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2 ロリ巨乳と巨乳受付嬢と無乳美女と

こんばんは。1話目があそこまで伸びるとか正直考えてなかったです。ぶっちゃけ久遠とは比べ物になってませんでした。やはり、1話目は物珍しさか何かあるんでしょうか?誤字、脱字があれば指摘をお願いいたします。

 剣と魔法の世界【ガルアース】。今年で870年になるこの世界には、ある伝承がある。


《世界が危機に瀕したとき、何処からともなく現れた異界人が、世界を救うだろう》


というものだ。

 真相を言ってしまえば、なんていうことはない。何処からともなく現れるのではなく、この世界の魔法使いたちが、地球から無理やり召喚するんだ。


 そして、その地球よりも遥かに短い歴史の中で、勇者というのは現在、4人確認されている。いや、今代の勇者を合わせれば7人か。


 初代勇者。歴史書にはクロツメ、と書されている。

 元最強の勇者として、ガルアース暦560年頃までは最も人気が高かった勇者で、相当なイケてる男の勇者だったらしい。

 それでいて優しく、穏やかな彼を、多くの人々が慕ったそうだ。

 そんな彼だが、戦闘技能に関しては、他の勇者とは比べ物にならないと言ってもいい。当時のガルアースには、彼に敵う生物が存在していなかったと評されるほどに。詳しい戦闘技能に関しては失われてしまっているが、どうにも『彼の剣は見えない』という言葉だけは残っているようだ。


 彼は世界を救った後、地球へと帰ったそうだ。


 二代目勇者。歴史書にはナツキ、と書されている。

 初代勇者クロツメが物理的な意味で世界を救ったのとは別に、政治的に世界を救ったことで有名な勇者だ。戦闘面に関しては、初代勇者ほど特出したものがなかったという話もある。

 彼女は、日本から持ち出した知識で、様々な政治的改革をガルアースに及ぼした。果てには、自身の国を作ってしまうほどに。今ではもう滅んでしまっている、が。


 彼女もまた、世界を救った後、地球に帰った。


 三代目勇者。歴史書にはサザギ、と書されている。

 初代、二代目とは異なり、事故のせいで死にかけていたところを召喚されたらしい。この勇者のことは、比較的最近のことだから、詳しく書かれていることも多い。自らの命を救ってくれたガルアースの人たちに感謝がしたいと、物理的な意味でも政治的な意味でも、この世界に貢献したそうだ。


 彼は先の2人とは違い、地球には帰っていない。ガルアース教育に使用されている教本に載っている、『あの世界での僕は死んだ。僕は、ここに生きている』という言葉は、彼が遺したものだそうだ。多分、地球では死んだ扱いになっているだろうから、帰っても意味がない、ということだろうな。




 んで、四代目勇者。歴史書にはハクハ、と書されて……というか、俺。俺のことだよ、これ。

 歴代勇者の中で最もちゃらんぽらんな男だとか書かれていたけど、そんなことは全くない。ガルアースでは比較的真面目にしてたからな。

 俺のことに関して、まず初めに挙げられる言葉は、恐らく『あいつは例外だから』だろう。

 初代勇者の戦闘能力についての書物が、今となっては失伝してしまっているがために、詳しいことまでは分からないけど、多分俺の方が強い。おいそこ、ナルシストとか思っただろ。違うぞ。


 ん?現役時代にやったこと?そうだなあ……。


1、魔王倒した

2、魔神倒した

3、龍神とお友達

4、妖精王とお友達

5、極魔師とかいう二つ名


 まあ、この程度だよ。極魔師ってのは、どうにも、『魔を極めた者』とかいう意味があるらしく、何で俺にそんな渾名が付いたのか、今でも分からん。俺のあれ、厳密に言えば魔法じゃないんだけど。


 で、そんなこんなで、今では初代勇者を差し置いて《歴代最強の勇者》なんて名前で呼ばれてる。全く、困ったものである。えへへ。


 あ?それだけ強かったら、クズの国王に仕えなくても良かったんじゃないかって?

 いやまあそうだよ。だから一年戦ってやった後に、国宝を持てるだけ持って、脅迫文だけ残して失踪してやった。

 勇者やってて嫌な思い出の方が多い、とは言ったが、俺が勇者として活動していたのは、あの王の下で働いてた時だけだしな。後の数年はただの冒険者兼臨時勇者だ。


 そんな四代目……というか俺には、現役時代に頼れる相棒がいた。時期で言えば、クズ王の下を離れ、世界中を旅していた時にだ。


 そいつは妖精だ。俺が妖精王と仲良くなったきっかけになる人物でもある。

 妖精ってのは基本的に、物語に出てくるような、小さくて羽が生えたような見た目をしてる。してるんだけど、人みたいな姿にもなれる。あいつは人の姿が好きなのか知らんが、常にその状態だから、言われなかったら妖精なんて信じられない。


 特徴?そうだな……水城とは比べ物にならない程澄んだ青色の髪で、あれだ、幼女。おい!ロリコンじゃねえ!取り消せ!


……おほん、まあ、そんな相棒がいたわけなんだが。


 というか、


「よっ、久しぶり、リオーネ」

「唐突すぎる展開!?」


 今もいるんだけどな。妖精族は寿命が存在しないから、どれだけ歳月が過ぎたって死ぬことはないのだ。妖精王もどっかで生きてるだろ。そのうち会いに行こう。


「んで、元気だった? おっぱいまた大きくなったか?」

「感動の再会の言葉が『おっぱい大きくなったか?』なんて、流石のボクでも予想してなかったよ……って、何さりげなく揉んでるのさ!」

「あ、悪い」


 その豊満な胸に埋めていた手をのけ、左指の方に意識をやる。

 そこにあった青い指輪は、もうない。あれはアーティファクトだからな。リオーネを封じ込めるための。


 いんや、封じ込めるって言ったら無理やりっぽそうに聞こえるけど、なんて言えばいいんだろう。

 地球は妖精が暮らせる環境じゃないから、宝石になってもらってた、ってところだ。

 だから、この世界に戻ってきて、まずリオーネを解放した。

 明たちに『外国の彼女からもらった』って言ったけど、厳密に言えば『異世界の彼女なんだ、これ♪』ってのが正解なんだよ。


「でもま、元気そうでよかったよ。あの中は退屈なんじゃないかって、心配してたんだぞ?」

「え、あ、うん。ありがと……突然そんなこと言われたら慌てちゃうじゃないか……」


 赤面するロリ巨乳は可愛い。これ鉄則な。


 ああ、周囲の視線が痛い。そりゃ、日中から幼女とイチャコラしてる男がいたら、変な目で見るのも当然か。ここ普通に街の広間だし。


 取り敢えずは、宿でも探して、ゆっくり寝るとしようか。疲れたし。



「マスターグレードのお部屋で一泊ですね。600コリオンになります」

「600コリオンね、はい。もしかしたら連泊するかもしれないから、その時はよろしく頼むよ」


 宿屋の受付に硬貨を渡し、代わりに部屋の鍵をもらう。コリオン、ってのはこの世界での金の通貨だ。300年も経ってるから変わってるかな、なんていう不安もあったが、変わっていないようで何よりだ。1コリオンが約10円。一泊辺り約6000円だ。連泊だと少し安くなるみたいだけど、これが安いのか高いのかどうかは、日本でホテルとかに泊まったことがない俺には分からん。多分安い。最上級の部屋で一泊6000円なんだからな。昔はもっと高かった気がするんだが、それはまあ国の豊かさによっても変わるか。

 金は、昔蓄えた分がまだまだある。600コリオンなんて端た金にすらならない。


 リオーネを引き連れて、指定の部屋まで来た。308号室。ここか。

 部屋の中は清潔感漂う、いかにも高級な宿ですよ感のあるものだった。外観だけで決めたけど、中々に綺麗な宿だ。南街の噴水広場近くの【深紅の蒼狼】か。深紅なのか蒼なのかも分からないし、そもそも宿自体は白いのに何故そんな名前なのかとか、突っ込むべき点は沢山あるが、それもファンタジーのご愛嬌ということで。


「ふぉぉぉぉぉ大きくてふかふかなベッドォォォォォォ!!」

「落ち着きなよ、ハクハ」


 全力でダイビングベッドをしたら窘められた。テンション上がっても仕方ないだろ、俺の家ベッドないんだから。


……あー、眠くなってきた……


「えいっ」

「ごふぅっ!」


 仰向けになってうつらうつらしていた俺の腹に、リオーネが全力で飛び乗ってきた。


「ひ、膝着地は、勘弁……」

「だってハクハ、直ぐに寝ようとするんだしさ。こうして生身で会うのは久しぶりなんだからさ、その、もっとさ……」


 そうか、夢の中で会うことはあっても、生身で会うのは2年ぶりなのか。そうだよな。それは仕方ないよな。


「……性欲、溜まるよな」

「ムードが台無しだよ!」


 違ったのか。というか、ムードもへったくれもなかっただろ、今の空気。


 それにしても、近くにリオーネがいるっていいね。それだけでテンション上がるわ、俺。上がっちまうわ。

 前は好き放題やってたっけなあ……一緒に国一つ滅ぼしたり、悪事を企ててた魔族を裸にして辱めたり、大陸一周マラソンしたり……。


「そうカリカリすんなって。ほら、怒ったら可愛い顔が台無しだぞ?」

「ふぇ!? ハ、ハクハ……? 急に押し倒したりしてきて、ど、どうしたのさ……?」


 リオーネをベッドに押し倒して、両手を拘束する。色白だった肌が、噴火手前のように真っ赤だ。

 目尻にはちょっとばかし雫が溜まってる。恥ずかしさからだろうか。


 そのまま顔をぐいと近付けると、目を瞑り、少しだけ顎を上げてきた。長くて整った睫毛に、真っ赤に染まった頬。唇は綺麗な桃色で、完璧美少女と言われても異論はない。


 その唇に、徐々に唇を近付けるようにして……



 パシャリ。


「!?」

「へーい、リオーネのキス顏ゲットぉー」


 羞恥に染まった顔を、スマホで写真を撮った。

 流石の俺でもさ、こんな真昼間っからエロいことなんてしないよ。するなら夜だよ。こらそこ、結局するんじゃんとか思わない。


 おー、綺麗に撮れてる。俺のスマホ、写真が綺麗に撮れるとかいうやつなんだよな。残念ながら電波は繋がらないけどな。異世界だし。それに、こんな風に使う機会が来るとは思ってもみなかったけど、リオーネの恥ずかしい顔が撮れたし、今は良しとしよう。


「……ハクハ……」


 起き上がったリオーネの肩がプルプルと震えている。噴火手前どころか、ものの数秒で噴火しそうだ。

 あっ、やべっ、殴られる……?いやでもそれくらいならむしろご褒美で……


「一週間エッチなこと禁止だからね!」

「悪いこの通りだ何でもするから許してくれ」


 ベッドから飛び降りて、床に頭を擦り付けての土下座。もうこの際頭を踏まれても何されてもいい。頭踏まれるとかご褒美になってしまいそうだけど、ここは魔法ぶっ放されてもいいから許して欲しい。エロ禁止とか、誰も得しないからさ。俺だって嫌だしリオーネだって溜まってるだろ。この世界の神だって、その周りにいる傍観者たちだって、そんなことは望んでないはずだ。いやこの世界の神ってなんだよ。


「むぅ……」

「悪かったって。ほら、写真消したから」


 スマホの画面を見せながら言う。勿論、消してないけどな。一時削除フォルダに入ってるだけで、完全削除はしてないから、後で復元してホーム画面にでも登録するつもりだ。ちゃんと反省はしてるぞ?


「……キスしてくれたら許すかも」


 恥じらいながらそう言うリオーネは、世界で、いや宇宙で、いやいや銀河で一番可愛い。可愛い=リオーネの式が成り立つほどだよ。クラスの女子とか目じゃない。


「悪かった悪かった。もうしないからさ……ほら、これでいいか?」


 マウストゥマウスではない。その綺麗なおでこに軽く唇を合わすだけのものだったけど、リオーネはとても満足げだ。嬉しいなら何より。


「もうっ……次はないからね?」

「分かってるよ。なら、宿も確保出来たことだし、ギルドに行きたいんだけどいいか? ほら、俺のカードってまだ使えるのか分かんないからさ」


 リオーネの機嫌が直ったところで、本来の話題を切り出す。ギルド……冒険者ギルドだ。魔物とかと戦ったりする、あいつらのギルド。冒険者だよ、冒険者。

 クズ王の制止を振り切って飛び出した俺が身を潜めたのもこの冒険者ギルドだったから、当然俺も冒険者の一員だったりする。当時のギルドカードがまだ使えるならそれに越したことはないが、流石に無理だろうか。300年以上経ってるわけだから、ギルドのシステムも変わってるだろうし。


 いや、でも冒険者ギルド最高統括者が、まだ『あいつ』のままだったら、多少は無理を利かせてくれるかな。利かせてくれなかったら無理やりにでも利かせよう。


「場所は分かってるの?」

「ばっちし」


 宿を探すついでに場所の把握はしておいた。中心街の中心にある。真ん中の真ん中。中心の中心だ。


「じゃあ、ボクからは何もないよ。今のギルドがどんなものなのか、ボクも気になるしね」

「よっし。じゃあ今から行くぞ。んあ、そう言えば、俺って変装とかしたほうがいいのか? 出会ってすぐの国王に無礼払ったみたいな感じになってるんだけど」


 高性能な変装道具は一式持ってるから、本人だってバレないようにすることも、多少分かりづらくすることも、簡単にすることが可能だ。


「念のために聞くけど、何をしたのさ」

「国王をクソ呼ばわり」

「お願いだから問題の起こしすぎはやめて欲しいな!」


 失礼な。問題とはなんなんだ。あれは仕方ないことだぞ。突然呼び出していきなり『世界の命運はそなたらにうんたらかんたら』とか言い出すんだからな。不可抗力だ。


「そんなにいけないことか? 勇者は客人で、国王は世界を救ってもらう側の立場だろ? よくよく考えたら、あいつらが偉そうにしてる理由って無くないか?」

「う、うーん……ハクハが言うと、妙に正論みたく聞こえるなぁ……」


 俺ですから。


「少しだけ変装……というか、見た目を変えておけばいいか。えっと、確かここに……お、あったあった」


 何もない空間にズボッと手を沈め、中から一つの液体が入った小瓶を取り出す。

 この空間は《無限収納室(インベントリ)》という空間魔法だ。空間魔法自体が失われた古の魔法だから、使える人間なんていないんだけどな。俺は勇者として召喚された時の恩恵で使えてた。チート万歳だ。

 この無限収納室に入れたものは、決して劣化しない。温かい料理を入れておけば冷めないし、生の野菜を入れていても腐らない。ただ、生物だけ入れることが出来ない。ここに入れちまったら不老不死の出来上がりだからな。

 微生物とかがどうなってるのかは知らん。多分勝手に除去されてるんじゃないかな、知らないけど。


 それはともかくとして、取り出した小瓶の蓋を開け、頭に振りかける。

 するとみるみるうちに髪の毛が伸びていき、見事なまでのロングヘアーが完成した。ボサボサだけどな。

 これは知り合いの錬金術士が作った薬で、名を《瞬間増毛剤》。世のおじさま方が聞いたら、いくら金を出してでも買うだろうな。


「これで少し切れば……こんなもんだろ」

「おぉ、昔のハクハに戻ったみたいだよ」

「後はこの服かな。流石に学生服は目立つだろうし。《輪廻のローブ》とかここに入れてたはずだけど」


 空になった小瓶を無限収納室にしまい、代わりに黒いローブを取り出す。頭から被る形状ではなく、マントのように後ろに回して前で止める形状だ。ローブ、というよりはマントに近い感じだけど、正式名称としてはローブなんだ。

 肩から腰まであるローブと、腰から足首ほどまでがあるローブ。2つで1つのこのローブは、妖精王からもらったもので、性能についてもお墨付きだ。


「これで、完全に全盛期の俺みたいな感じかな」

「懐かしいね。輪廻のローブかぁ。妖精の樹にも、一度顔を出しに行かないとなぁ……」


 妖精の樹。別名【世界樹ユグドラシル】。樹の近くには妖精たちが住んでいて、ガルアースの北にある大陸【ニンブル】に生えている。地形変化とかが無ければ、今もそのままのはずだ。俺も、近々行くとしよう。妖精王にも会っておきたい。あいつら永命だからまだ生きてるだろうし。


「それじゃ、準備も出来たことだし、行くか」

「そうだね。行こう行こう」


 リオーネと手を繋いで、宿を後にした。



 んで、冒険者ギルドにやってきた。剣と杖が交差するようなマークが描かれた看板を吊るした木製の建物は、いかにもファンタジーって感じだ。今も昔も、外観とかは変わらないんだな。


 これちょっと腐ってない?ってレベルの木の扉を押し開け、中へ入ると、冒険者ならではの活気が溢れていた。ガッダリオンの冒険者ギルドには酒場も併設されてるのか。妙に酒臭いのもそのせいか。まだ昼間だぞ。働け、世の親父ども。

 見た感じ、人族だけじゃなくて亜人とかもいるし、虐げられてもないから、この国ではこれといった亜人差別はないのかもしれない。だとしたら良い国だな。亜人差別は、はっきりと言って嫌いだから。


 そのままズンズンと進んでいって、受付の前まで来る。受付嬢は黒髪の若い巨乳の女性で、俺とリオーネに気がつくと、記入していた書類を脇に置いた。


「こんにちは。どういったご用件でしょうか」

「ちょっと確かめたいことがあって。このギルドカード、俺が昔使ってたやつなんだけど、まだ使えるのかなって思ってね」


 俺はズボンからギルドカードを取り出し、受付嬢に渡した。


「はい、こちらですね。少々お待ちください」


 受付嬢は木製の受付テーブルに『作業中』の札を置いて、奥の方へと消えた。

 

 待ってる間退屈だからリオーネでも弄っておこうかとも思ったが、予想に反して受付嬢はすぐに帰って来た。

 手にはギルドカードなんて持っておらず、何があったのかって聞きたいくらいに焦った顔をしていた。


「あ、あのギルドカードは、本当にあなた様の物なんでしょうか……!?」

「ん? ああ、そうだけど」

「……お、奥の部屋でギルドマスターがお会いになるとのことです……」

「ギルドマスターが?」


 わぉ、なんてテンプレ的な展開。多分あのギルドカード、300年前のだから色々問題あったんだろうな。あの時は世界に3人しかいない最上位ランクのうちの1人だったし。

 いや、よく考えたら、俺世界に3人しかいない最上位ランクの1人だったんだよな。出したらマズイとか分かれよ、何してんだよ。


「よく考えなくても分かると思うけどね……」

「言うな、リオーネ」


 まあ、出したものは仕方ない。大人しく会うとしよう。金には困ってないけど、今のギルドカードを持ってなかったら、他に身分を証明出来るものなんてないしな。


「こちらです……」


 巨乳受付嬢に付いて行く形で、奥の部屋に向かった。


 たどり着いた部屋には、ガルアース共通語で【支部長室】と書かれていた。ここだな。

 受付嬢が扉をノックして、部屋の中から入れという声が聞こえた。


 ゆっくりと扉を開いていき、その奥に座っていた人物が、こちらに振り返る。


 長い耳に、腰まで流れるような綺麗な緑の髪。腰には女性らしいくびれがあって、顔も美人と言えるレベルのものだ。違う、確実に美人だ。絶世の美女とも言えるレベルだ。

 歳にすれば、20代中盤辺りだろうか。耳が長い、ってことはエルフか。じゃあ実際の年齢は違うな。けど、全然いい。いいよ、このギルドマスター。


 しかしというか、なんというか、一つだけ残念なのは……


「無乳だ……」

「よしお前、一歩前へ出ろ。その体を滅し尽くしてやる」

「はわわわわ……」


 殺気のような魔力がそのおっぱいからいやその体から溢れ出す。

 何故そこまで怒るのだろう。無乳も悪くはないと思うが。コンプレックスってやつか?


「ギルドマスター、俺は無乳でもいいと思う。どれだけ大きかろうが小さかろうが、おっぱいはおっぱいなんだ。そこには何の違いもない。それに、少なくとも俺は、おっぱいだけで人の価値を決めつけたりしない。どれだけおっぱいが大きくても、そいつ本人のことが嫌いなら、そのおっぱいを好きになることもない! だから安心してくれ、ギルドマスター。あんたがたとえ残念な無乳だったとしても、全体を総合して見れば、かなりの美人だ! あんたはおっぱいが小さいのを気にしてたとしてもな、他の女子からすれば、あんたのその美貌が羨ましいはずなんだ! だから、おっぱいが小さいことなんか、気にするな!」

「おっぱいおっぱいうるさいわ! お前は初対面の相手に、何を必死に説いているんだ!」


 おっと。少し必死になりすぎたか。3人全員にドン引かれている。酷いな、ここは普通、『お前はなんて素敵な価値観を持っているんだ!』とか褒めてくれてもいいところだろう。恐らく長年気にしていたであろうおっぱいのことについて、気にすることなんてないって言ってあげたんだから。


「はぁ……緊張していた私がバカみたいだ」

「何を緊張してたんだ?」

「いきなりこんなものを持ってこられて、緊張するなと言う方が無理だろうに」


 そう言ってギルドマスターが出したのは、先ほど俺が渡したギルドカードだった。


「これはな、150年も前に使用されていたギルドカードだ。デザインは今とさほど変わらんが、新規カードのほうが性能が良くてな」


 なぬ!150年前の!?

 そんなに前のものだったか。精々数年前だと思っていた。そりゃ、それだけ昔のカードを出されたら驚くか。俺なんて、見た目完全に人族だもんな。人族で150年生きてて、尚且つこの若さとかあり得るはずがないし。


 それに、ギルドの魔道具を使えば、カードの情報を無理やり読み取ることも出来るだろうし。


「で、そこに書いてある情報を読んだってことか」

「目を疑ったよ。《SSS(スリーエス)ランク》だと? ふざけてくれるな。ここ数十年、SSSに昇格したものなどいない。SSS自体が、一人もいないんだ。SS(ツーエス)でさえ、世界中で50名手前と言ったところだぞ」


 ほう。それはまた、冒険者全体の質が下がったと言うか。300年前も少なかったけど、それはSSSが少なかっただけであって、SSは100人くらいはいたはずだし。


 そう言えば、ランク制度について説明してなかったか。

 ランク制度ってのは、そのまんま、実力に応じて一定のランクを振り分けられる、っていうものだ。

 1番下はD。そこからC、B、A、Sと上がっていく。Bランクになれば一流の冒険者としてやっていける。A、Sともなれば、ある程度何かしらの才能がある人間しか到達することは出来ないだろう。

 問題はこの後のSSとSSSで、事実上のトップはSSSだ。この二つだけは例外で、なろうと思ってなれるものじゃない。そうだな、それっぽく言うと、『気付いたらなってる』ものだ。俺の場合、魔王討伐や魔神討伐の功績が認められて、SSSになったわけだな。

 SSSまで来れば、その存在は生きた伝説として扱われる。俺なんて、一部の人間に崇拝されて大変だった。俺のことを化け物とか呼んで蔑む奴も、いるにはいたけどな。


「まあ、300年以上も前に使ってたカードだしな。更新してくれるのか?」

「お前は人族に見えるが……いや、詮索はよしておこう。カードの更新だが、可能だ。だが、一つだけ条件がある」


 ギルドマスターが右手の人差し指を立てて言った。


「条件?」

「ああ。理由は二つあってな。一つは、お前が本当にカードの持ち主なのかを確認するため。もう一つは、この国に迫っているという化け物を討伐して欲しいからだ」


 人差し指を折ると同時に、今度は人差し指と中指の二本を立てながら言った。


「強いのか?」

「今この街にいる冒険者だけでは、厳しいだろうな」


 へえ。人族の国の中でも、一二を争うほどの国にいる冒険者が、『厳しい』と言うか。


「なるほど、実力を確認するとともに、厄介ごとを解決させようってか」

「そう言うことだな。断るなら断ってくれて構わないが、その場合は新規冒険者として登録してくれよ」

「いや、行くよ。手間でもないからな」


 どんな化け物なのかは知らないけど、まあ大丈夫だろう。流石に魔王クラスの奴が出てくることはないだろうし。というか、そのクラスの敵が出てきたら、とっくに国の騎士達が討伐隊を編成して、倒しに行ってるはずだ。


 本音?そりゃもちろん、コツコツとランクを上げ直すなんて作業が面倒なだけだ。


「そいつの情報は? 今どの辺りにいる?」

「そいつは巨大な地龍だ。今は【ケリオン渓谷】にて休息を取っているそうだが、いつまたこちらに侵攻を始めるか分からん」


 地龍! それは楽しそうな相手だ。

 問題の出没地点だけど、俺の知ってる場所だな。ケリオン渓谷って言やあ、南の大陸【ローリア】のど真ん中にある、でっかい渓谷じゃないか。ということは、ガッダリオンはローリアの中の国なのか。あのクソ王はそこまでは説明してなかったし、誰かに聞こうともしなかったからな。


「おお、地龍か。楽しそうだな。じゃ、ちょっくら倒してくるさ」

「いや待て、今から行くつもりか? 確かに、早く倒してくれることより良いことはないが……報告によれば、その地龍は【神龍レベル】らしいぞ?」


 張り切って出発しようとしたが、そこに待ったの声がかかる。今日はいつも以上に止められることが多いな。明にも止められたし、ここに来てギルドマスターにも止められるか。お前ら、止めるならもっと余裕を持って止めろよ。やる気出した時に止められたらやる気削がれるだろうが。


 けどまあ、ギルドマスターの心配も分かるか。地龍って言えば、幼龍でもAランク、成龍ならSランクに届くほどの敵だ。古龍種ならSSに届くか届かないか程度のSランクだし、最上位の神龍種って言えば、SSランク中位ほどの強さだ。確かに、そこらの冒険者では厳しいな。


……魔王クラス、キター。


 良くもまあ俺が召喚されるまで、この国まで侵攻して来なかったなって思うよ。来てたら一瞬で壊滅してるわ、それ。


「ん、大丈夫だろ。だってほら、俺って」


 うん。強いのは強いんだろうけど……


「元、SSSだしな?」


 リオーネにお前何言ってんだみたいな顔で睨まれる。これ以上に説得力のある言葉はないだろ。

 実際、このギルドマスターってば、『さっきから俺に(・・・・・・・)何かの魔法を(・・・・・・)使ってきてる(・・・・・・)』みたいだし。効いてないけどな。この人、自分の魔法には自信持ってそうだし、それが全く以って効いてないってところから、俺の実力はある程度把握してるだろう。


「……分かった。頼んだよ。そうだ、それと最後に一つだけ」

「ん?」


 まだ何かあるのか、と聞き返そうとした矢先、小さなカードのようなものを渡される。

 こりゃなんだ?名刺か?


「ティルマだ。ティルマ・エステッセン」


 名刺には『冒険者ギルド ガッダリオン支部 ギルドマスター ティルマ・エステッセン』と書かれていた。そう言えば、まだ名前すら知らなかったんだっけ。


「そうか。知ってると思うけど、ミナヅキ・ハクハだ。ああ、こっちの言い方だと、ハクハ・ミナヅキ、になるのか」

「放ったらかしにされてたけど、ボクのギルドカードの更新もお願いするね。ボクはリオーネ。姓はないよ」


 俺が名乗ると、ここぞとばかりに背伸びをしてリオーネが主張する。リオーネもまた、何処からともなくギルドカードを取り出して、ティルマに渡していた。


 よーっし、話は終わったみたいだし、いっちょ《地龍狩り》に行きますか!


 ウキウキとしながら、部屋から退室した。


 退室した後、扉越しにボソボソと呟くような声がした。


「……あいつら、一体何者なんだ……」


 机の上に何やら魔道具が置いてあったから、それでリオーネのカードを読み取ったんだろうな。聞こえてる、聞こえてますよ、あなたのその軽く絶望を垣間見たような呟き。

 あ、言うの忘れてたけど、300年前に3人いたSSSのうち、1人は俺で、もう1人はリオーネだからな。





「……ハクハ、ボクのこと、完全に抜きにして話してたよね」

「……すみませんでした」


 リオーネにはちゃんと叱られてしまったが、これで地龍を倒せば、面倒なランク上げをすっ飛ばせると思うと、舞い上がってしまうっていうものだ。





 それに、ケリオン渓谷まで行けば、物影でコソコソ(・・・・・・・)してる誰かさん(・・・・・・)も、出てきてくれるだろうしな。そいつも、俺が気付いてるとは考えていないだろうし。


 

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