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12 リオーネの懸念と、事の発端

何とか間に合いました。中盤何言ってんだこいつみたいなことになってます。


また、ブクマ数3桁ありがとうございます。人気作品の作者様たちからしたら何て事はないんでしょうけど、1話目を投稿したときには2桁来たら御の字だと思ってたので、とても嬉しいです。

 断頭台の木枠を砕き、二人を自由にする。

 バクラは首をコキコキと鳴らし、スーラは現状を理解出来ていないようだった。

 

 二人のことを拘束していた魔族たちは、もう歯向かう意志すらなくしたようで、只々怯えているだけだった。この中で一番強かったのであろうアレクが、一瞬であのような状態になったのだから、戦意を喪失するのも分かる。



「スーラ、大丈夫か」

「あ、ああ……助かった」



 バクラの方は《龍天》のことも知っているからこの結果にも納得出来ているだろうけど、スーラの方は無理そうだな。まあ、理解するのも時間の問題だろう。事実、自分も半殺しにされているわけだしな。



「ハクハー!」

「おっと」



 後ろから声がして振り向くと、俺に向かって飛びかかってきていたリオーネがいた。

 それを優しく抱きしめてやり、その後ろから来ていたトリニアにも声をかける。



「トリニア、怪我はないか?」

「あの状況で、怪我も何もあるわけがないだろう……」


 トリニアはどこか呆れている。

 それもそうか。二人の方には被害が行かないように配慮してたからな。


「よし、もう大丈夫かな」


 全身から力を抜き、《龍天》を解除する。

 纏った時とは反対に、今度は鎧や龍腕たちが風に戻って行き、周囲に溶け込むように霧散する。


 ホッと息を吐くのも束の間、途端に全身に痛みが襲ってきた。


「うぇぇ……全身がいてぇ……」

「久しぶりだもん、仕方ないよ」


 ズキズキと痛む全身をリオーネにさすられながら、無限収納室(インベントリ)から青白い液体の入った瓶を取り出す。


 鼻を押さえながら一気に飲み干すと、途端に吐き出したくなるような気持ち悪い味が口いっぱいに広がり、全身の痛みが少し和らいだ。不味い。これなら、病院で処方される不味い粉薬の方がまだマシだ。


「それは?」


 トリニアが、座り込んでいる俺の手の中の瓶を覗き込むようにして言った。


「これか? まあ、《龍天》の副作用を抑える薬、みたいなものだと思ってくれていい」


 実際は少し違うんだけど、大まかな部分としては合ってるから、嘘はついていない。


 その説明と、液体を飲み干して少し和らいだ俺の表情を見て、副作用=痛みという勘違いをしてくれたのか、トリニアはそれ以上は何も言わなかった。




 さっき痛んでたの、ただの筋肉痛のせいなんだけどな。副作用ってのは別にあるわけだ。そんなことを言うほど無粋でもないけど。


 それにしても、スーラと戦った時に少し動いたとはいえ、大した運動もせず鈍っていた肉体で《龍天》を使うのはしんどい。いやもう、使えないってほどじゃないけど、解いた後の筋肉痛が半端ない。


「ハクハ、なんで《龍天》なんて使ったのさ。別に、『無力化結界』くらいなら、使わなくても壊せたでしょ?」

「それもそうなんだけどさ。あいつ……アレクやその他の連中に、俺みたいな敵もいるぞ、っていう警告をしておきたかったんだ」


 立ち上がり、尻についた埃をはたき落としてから答える。

 俺の予想だと、確実にアレクは過激派の連中だ。それなら、生半可に力を見せるよりは、最初から全力で行った方が、相手も手出ししにくくなるんじゃないか、と思ったわけだ。


 まあ、アレクがかなりうざかったから、出来うる限りの力で結界を破壊してやりたかった、っていうのもあるけどな。かなりスカッとした。


 当のアレクだが、もう苦しんでいない。苦しみの果てに気絶したか。死んではいないだろうな。死んでたら困る。


「なあ、バクラ」

「なんだ?」

「アレクからは、何か情報は得られそうか?」


 気になっていたことなのだが、穏健派を纏めている実質的リーダーであるバクラの処刑を執行しようとしていたのだから、アレクはそこそこ上の階級なのではないか。


 もしそうなら、搾り出せば情報を得られるんじゃないかと。あ、物理的に搾るんじゃないからな。精神的にだからな。この状態で物理的ダメージを与えるほど、俺は鬼じゃない。


 蹴り飛ばしたけどさ。



「アレクはそう見えても、幹部クラスの男だからな。質のいい情報は持ってるだろう」


 バクラがいともあっさりと告げる。こいつ、幹部クラスの魔族だったのか。幹部クラスってのがどのくらい偉いかは知らないけど。


 でも、それなら戦闘力とかも高そうだ。


「こっちに引き込めればいいんだけどな。どれどれ……」


 昨日バクラが言っていたことを思い出す。確か、こうだ。

『謎の男が現れてから、一部の魔族が操られたかのように狂い出した』


 少し違うかもしれないけど、本筋の部分としては合っているはず。


 となると、だ。その謎の男ってのな現れてから狂ったんなら、そいつが皆に、精神を狂わす『何か』をした可能性が高い。


 なのだとしたら、その根元を取り去れば、連中は味方になるとまでは行かなくとも、狂う前の状態には戻るはずだ。

 後、その根元が何かが分かれば、芋づる式に犯人の正体も分かりそうだ。



 そう思って、相手の状態を確認しようと、昔貰ったチート能力で拙いながらも見たんだけど……



「うぉ……っ」


 アレクの額に指を当てて、探っていると、ある一点の情報に辿り着いた時に、バチリと、体に電流のようなものが走る。



 なんつう厄介な。これ、大体だけど、犯人の正体が絞り込めるぞ。

 それとも、わざとか? 俺を釣るためか?


「……あー。これはちょっと、俺の専門外だわ……リオーネ、頼んだ」


 後ろで待っていたリオーネにパスを渡す。

 犯人が絞り込めるといっても、どちらにせよ俺には対処不可能だ。

 そもそも、空間魔法以外の魔法を扱えない俺に、解呪しろって方が無茶な相談だ。


 解呪ってのは、対象にかけられた精神系の魔法を解除することだ。解『呪』と言う割には、幻惑系の魔法も、本当の呪いの魔法も、同じ扱いになってる。


「うん? 何があったの?」

「見てみれば分かるさ」

「?」


 流石の俺の様子に疑問を持ったのか、首を(かし)げながらも、俺と同じようにしゃがみこんでアレクの額に指を当てるリオーネ。


 そして数瞬後、徐々にその顔色を変え、ゆっくりと、俺たちの方へと顔を向けた。


「……分かっててボクに振ったよね?」


 何か、恨めしいものを送ってきているような、そんな視線。


 そんな目で見ないでほしい。俺だって、可能なら自分で解呪したかったけど、ソレだけは厳しいんだ。


 いや、正確に言えば、俺が厳しいんじゃなくて、アレクが厳しい。


 いやいやいや、まだ本当に『アレ』だと決まったわけじゃない。俺の判断ミスっていう可能性もある。そうであってほしい。


「……それって『アレ』だよな? 俺の見間違いとかじゃなく」


 少し震える声で立ち上がるリオーネに言う。


「間違いなく『ソレ』だと思うけど」




……うわぁ。


 一番嫌な答えが返ってきたよ。多分、こっちに再召喚されてから、一番聞きたくなかった答えだ。


 うわぁ。俺、もう『あいつら』と関わりたくないんだけど。あいつらと関わると碌なことが起きないんだよな。

 というか、魔神の時の件だって、大元の原因はあいつらだし。


「はぁ……で、解呪は?」

「現時点では無理かな」

「だよなぁ」


 妖精族がいくら魔法に優れた種族で、いくらチート性能を誇っていたとしても、この状態では解呪は確実に不可能だよな。

 【ユグドラシル】の近くまで行って、リオーネが妖精王の加護を受けながらの状態ならまだ分からないけど、ここから【ユグドラシル】まで行く労力とアレクから聞きだせる情報では、明らかに釣り合わない。


「ハクハとリオーネにも無理なのか?」

「俺たちにだって出来ないことくらいあるさ。魔族の連中はハズレくじを引いたってことだな」


 トリニアが『俺とリオーネなら何でも出来る』っていう勘違いをしているみたいだから否定しておく。俺たちにだって出来ないことはある。


 まず、家事。掃除洗濯ならまだしも、料理は二人ともに壊滅的だ。昔二人で料理対決をした時なんか、ファンタジー的ダークマターに近いものが出来てしまったからな。判定係は食う前に辞退した。


 他にも、長距離での移動では龍人族や魔族に劣るし、体力だって土精族(ノーム)には負ける。


 まあ、言ってしまえば戦闘だけの脳筋ってことだ。仮にリオーネを脳筋呼ばわりする奴がいたら俺が叩き潰すけどな。


「悪いが、俺たちにも分かるよう、説明してもらえるか」


 と、そこで全く以って話についていけなかったバクラが横槍を刺した。スーラに関してはさっきから何も言葉にしないが、何を考えているかは分からないから仕方ない。


「おっとすまん。追って説明するよ。取り敢えず、長くなりそうだから、どこか落ち着ける場所にでも」


 そうだな。アレクのことを説明しないといけないし、何よりバクラとスーラが、何故裏切り者として処刑されようとしていたのか、それも二人から聞かなくてはいけない。どのみち、話の場は設けなくてはならないなら、今でもいいだろう。


「と言っても、街の中は過激派の奴らに狙われそうだしな……」


 こんなことになって直ぐに手を出してくるほど、馬鹿な連中じゃないだろうとは思うけど、どうなるかは分からないからな。


「城になら隠し部屋がいくつもある。そこに向かおう」


 そこで、バクラが思わぬ提案をしてきた。城の隠し部屋。いいねぇ、それでこそ城だよ。


 気を失っているアレクの体を、無限収納室(インベントリ)から取り出した適当なロープで縛り、その上でリオーネに魔法で縛ってもらう。念の為だ。


 そのまま肩に担ぎ、ベストポジションを探る。ここだ。ここが担ぎやすい。


「おっと」


 先を進むバクラとスーラに続こうとしたが、そこで気を失わなかった連中のことを思い出す。


 俺たちの今の会話、全部聞かれてたよな。『隠し部屋』っていうくらいだから、適当に探して見つかるようなものでもないけど、城にいるってことが過激派にバレたら面倒だよな。



 どこぞのクソ王たちにしたように、言葉に軽く魔力を乗せて言う。


「お前ら、追ってきたら殺すからな♪」

「お前、よく悪魔より悪魔みたいだとか言われないか?」

「昔はしょっちゅう言われてたよ」


 失礼な。トリニアのツッコミも痛いけど、それを肯定してしまうリオーネも酷いと思う。


 第一、天使とか悪魔とかいう曖昧な存在に例えられたことなんて、そこまで数はないだろ。多い時でも、一日で大勢からマシンガンのように呼ばれたくらいだ。


「俺って、そんなに性格悪いか?」

「今さら何を言ってんだ、てめぇは」

「バクラ、お前そっち側かよ」


 既に処刑台から降りて進み始めていたバクラが、まさかのトリニアサイドの意見だったのには怒りを覚える。こういう時くらいは俺の側につけよ。


 冗談を交わしながら、俺も後に続いた。






 そんな状況で、早速出鼻をくじいた奴がいた。


 トリニアだ。


「……? なあ、ハクハ」


 俺の右隣を歩いていたトリニアに呼ばれる。


「ん、どうしたトリニア? トイレか?」


 トイレなんて城まで我慢してくれないと困るぞ。トイレって言っても、もちろん科学的なあれではない。そこまで技術は進歩してない。ウォシュレットとか便座を温める機能とか、ああいうのが付いていない洋式に近いものだと思ってくれていい。一昔前のタイプだな。


 余談だが、この形式のトイレを開発したのは、二代目勇者であるナツキとされている。洋式トイレがないせいでかなり怒り狂った、っていう伝承が残っている。馬鹿だろそいつ。


 話が逸れたな。トリニアがトイレに行きたいって話だったか?


「そんなわけないだろう。お前、その右の手の甲のそれはどうしたんだ?」


 呆れ顔がデフォルトになりつつあるトリニアがアッサリと否定し、アレクを抱えている方の右手を指差す。


 ? どうしたもこうしたも、ただの手の甲だろう? そんなに気になることでもあったか?


 

 右肩に抱えていたアレクを一度下ろしてから左肩に担ぎ直し、トリニアに指摘された右の手の甲を見る。



 そして、驚愕した。



「手の甲? それががどうかしたの……っ!」


  

 そこにあったのは、いつも見ているつやつやした肌の右手などではなかった。


 手の甲の中心辺り、そこから伸びるようにして、手にヒビが入ったような黒い『痣』が出来ていた。


 痛みはない。違和感すらないが、それは確かにそこにあった。


「……一体、なんなのだ?」


 焦った。昨日と今日を合わせても、一番の驚愕だ。

 そんな俺の様子に、何か只ならぬものでも感じたのだろう。


 トリニアは立ち止まって、顔を渋ませた。心配と怪訝。二つが混ざった顔だ、これは。


「……いや、大丈夫だ。ちょっと打っただけだよ、きっと」


 この痣でそれはないだろう、と自分で自分にツッコミを入れたくなるが、こういう時の嘘というのは下手なのだ。これでも、考え得る限りの最高の答えだ。


 だけど、今回は逆にそれが功を労した。何か、こちらの事情を察してくれたのだろう。


「……はぁ。何か事情があるみたいだからな。詳しいところまでは踏み込まないが」


 一つため息をこぼし、詮索をやめた。やはり、トリニアは空気を読むのがうまい。俺があまり聞かれたくないことだと、すぐに詮索をやめてくれる。


「ありがたい。お前、やっぱり最高の女だよ」

「ふん、褒めたってなにも出ないからな」

「はは、分かってるよ」


 心無しか、少し頬を紅くして、そっぽを向いて先に行ってしまう。照れてしまったか。可愛い奴め。



 残ったのは、気を失っているアレクと、俺と、リオーネの三人だけだ。



「……思ってたより、侵食が進んでるか」


 ポツリと、誰にも聞かれないように呟いた。


 が、先の件で俺の方へ意識をやっていたリオーネには聞かれてしまったのか、上のローブの端を掴んで、背中に体を預けてきた。


「……ボクに、嘘吐いてるよね」


 声が、少しだけど、確実に震えている。


 泣いてる。顔は見えないけど。


 抱えていたアレクを地面に下ろし、ローブを掴むリオーネの手を解きながら、振り向いてその眼前に屈む。


 そして、優しく頭を撫でて、落ち着かせる。


「嘘なんて吐いてないよ」

「嘘だよ。ずっと平気そうにしてたのも嘘なんでしょ? 本当はもう、《龍天》を使って戦えるほど、ハクハの身体は……」


 ポロポロと、大粒の涙がリオーネの綺麗な蒼い瞳から溢れる。


「よく見ろ。ピンピンしてるだろ?」


 両腕をプラプラさせて、身体の丈夫さをアピールしてやる。あれだけ酷かった筋肉痛も、もう治ってるんだ。半分は薬の効果だけどな。


 だから、そんなことを言わないでほしい。リオーネにそんなことを言われたら、俺だって少し躊躇ってしまう。


「……なんでわざわざ、身体に負担が大きいのを知ってて使ったのさ。確かに、渓谷で『戦いには《龍天》を使えばいい』って言ったけど、あれはそう意味じゃ……」


 しかし、リオーネには完全にお見通しらしい。


 《龍天》を使う前は、自分でもここまで酷くなってるとは思わなかった。分かったのは、本当についさっきなんだ。


 渓谷で言ったことに対して罪悪感のようなものを感じているのか、リオーネの心は沈んでいく一方だ。誰かが、浮き輪を投げて助けてやらなくちゃいけない。

 その役目は、俺のものだ。むしろ重りになってしまうかもしれないけど。


「……大丈夫。まだ大丈夫だから。それに……」


 額と額をくっつけるようにして言う。


「もう二度と、『消えたりなんて(・・・・・・・)』しないから」


 これが本当にリオーネに向けた言葉なのかは、自分でもよく分からない。不安なリオーネを安心させるために言ったのか、自分自身への決意なのか。


 ただ、そんなのはどっちでもいい。結果的にはほぼ同じことだからな。



「ハク……」

「おーい、さっさと来ないと置いてくぞー!」


 ただでさえ小さかったリオーネの声が、かなり先を進んでいるであろうバクラの大声によって掻き消された。


 怒声を浴びせるつもりで振り返った俺だったが、予想以上に進んでいたバクラたち三人を見て、少し焦る。



「おいこらバクラ! 命の恩人にその態度はなん、ってあぁもう! 置いてくなよ!」


 なお進み続けるバクラに、半分本気でキレながら、もう一度リオーネに向き直って、その小さな肩を抱き寄せた。


 ピクンと小さく揺れた肩は、やがて力を抜いていき、自然と俺に体を任せた。



「置いていかれるからさ。話はまた、後ですればいい」

「……うん」


 出来るだけ耳の側で言ってから、静かに離れる。


 そして、小さくも聞こえた制止の声を敢えて無視して、アレクを抱えて直してから、先行するバクラたちを追いかけた。



「……ハクハぁ……」



 最後の最後に聞こえたそれは、哀しみから来たものだろうか。











 今俺たちは、城内のとある壁の前に立っていた。


 仁王立ちで自信満々な表情のバクラ。何かを思案するようなスーラとトリニア。さっきの状態からまだ立ち直れていないリオーネ。いつまで経っても気絶から覚めないアレクに、それを抱える俺。


「ここだ」


 目の前に見えるのは、何てことはない、廊下の途中にある壁だ。白い壁。材質は多分石だろうけど、見た目的には何もない。ただの壁だ。忍者屋敷なんかで見る切れ目なんかも入っていない。



 だろうけど、まあ違うんだろうな。


「ただの壁に見えるけど、真実としては一面に不可視の魔法陣ってか」


 軽く手で触れてみると、そこに魔法が付与されている感覚がした。それも、超絶に微細なものだ。俺もバクラにここが隠し部屋の入り口だって教わったから分かったけど、そうでなかったら無理だ。それほどに精密で緻密だ。


「そういうことだ」


 俺に次いで壁に触れたバクラは、何事か分からない言語を話し出した。

 明らかに俺が知らない言語だ。何語なのか、皆目見当もつかない。


 が、ところどころに理解出来る単語もある。『開放』とか『開錠』なんかの魔法詠唱用単語とか。


 となると、この扉を開けるための、固有の魔法の詠唱呪文ってことになるのか。固有の詠唱呪文なら、俺が知っているはずもないからな。



 十数秒の詠唱が終わった後、壁の前にはワープホールのような渦が発生した。壁が直接通路になるんじゃなくて、回廊魔法を起動するための大きなスクロール代わりになっているのか。回廊魔法ってのは、隣合わない二点を魔法で作ったゲートによって繋げるという魔法だ。こんな感じで。


 確かにこれなら、俺たちが中にいるときに壁を壊しても、その向こうには俺たちのいる空間ではなく、ただ隣の部屋や通路が存在しているだけだから、安全と言えば安全か。接続先がどことも繋がっていないような場所なら、転移魔法でも使わないと帰ってこられなくなってしまうが。


「へぇ、結構広い空間だな」


 そのゲートをくぐった先にあったのは、そこそこに広い空間だった。なんと例えればいいか。俺の通っている公立高校の体育館と同じくらいの広さなのだが。まあ、そのくらいだと思ってくれればいい。俺の高校の体育館も、特別広いわけでも狭いわけでもなかったからな。


 

「城の地下でな。俺とスーラしか知らない部屋だ」

「地下ねぇ。ちゃんと転移のための魔法陣も設置してあるんだな。便利じゃないか」


 部屋の中は随分と機能性充実している。部屋の隅には恐らく地上へ向かうための転移用魔法陣。ベッドも幾つか用意されていて、部屋の中央には何人かで囲うための丸テーブル。会議なんかに使うのか。他にも色々ある。


「だろ? まあ、適当な席に座ってくれ」


 バクラが自慢げに言い、中央にあった丸テーブルに俺たちを案内する。


 俺の右隣にはリオーネ。左隣にはトリニア。

 そして、向かい側にはバクラと、トリニアとバクラの中間辺りにスーラ。アレクは隅にあったベッドの一つに寝かせてある。一応、ベッドの支柱にも縛り付けて。


 そして一つ咳払いをすると、バクラが話し始めた。


「じゃあ、アレクのことよりも先に、俺とスーラが捕まっていた理由を話そうか」

「そうだよ。何で捕まってた?」


 俺たちが何よりも気になってたことだ。いや、リオーネとトリニアがそこまで気になっていたかは知らないけど、俺はアレクの持つ情報なんかより、こっちの方がよっぽど気になっていた。


「……あれは、お前たちが帰ってから数時間後のことだったか」


 物思いに耽るようにして、バクラがポツリポツリと話し始めた。スーラは相変わらず黙ったままだ。







「語らなくていいからダイジェストにしろ」

「空気読め」


 何てことを言ったら左隣にいたトリニアに肘で突かれた。いやだって時間もないわけだしさ、全部全部を話していたら時間がかかるだろう。これからアレクを搾って情報を得なきゃいけないし、ダイジェストにするっていうのは意外といい案だと思うけど。


「そうか? それなら、簡単に経緯だけを説明するが」

「出来ればそっちで頼む。分かりやすくな」

「分かった。まず、答えだけを先に言っておくとだな……」


 



 短く簡潔に纏めた経緯を、バクラが足早に話し始めた。



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