日と半分くらいか。遅いと思われるかもしれないけど、普通に寝て飯食ってってしてたからこれくらいかかったんだ。トリニア曰く、『休憩無しならもっと速い』らしい。


 そして、俺たちが真っ先に向かったのはギルドだ。先に城に向かおうかとも考えたけど、あっちは私的なものだから、公的なギルドへの報告から済ませた方が良いだろうと考えてのこと。


 前来た時と同じ、黒髪の巨乳受付嬢(酷く困惑していた)によって支部長室に通された。そこで思わぬ発見をしたんだけど、それはまた後々。支部長室の扉を開けたその先には、相変わらず無乳のギルドマスターがいた。デスクワークをしていた。


 んで、振り出しに戻るんだ。


「いやぁ、意外と大事(おおごと)になっちゃった、てへっ♪」

「てへっ♪、ではないだろう! 『ちょっと魔族の国行ってくるぅ〜☆』みたいなノリで処理を進めなければならない私の身にもなってみろ!」

「やだよ面倒臭い」

「めんどっ……!?」


 そりゃ大変かもしれないけど、俺ただの冒険者だし。そんなデスクワーク、するわけないじゃん。


 ティルマが顔に手を当てて大仰に呆れたふりをする。俺、こっちに来てから何回呆れられてんだろう。前もこんなこと言った気がする。


 そして、何かを諦めたのか、ゆっくりとした口調で呟いた。


「……はぁ、まあいい。それで、一体何があったんだ?」

「それは私から説明しよう」

「誰かな?」


 俺、その隣に並ぶリオーネ、二人のちょうど真ん中辺りの後列に位置していたトリニアが前に出てきた。そうか、ティルマは初対面か。


「龍王国リゲス、龍王軍副軍団長のトリニア・サッデスという。以後、よろしく頼む。では、事態の説明を行いたいと思うが……」


 前に出たトリニアは、会釈をしながら自己紹介をし、この数日での出来事を纏めた。


 まず、自身の不注意さを謝った。あれだ。もっと注意してれば、この国でいらぬ騒ぎが起こることもなかったから。

 ティルマはそれに対しては何も言わなかった。むしろ、頬をヒクつかせていた。いや俺だって分かるよ。確かにトリニアの気配りが足りていなかったのもあるだろうけど、調査隊派遣してんのに襲撃だとか勝手に勘違いした方も悪いんだから。


 次に、本格的に事の発端と終末を話した。自身が何のために来たのか。そして魔族であるスーラとの邂逅と、邪神のこと。魔族の国で遣いと戦闘を交えたことと、それによって殆どが解決したということ。

 流石に、ティルマも何か言いたそうだった。言いたそうだったけど、トリニアの無言の圧力に押されて何も言えてなかった。自分たちが勘違いで殺そうとしてた相手だもんね。怖いよね。

 魔族の国って辺りで、『危険すぎる』みたいなことを言っていたけど、それが偏見だったってことも理解してくれたようだ。


「……そんなことになっていたとは思わなかった」


 で、説明が終わった。トリニアはまた後ろに下がって、ティルマは呆然としている。今どんな心境なんだろう。『お前らどれだけトラブルメーカーなんだ』って感じかな。


「言ったろ、大事だったんだよ」

「全て解決したのか?」

「向こうが自分たちで解決出来るようになるところまで、だけどな」


 逆に、あそこで全部を解決してしまってはいけないだろう。そうすると、次に同じようなことが起こった時に、彼らの対応が遅れてしまう可能性がある。何故なら、俺が全てを解決してしまったから。少しは自分たちでやらせた方が、今後のためにも良い。


「そうか。だが、魔族の国がそこまで平和的?なものだったとは」

「俺も最初は驚いたけどな」

「ボクもだよ」

「私もだ」


 満場一致だ。ティルマの方も、魔族の国は殺伐としたみたいな感じの情報しかなかったのか。


 これは今後の課題、かな。【ファフネア】で一部の馬鹿が俺たちのことを、『友好大使』みたいな紹介をしてしまったから、それっぽいことをしなきゃならない。しなくてもいいけどさ。結局は通らなきゃいけない道だし、それなら少しずつでもやっていくのが良いと思う。


 だから、『友好大使』としての仕事を全うしてやる。俺が今回こっちに先に寄った理由の一つに、実はこういうものもあった。『ギルドマスターであるティルマは、どういうイメージを抱いているのか』。

 国王なんかに聞いても良かったけど、あいつらイメージの曲解伝達なんて平気で行ってそうだし、それならギルドマスターという、比較的高位の立場にあり、尚且つ個人としては恨みごとなんかもないであろうティルマに聞けば、と。これでティルマが恨みとか持ってたらどうしようってなったけど、それも無さそうだし。


 そして今、分かった。さっきも言ったけど、ギルドマスターってのはそれなりに高位の立場なんだ。それこそ、上級貴族と同じくらいの発言権は持ってる。

 そのギルドマスターでさえ同じ認識なんだから、他の人たちも同じものだと思っていいんだろう。


 しっかしまあ、原因と理由が分からないよな。俺が現役勇者として仕事していた、つまり三百余年前から同じ状況だなんて、一体何が原因なのか。上の方で誰かがイメージ操作をしてるのかもって思ったけど、そんなことをする利点も思い浮かばない。それこそ、遣いとかが絡んでいる気がする。





 ま、それは後でゆっくり考えればい

いさ。問題はだな。


「なあ、ティルマ」

「なんだ?」

「ギルドカード、貰っていいか?」

「……お前というやつは……」


 いやだってさ、SSSランカーに戻るために受けた依頼だったんだしさ、戻らなきゃ意味ないじゃん。


「まあ、いいだろう。既に発行済みだ。リオーネの分も出来ている」


 そう言って机の方へと移動していき、何やら引き出しの中を漁る。取り出したのは、黒い二枚のカード。



 って、うおっ。投げんなこいつ。人様の唯一の身分証明書をなんだと思ってやがる。


 投げられたカードを見ると、少しだけ小さくなっている気がする。本当に少しだから、俺の考えすぎかもしれない。

 デザイン自体は、ティルマが最初に言っていた通り、大きな変更はない。気持ちスマートになったかなって感じがするけど、それだけだ。


 リオーネも投げられたギルドカードをキャッチし、じっくりと眺め感嘆する。そうそう、こんな感じ。新米冒険者が、初めてギルドカードを手にした時って。感動するよな。


「わぁ、前のよりも小さくなった?」「やっぱりそうだよな。何はともあれ、これでSSS(スリーエス)復帰だ」


 もっと喜ぶべきところなのか、それともそうでないのか。喜ぶべきところなんだろうか。俺の場合、元々SSSで、結果的に言えばカードの更新をしただけだからな。その間でかなりやらかしてしまってるけど。


 嬉しいのは嬉しい、が……何ともまあ微妙な嬉しさだな。やったことに対しての報酬、少なっ。


「今回のことは一応、依頼として扱われていたから、報酬は受付の方に回してある。一応、本来よりも多めにはしているが。帰り際に受け取ってくれ」

「そうなのか? 分かった。貰ってくよ」


 再び俺たちの前に戻ってきて、机に軽くもたれかかったティルマが言った。これ報酬付きなのか。しかもやったことがやったことだけに、報酬増加と来た。今さら大量の金が必要ということもないけど、あって困るものでもない。あぁ……俺が節約出来なくなったのって、この世界に来てしまったのが原因だと思うんだよ……。



……おっと。


「もう一つ忘れてたけどさ」

「どうした?」

お前がつけてた監視(・・・・・・・・・)に伝えてくれ。『相手が悪かっただけだ、気にするな』、ってな」


 なに、ケリオン渓谷に行く前にコソコソしてた奴の正体だけど、ちょっとした知る機会があってさ。多分、ティルマの指示で動いてたんだろうけど、確信はない。だから、カマをかけてる。


「……お前もう何なんだ」


 どうやら、引っかかってくれたようだ。ってことは、やっぱりあの人が俺のことを監視してたんだろうな。見た目の割に実力者というか、なんでそんな仕事してるんだというか。異世界はよく分からない。


 伝えたいことを全部伝え、帰ろうと扉の取っ手に手をかけた。


「ただの元勇者兼現SSSランカーだよ。じゃな、ティルマ」

「面倒ごとはもう持ってくるなよ……って、元勇者……?」


 問答無用で部屋から出る。直前に爆弾発言を残して。


 ティルマが何かに気付いたのか、ボソボソと何かを呟く。俺はまだ気付いてなかったってことに驚きだよ。お前どんだけ間抜けなんだ。


「ハクハ……ハクハ……四代目勇者……ハクハ……」


 扉を閉める前にも俺の名前と四代目勇者がうんたらかんたらとか呟いてた。


 そして、閉めた後、数秒の余白を残して。


「ああぁぁぁぁああああああ!?」


「よし行くか」

「鬼かお前は」

「その流れもうやったから!」


 リオーネが止める。あれ、俺知らないんだけど、やったの?





 ともあれ、疲れた。ゆっくりと風呂にでも入って、疲れを取りたい。魔族とのやり合いも疲れたし、ヘリオスは相変わらずアホだし変だし、疲れるよ、全く。



 でも、本格的な面倒ごとは、これからになるだろう。俺の気苦労は、まだ絶えることを知らない。









〜1章 戻ってきた勇者 完〜


 これにて1章完結です。


 というより、本来はこれでこの『最強勇者』は完結にする予定でした。元々、友人と小説を書きあって遊んでいた時に、書いていた物の設定を少し弄っただけのものなんですが、それ故にその先の展開とか何も考えていなかったりします。ぶっちゃけ、全部ぶっつけ本番です。


 本当ならこれで終わるくらいの予定だったんですが、書いているうちに『刻印』とか他の明らかになってない謎とか出してしまいまして。自分でも終わるに終われない状況になってしまいました。なので、まあ、満足するまでは書きたいと思います。


 何話か、主人公サイドではない幕間を投稿して、2章に移ります。

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