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17 その頃、地上では

主人公視点ではありません。ある意味主人公立場的視点ではありますが。


魔の連休(ゴールデンウィーク)、本日はお休みです。ゆっくり出来ます。寝ます。

 その頃、地上では暴炎の英雄であるバクラを筆頭に、魔物たちとの激しい戦いが繰り広げられていた。


 そう。それはそれは、激しい戦いが……















「なあこれ一方的すぎねぇ?」

「奇遇だな。私も感じていたことだ」

「戦闘力がインフレしてやがる……」

「おかしい、これは絶対におかしい」

『うおおおお女神様あああああああああ!!!』


 上から順に、バクラ、トリニア、スーラ、アレク、その他の軍勢だ。

 ハクハが去った後、街の戦える魔族たちが集い出し、場には大勢の魔族が集まることとなった。



……のだが……



★★★★★★★★★


「ほいっ」

『ギァァァァァァァ!!』


 右腕を振るうと魔物たちが燃え上がって、左腕を振るうとその魔物たちが瞬時に冷凍される。


 まさに曲芸とも言えるであろう技を披露しているのは、他ならないボクだ。

 事態は簡単だ。ハクハが原因を叩くって言って何処かに行っちゃったから、ボクが皆を守らなきゃいけなくなったわけで。


 で、ボクが皆を守るっていうなら、必然的に魔法で守るという選択肢しかなかった。ボク、肉弾戦は苦手なんだよ。


「よし、っと……」


 渇いた手を打ち鳴らし、後ろに意識をやる。

 そこにいたのは、呆然とする三人と、何故か平伏して、ボクのことを『女神様』だと崇める集団だった。


……おかしい。何でこんなことになっているのかな。魔物を半滅させて振り返ったら信仰されてるとか、冗談以外の何物でもないよ。


「ねえ、これって一体どうなってるのかな」

「一線級の魔物を、ものの数分で壊滅状態にまで追い込んだから、崇拝されているのだろう」

「うん、理由を求めたわけじゃないんだけどね」


 そういうことらしい。


 あーあ、昔っからの悪い癖なんだよね、これ。戦ってる時は周りのことが見えなくなっちゃうっていう、ある意味病気めいたもの。直そう直そうとは思ってるんだけど、これが中々直らない。


 でも、仕方ないことだと思う。ハクハに『皆を守ってやってくれ』なんて言われて、舞い上がらないほうがおかしいんだよ。そんなこと言われたら、頑張りたくなっちゃうよ。


 この性格もマズイな、とは思ってるんだけどね……。流石にハクハにベタ惚れしすぎなんじゃないかって、自分でも疑っちゃうほどだから。


 ま、こっちは直す気はないよ。好きな人のことを好きだと言って、何が悪いって話になってくるから。


……似た者夫婦って、よく言われる。


「あ、リオーネ、後ろに敵」

「うん? それ」

「振り向きざまに大魔法を放つのはやめないか」


 トリニアに言われたから魔法を打ったのに、打ったら打ったで怒られるっておかしいんじゃないかな。


 それにしても、『遣い』が来てるっていうから警戒していたけど、特に何の問題もなさそう。スーラが言うには、魔族たちにちょっかいをかけていたのは、遣い一の問題児であるヘリオスらしいけど、彼が一人で来ているとも考え難い。




……いやぁ、案外あるかな? 今頃、『私の独断だ』とか言って、ハクハと戦っているかもしれない。うん、考えたらそれが一番あり得そうだよ。


「後は弱い奴しか残ってねぇな」

「弱いから隠れてたんだろうな。おいお前ら、行くぞ!」

『女神様のために!!』

「ボクは女神様なんかじゃない!!」


 残党を倒すために、呆気に取られていたバクラやスーラたちが剣を構えなおし、向かっていった。





——その時だった。




「……!? 皆、戻って!」

「お前たち、下がれ!」


 ボクの叫びと、トリニアの訴えが重なる。


 その警句を聞いて、何かが起こると理解したのか、殆ど皆が下がり、戻ってきた。


 けど、ほんの数人の冒険者風の服装の男魔族たちが、そのまま突っ込んで行ったままだった。弱い魔物なら狩れる、狩り時だ、などと言っていた。


 なんとか魔法でその人たちを守ろうとしたけど、もう遅かった。



 グシャリ


 

 実に残酷で、無慈悲な殺戮だった。空から降ってきた『何か』に潰されて、戻って来なかった彼らは死んでしまった。


 『何か』……それは巨大で赤黒い物体だった。例えるなら、赤黒く、巨大な岩石。

 だけど、岩なんかじゃない。ところどころに奇妙な割れ目があって、その奥には黒く光る何かや関節部分のようなものが見えたから。


「な、に、これ……」


 思わず、そんな言葉を零してしまう。

 少なくとも、ボクはこんなもの、知らない。数百年生きてきたボクの人生の中で、ここまで異質な雰囲気を放つものに出会ったことは、一度だってなかった。


 ふと、鋭い風切り音が聞こえて、両手を前に突き出し、魔法による防御の結界を展開する。


 刹那、青白い閃光が迸り、突き出した両手に、僅かながらの衝撃が生まれる。


「あらあら。やはり、この程度じゃ仕留められないのかしら」


 男性陣を魅了する美しい女性の声が聞こえて、閃光が放たれた場所へと目を向けると、そこにはこれまた美しい翼を携えた女性が羽ばたいていた。


 その美貌は世の男性たちの注目の的になりそうで、そして胸部では豊満な二つの山が自己を主張している。艶やかな肢体に、それを大して隠そうともしない扇情的な服。

 最後に見たのは300年も昔の話なのに、これっぽっちも変わっていない。嫌味なほどの美人さ加減だ。


 彼女は地を潰していた『何か』の上に舞い降りると、翼をたたんで言った。


「久しぶりね、リオーネ」

「ボクは会いたくなかったよ、リィーサ」


 遣いの一人、リィーサ。自身曰く、美を司る遣いだそうで、いつも美意識がどうのこうのと口煩い。


 けど、戦闘技能については確かだ。遣いは総じて戦闘能力が高いわけだけど、遣いの女性陣の中では、リィーサが一番強いかもしれない。


 しかも、それで恐ろしいのが、彼女の本当の実力を誰も知らないということだよ。ボクもハクハも、彼女が本気で戦ったいるところを見たことがない。なんでも、美しくないだそうだ。


「不意打ちは美しい行為なのかな?」

「やぁね、リオーネったら。戦わずして勝つ。それ以上に美しいことなんて、ないのではなくて?」


 うーん……確かに、不意打ちなら手を汚さずに勝てるから、美しいと言えば美しいのかもしれないけど……ボクにはちょっと分からない。


 と、そこで思考を停止していた群衆が騒ぎ出した。


 『美しい』とか『天使だ』とか『神の奇跡だ』とか。リィーサの能力の一つ、『魅了』のせいでもあるのかもしれないけど、きっと単に惚れているだけの男どもも絶対いる。男はこれだから。


 バクラにスーラはしっかりとしているようで、剣を構えたまま、警戒を解こうとしない。トリニアはあからさまに嫌そうな顔をして槍を構えている。そんなに嫌そうにしなくても。


「それで、一体ボクたちに何の用なのさ」

「そうねぇ。敢えて言うなら、会いたかったから、かしらね」

「とんだ傍迷惑なんだけどね」

「少し酷すぎるのではないかしら」


 問題に上がっていたヘリオスと夫婦の関係にあるリィーサだけど、彼女も夫ヘリオスと同様、ボクたちに対して明確な敵対をしているわけじゃない。

 だから、ボクもハクハも、何かされない限りはこっちから手を出したりしたことはない。


 ただ、ヘリオスとは違って、リィーサは自分が認めた相手以外には非道である傾向にある。さっき押し潰された何人かの魔族を殺したあの『何か』も、落としたのはリィーサだ。


「ヘリオスが、『彼らが戻ってくるーあははははは』なんて言って舞い上がっていたから、私もつい来てしまったけれど」

「そこまで似せる気のない棒読みのモノマネも久しぶりだよ」


 彼女たちも彼女たちで中々の似た者夫婦だ。


「リオーネ、その女は誰なんだ」

「遣いだよ。天上神の遣い」

「天上神……?」

「それはまた後でね、トリニア」


 問われて返すが、今はそう時間はないと思う。リィーサが出てきた以上、ボクも手を抜いてはいられない。


 そこいらの魔物とは違う。ボクも、ボクなんかよりもずっと強いハクハでも、気を抜いたら殺されるであろう相手。


 右の人差し指を背後にやって、リィーサに悟られないように少し動かし、魔法を発動させるための術式を組む。無くても発動は出来るけど、あったほうが強くなる。


「リオーネ、あなたは本当に可愛らしいわ」

「……ありがと。リィーサは相変わらず嫌味な見た目だよね」

「あら失礼ね。美しいと言ってくれるかしら」


 そうだよ、嫌味なほどに綺麗なんだよ。自他共に認める美人さ、リィーサは。

 その言葉は飲み込む。ロリだ幼女だと馬鹿にされたボクのちっぽけなプライドが、リィーサに美人だとか言うのを許さないんだ。


 そんなボクの考えを切り捨て、リィーサは言った。


「それでね、リオーネ。私は考えたの」


 突如としてリィーサの背後に魔法陣が現れ、そのまま足元へと移動していく。

 そして、その魔法陣がリィーサの乗っている『何か』を通過すると同時に、それが息づいたように蠢いた。


「ふふ。あなたの可愛さを、そのまま閉じ込めてしまおう、って」


 にょきりと。


 本当ににょきりと、腕が出てきた。内部に見えていた黒く光るあれは爪や羽になり、関節部分は腕や足、胴体部分だった。

 あの割れ目は、内側に腕なんかが折り込まれていたせいで出来たものだったみたい。割れ目と言うより、体と体の隙間かな。


 真の姿を露わにした『何か』が、その大きくて重そうな体を動かして、立ち上がる。立ち上がると言っても二足立ちじゃない。その六つの脚で、這うような形で立ち上が……


「っ!?」


 赤黒い『何か』。その真の姿は、地を這う、赤黒くて妙にテカっている、ボクの嫌いなあいつらだ。


「いやぁぁぁぁ!? 無理、無理! リィーサ、そのでっかい『虫』は何さ!」


  そう! 虫! ボクの大嫌いなMU☆SHI☆だよ!


 というか、何なのさ、このでっかい虫は! こんな虫、見たことないよ!


 ほら、あの手足の関節部分とか、あの特徴的な感じが見事にいやぁぁぁぁぁ! 見なきゃよかった。気持ち悪い、気持ち悪い!


「私特製のキメラよ。キメラと言っても、大部分が虫型(インセクト)なのだけれど」

「ボクが虫が嫌いなの知ってて、わざと組んだね!?」


 リィーサはどこまでボクに嫌がらせをすれば気がすむのさ。ここに来ただけでも十分すぎる嫌がらせなのに、それに加えて巨大な虫型の魔物なんて。


 というか、キメラってなにさ。まさか、ボクと戦うためだけに作ったの、この子は。困った子だ。お仕置きしなくちゃいけな無理いいいいいい!! 虫、動い、てる!! あそこに行くとか無理! 死んでもやだ!


「当然よ。あなたと真っ向からやって、安全に勝てるとは思っていないわ。行きなさい、『バグズバグ』」


 って、こっち来たよ!?


「ひゃぁぁぁ! 来ないでえぇぇ!! 『スパークロンド』!」

「無駄ね。この子は特大の魔法耐性を持っているわ。たとえあなたでも、厳しいのではないかしら?」


 準備していたはずの魔法を、リィーサではなくバグズバグとか言う名前の虫型に放つ。動き方が気持ち悪すぎて、本来は言わなくてもいいはずの魔法の名前も言ってしまった。しかも、魔法の制御が少し狂った。


 その上、バグズバグに向かって走った黄色い稲妻の槍は、見事にその装甲に弾かれた。本来なら、相手の体に突き刺さった稲妻の槍が、そのまま体内で踊り狂って相手を焼き殺すっていう魔法なんだけど、弾かれた時点で終わってしまった。


 本当に何なのさ、あの虫。『スパークロンド』は確かに強くはない魔法だけど、並みの魔物なら抵抗もなしに倒せる魔法だよ。

 それをこうも簡単に弾くなんて、特大の魔法耐性とは言うけど、一体なにを混ぜて作ったのさ、リィーサは。


 こうなったら、もっと上位の魔法に切り替えて行こひゃぁぁぁぁぁぁ!! 加速したぁ!?


 慌てふためいていた時、目の前に影が現れた。四つだ。


「なら俺たちだな!」

「任せてくれ」

「ふん」

「行くぞおらぁ!」


 バクラにトリニア、アレクとスーラだ。

 四人は己が武器を持って虫に向かって斬り込んで、そして突き込んで行く。


 バクラとスーラ、アレクは虫に向かって剣を振り下ろし、トリニアは槍で刺突を繰り返す。

 攻撃の嵐。たまに舞う火花は、虫の甲殻に激しく剣や槍を打ち付けているからか。


 けど、その攻撃の全てが、有効打を与えるどころか、擦り傷の一つも付けられていないことに気付く。


「あら、物理耐性をつけていないとでも思って?」

「っち、めんどくせぇ!」


 バクラは攻撃が全く効いていないことに舌打ちをし、他三人を連れて後退した。


 巨大昆虫バグズバグは、いつかハクハの住む日本で見た『くわがた』に『かぶとむし』を足したような見た目だ。ギザギザのハサミがついていて、その上に大きなツノが生えている。


 本当に、どんな魔物を混ぜ合わせたら、これほど禍々しい異様な虫型の魔物が出来るんだ。ボクが一番気になるよ。知っても実際に作ったりはしないけど。


 というか、無理。あのカサカサ動く感じが無理。関節の特徴的な感じが無理。顔が無理。目のブツブツが無理。触覚のピョンピョンしてる感じが無理。もう何もかもが無理。


 皆は良くあれに立ち向かって肉弾戦なんて仕掛けられるね。ボクはもう直視してるだけでも辛うわぁぁぁぁぁぁ!? 何か液体吐いてきた!? 


「む、無理ぃ……虫だけは、もう無理ぃ……」

「しっかりしろ、リオーネ! あれは、そうだ、芋かなんかだと思え!」

「流石に無理があるよ……!」


 すんでのところで防御の結界で液体を弾く。ベチャリと嫌な音を立てて、白いドロっとした液体が結界に付着する。これ、直撃してたら色々とアウトな絵柄になってたよ。R-18になっちゃうよ。ただでさえハクハとの夜は危ないシーンになっちゃいがちなのに、それで◯◯◯(ピー)に似た液体を被るとか危ないよ、本当に。


 トリニアはそんな中でも冷静に状況を分析し、皆に告げた。


「あの女の様子から察するに、物理耐性のほうが弱いようだ。全力での攻撃なら、あるいは……」


 そう言って皆の顔を見回す。


「生憎、俺の攻撃は魔法を使ってるんでな。厳しいぜ」


 とバクラ。


「俺もだ」


 とスーラ。


「私はどちらかと言えば手数だからな……」


 とアレク。


「私も、一撃の威力にはあまり自信がない」


 とトリニア自身で。周りの皆は魅了のせいでどうにもならない。


 ダメだ。スピードではなく、パワーで挑まなきゃならない。あの堅い甲殻を打ち破るには、高威力の物理攻撃をぶつける他にない。


 最悪、ボクの魔法で突破するという手もある。けど、あれの装甲を抜ける魔法となると、どれも周りを巻き込んでしまうほどの広範囲魔法になってしまう。ここにいる皆を巻き込んでしまう。いいや、ギリギリ、使える魔法もあるだろうけど、時間がかかっちゃうかな……?


「作戦会議は終わったかしら?」


 どうやら、こっちの話が終わるのを待っていたらしいリィーサが、優しげな声で言った。


 件のリィーサは、脇に生えていた木の、少し太い枝に腰掛けていた。生えていた葉はすべて地面に落ちていて、何かをしたということが分かる。けどまあ、多分何かの魔法だろうと思う。


「クソッ、あの女も強いだろうから、リオーネにはあいつとタイマン張ってほしいが……」

「ボクもそれがいいと思うんだけど……やっぱり虫は無理!」

「俺たちだけじゃ、このデカ虫は厳しいぜ、親父」


 ボクがリィーサと意味の分からないバグズバグを倒せたらいいんだけど、無理。リィーサはともかく、バグズバグだけは倒せる気がしない。


「ここに来て打つ手なし、か!」


 バクラが悔しそうにそう言った。誰もが諦めかけていた。









 そこに、一つの可能性が現れた。


「……そうでもないですよ、バクラさん!」

「……あ?」


 バクラの名を呼んだ低い男の声とともに、後ろにあった街壁の上から、一人の魔族が跳んで来た。


 黄色くてゴツゴツした皮膚。魔族の見た目の区別があまり付かないけど、スーラやバクラよりは痩せ型である、と思う。


 ボクには見覚えがない。けど、彼の顔を見た皆の顔が驚きと喜びに満ち溢れていた。

 ううん、喜びに満ちていたのは魔族たちだけかな。トリニアは驚きだけだった。ボクが驚いたのは、トリニアがさも彼のことを知っているかのように振る舞うからだけど。


「! お前は、確か……!」

「昨日ぶりだな、龍人族の女。ミナヅキ……はいないのか」

「トリニアだ」


 トリニアが男に向かって歩いて行く。

 ミナヅキ……? それ、ハクハの苗字だよね。この世界でミナヅキなんて名前、東方の国に住んでいる人たち以外にあるわけがないし、きっとハクハのものだ。


 ハクハも知り合いなのかな? でも、いつ知り合って……。


 あっ、そう言えば、ボク昨日、何時間か寝てて意識がない時間帯があったじゃないか。それも、トリニアと会った後に。


 その時に会っていたんだとすれば、彼がハクハを知っているのも、トリニアが彼を知っているのも、合点が行く。まあ、最初から知り合いだったっていう可能性もあるんだけどさ。


「あぁ、あいつは別の奴と()ってる」


 バクラとスーラ、アレクの残った三人もそれに続いた。ボクも付いて行く。いや皆、戦闘中だってこと忘れてないかな。そんなに簡単に背向けちゃっていいのかな。リィーサたちに攻撃の意志はないように見えるけどさ。ボクだって一応防御の結界は展開してあるけど、油断満々じゃないか。


 そんな中で現れた彼は、まずバクラに謝った。


「すみません、バクラさん。外の見回りに行っていたもので」

「気にすんな、十分に間に合ってる。被害は最小に抑えられてるからな。実は……」


 謝罪を受け止めた上で気にしないように言ったバクラは、周りの助けも借りて、事態の簡単な説明を行い始めた。

 突然魔物たちが現れたこと。ハクハは原因と思われる敵を倒しに行ったこと。こっちにも強敵が現れたこと。そして、バグズバグが強力な魔法耐性と、四人の攻撃を無傷で受け流すほどの物理耐性を持っていることを。


 時々顔を顰めていたのは、バグズバグに潰されて死んだ数人のことを思ってのことなのか。それを彼に伝えることはしなかった。


「……分かりました。俺が行きましょう」


 皆が纏めた話を聞いた上で、彼は頷いた。それも、曖昧なものではなく、確固たる表情をして。


 それに対して、アレクが横槍を入れた。


「おい、()は大丈夫なのか」

「安心しろ、補充直後だ」


 どうやら、彼を心配してのことらしいのだが、ボクには何を言っているのかがさっぱりだ。補充って聞くと、アイテムとかを想像する。戦うのに必要な何かがあるんだろうか。


 そこでリィーサの方へ意識をやると、リィーサは良いのだが、バグズバグが痺れを切らしていた。と言うよりも、既にこちらに向けて突進を開始していた。


 触覚をビョンビョン揺らしながら、鬼のような形相で迫ってきていた。もちろん、鬼みたいな形相なわけがないけど。


 うん、突進してきている。突進、突進、いやぁ! もう、やだぁ……帰りたい……。


「……無理ぃ……」


 どうせ、ボクはあいつに捕まって、リィーサにあんなことやそんなことをされるんだよ。少年誌なんかじゃ決して公開出来ないような、えっちなことをされちゃうんだ。


 うぅ、ハクハ……ボク、穢されちゃう……。


 そんなボクとは正反対に、バクラたちは随分と余裕をかましている。バクラに限って言えば、もう武器すら持ってない。その余裕はどこから来るのか。


「おい、リオーネ。安心しろ。ウチの最強の脳筋(物理火力最強)が来た」

「……え?」


 今、なんて言ったんだろう。


 物理火力最強? あの、見た目はスーラやバクラよりも弱そうな人が? 人じゃないけど。


 ズンズンと進んでいく彼の背中を見送りながら、そんなことを考えていた。この人勝てるのだろうか、と。


「あらあら、今度はあなたがお相手かしら?」


 リィーサは虫の機嫌を直せるなら誰でも良いのか、気にも留めない様子だけど、少し怪訝そうな顔をしているのは確かだ。

 だって、四人がかりで傷一つ付けられなかったんだ。それに一人で立ち向かって、バクラも、そして既にスーラやアレクまでもが武器を直している。


 普通に考えたら、只事じゃない。


「そうだ」


 彼は静かに立ち止まり、虚空から長く青い槍を取り出した。ちょっと高くて良さそうな武器ではあるけど、それだけだ。ハクハの無限収納室(インベントリ)に入っているような、聖剣級の槍じゃない。せいぜい、高級なお店の店売り品って言ったところだ。


 その青い槍を、体を半身にし、腰を少し落として構える。右手を高く、左手を低く。



 そして、それと同時に言った。











「……《三勇士》が一人、『武器破壊(ブレイカー)』ギデア……推して参る!」



 地を蹴ると同時に彼──ギデアは、目の前から消え失せていた。


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