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11 この馬鹿どもが

緊迫するシーンとかが上手く書けません。

「あれ?これアッサリしすぎてないか?」と思ってしまうようなら、それはただ単に私の実力不足です。申し訳ないです。

 処刑台の上、そこに立っていたのは、紛れも無く、バクラとスーラだった。


 二人がギロチンの延長線上、断頭台に繋がれ、手足を鎖で拘束される。


『これより、裁きを実行する!』


(迷ってる暇は無い……!)


 どうして二人が処刑されることになっているのか、邪神復活の手助けをしているという無実の罪に問われているのか。

 分からないことは沢山あるけれど、このままでは、確実に二人は殺される。


「二人はここで待ってろ!」

「え、ちょ、ハクハ待って! そこには!」


 静止するリオーネの声も聞こえず、俺は転移を使用して、バクラとスーラを救出しに向かった。


 転移ならば、ノータイムで二人の側に向かえる。あのギロチンの刃だって、仮に落ちてきていたとしても破壊することは造作も無い。


 短距離での転移によって、視界に映る景色が一気に変わり、俺は断頭台に繋がれる二人の側に転移する。












……はずだった。




 バチィッ!




「なに……っ!?」


 処刑台から10m程離れた場所。その中空で、見えない『何かに』阻まれた。


 そのまま衝撃を受けたかのように俺の体は吹き飛び、体に軽い痛みを感じる。


 何とか地面に伏すことはなく、着地には成功するが、その『何か』を探り始めたときに、男が体を前に曲げ始めた。


『……ククク……クハハハハ!!』


 男が大きく体をのけぞりながら、気味の悪い笑い声を上げた。



『まさか、支援者の存在に気付いていないとでも思ったかね!』


 

 俺の方に指を差しながら、大声で言う男。

 その直後、周りの集まりの中から、妙なざわめきと、小さな悲鳴のようなものが起こった。


『……まあ、流石の私も、支援者の真の姿が人族と龍人族だとは、思っていなかったがね』

「な……!」


 何故バレた。自慢するつもりでは無いが、変装用のペンダントに付与している魔法は、かなり高度なものだ。それなりの腕の魔法使いに頼んでいたから。


 そのペンダントで変装している俺たちの姿を、見抜いただと?


「ハクハ! 『無力化結界』だよ!」


 少し離れたところでリオーネの叫びが聞こえる。


 その叫びを聞いてハッとなる。


 自分の姿を確認すると、そこにあったのはゴツゴツとした魔族の肉体、などではなく、慣れ親しんだ日本人らしい肉体だった。

 髪も黒に戻っている。


 そして、先ほど俺の転移を阻んだソレの正体に気付く。


「はっ……舐めたことしてくれんじゃねぇか……!」


 『無力化結界』。正式名称を、『魔力霧散性特殊結界』。魔法による結界の一つだ。それも、恐らくダメージを与える結界と併用している。


 効果については名前の通りだ。結界に触れたものの魔力を、問答無用で霧散させる。

 その上でさらにタチが悪いのが、結界を展開した魔法使いたちの魔力は霧散されないということだ。正確に言えば、『元から結界に霧散させないようにしておいた』魔力は霧散されない。

 さっき奴らのうちの一人が風魔法を使っていたところから、そいつは結界の展開に一枚噛んでいるということが分かる。


 この結界は魔法を霧散させるのではなく、魔力を霧散させる。故に、魔力を使用する転移は無力化され、中空で止まった上で、異なる結界の効力によってダメージとともに吹き飛ばされた。

 俺の転移はどのみち魔法だから無力化されるが、これがたとえ、厳密に言えば魔法ではない転移石だったとしても無駄だ。あれは魔法ではないが、魔力を使用している。

 

 そして恐らく、その時に変装用のペンダントが発していた魔法や魔力も、同時に霧散させられたのだ。



『支援者がいると分かっていて、何の対策もしないなど、あり得るはずがないだろう?』


 こいつがいつから気付いていたのかは知らないが、どうやら処刑台を設営し始めたときに、同時に結界も展開していたようだ。


『ああ、そうそう。魔力を使わず侵入してきてもいいけど、その時にはこちらから全力で魔法を放たせてもらうよ。君はこの中では魔法は使えない。魔法による防御も出来ないからね』

「さいっこうにクズだな、お前」

『何とでも言いたまえ。ほら、どうした? 早く来ないと、裏切り者の二人が処刑されてしまうぞ?』


 クイクイと手招きをする男。


 そのような悪役のような台詞を吐いて、他の連中の心は揺らがないのか、とも思ったが、そのようなことはなかった。

 周りの民衆の目は、明らかに俺や、俺のペンダントで同時に変装魔法をかけていたが故に、元の姿に戻ってしまったリオーネやトリニアを、敵として捉えていた。


 何ともまあ、鬱陶しい嫌がらせをしてくるものだ。


『ふん、まあ、そうは言っても無理だろうがな。おい、そいつらを殺せ』


  男が後ろの魔族たちに指示を出し、指示を受けた魔族たちはギロチンが落ちないように固定していた紐を解き始めた。

 その爪や剣ですぐに切らないのは、何も出来ない俺たちに見せつけるためか。







……そりゃ、ありがたい。


 まさか、こんな場面で使う羽目になるとは思ってもみなかったが、魔力が霧散されるというのであれば仕方がない。


 両腕を前に突き出し、胸辺りの高さで交差させる。


 そして、ある技を唱える。





「《龍天》……!」




 あの男には悪いが……





















……少し、本気を出させてもらう。








『な、なんだ!?』






 突如、俺を中心に、周囲に突風が起こった。

 ただの突風ではない。黒と白、色の付いた突風。もはや、竜巻と呼んでも遜色はない。


 その竜巻が俺を包み込み、そして天高くまで渦を巻く。


 中にいた俺はというと、腕に少しずつその風が巻きついて行き、腕全体を覆う風の鎧のようになった。

 右腕には黒い風が。左腕には白い風が。

 両足にも、背中にも、胸部分にも。体を半分に割ったかのように、右半身には黒い風だけが、左半身には白い風だけが纏っていた。



 風の鎧はやがて、その姿を変え始めた。

 




 腕を振るって、周囲に吹き荒んでいた余分な風を払う。

 中から現れた俺を見た連中は、皆が口を開けて呆然としていた。先ほどまでは饒舌に話していた男も、男に指示されギロチンを落とそうとしていた奴らも、トリニアにスーラでさえ。全ての時が止まっていた。例外はリオーネとバクラのみだ。



 右半身は漆黒だった。腕全体を覆うようにして黒い鱗が支配しており、龍の鱗で作った腕鎧のように見えた。

 膝から下にはプレートアーマーの脚部のようなものが装着されており、背中には新月の夜のように、真っ黒な翼が、その存在を主張していた。


 左半身は純白だった。右半身と同じ、けれど細部の形状が異なる見た目になっており、背中には同じく、生まれたての赤ん坊の心のように、穢れのない白い翼が、静かに佇んでいた。


 そして、胸部分には黒と白が中心部で螺旋を描くようなデザインの、脚部と同じようなプレートアーマーの一部が装備されている。


 にょきりと、尾骶骨の辺りから尻尾が生えてくる。いや、先ほどから生えてはいたが、服が邪魔で出てこなかったのだ。


 輪廻のローブは、《龍天》に合わせて、最適な姿に変わっている。上半身に纏っていたローブは長いマフラーになり、下半身に纏っていたローブは先端が幾つかに分かれ、悪魔の翼のようなものになっている。




ーー待たせたな。


 静かになった空間に、俺の声が響き渡る。

 その声を合図に、突然一部の民衆たちが倒れた。気を失って、気絶したのだ。

 これが《龍天》のメリットであり、デメリットでもある。一定範囲内にいる者は、一定の魔力値がないと、敵味方関係なく、その力に圧倒されて気を失ってしまうのだ。


 残ったのは俺とリオーネとトリニア、そして処刑台の上の連中全てと、一部の戦闘民族のような姿の魔族たち。



 一歩、足を進める。



 余裕ぶっていた男の顔から、一気に余裕がなくなり、慌てふためく。

 が、側にいた魔族に何事かを耳打ちされると、すぐに平常心を取り戻し、再び饒舌になった。


「そ、それが何なのかは知らんが、結局は魔法! この結界に触れれば、その瞬間に消え去るのだろう!」


 既に、風魔法の効果は消えていた。静かになった広場には、奴の声もよく響き渡る。

 余裕ぶっている風だが、まだ声が少し震えている。未知の力に対しての恐怖か、否か。


「アレク様、処刑は……」

「構わん! やってしまえ!」


 なるほど。そう言えば、さっき誰かが言っていたな。『アレク様』って。あいつはアレクって言うのか。


 俺はまた、アレクに向かって歩みを進めた。奴は少しだけ後ずさる。


「悪いな、アレクとやら」


 足に魔力を込めて、一気に翔ける。『縮地』とやらを、身体強化と魔力だけで強引に行ったものだ。

 結界との距離を無くし、そこに左手を添える。


 《龍天》は、消えない。





「……ここは、通してもらうぞ」



 添えていない右手で拳を作り、全力で打ち抜く。




 『ガングロアー』




 《龍天》の使用にも使っている魔力とは似て非なる力を拳の先に凝縮させ、拳が結界に触れると同時に意図的に爆発させる。


 結果、結界には全力での右ストレートと、凝縮された力の爆発のダメージが加えられた。


 空気が振動し、周囲にけたたましい音が響く。


 そして、アレクが絶対的自信を誇っていた結界に大きなヒビが入って行き、ガラス細工のように砕け散った。




「がっ!?」



 そうだ。この『無力化結界』、強力すぎる故にデメリットもある。

 まず、使用者は結界内部から外に出られない。これは何人かで協力して、範囲を拡大すればいいだけの話だから、致命的な問題というわけではない。


 そしてもう一つ。何らかの方法で、術者が意図せぬ破壊をされた場合、最も多くの魔力を注ぎ込んでいたものに、リバウンドが発生するというもの。


 それも、破壊のために使用された際の攻撃の威力によって、リバウンドのダメージも肥大化する。



「が、ぐぅ、はぁっ……!?」

「はっ、面白い格好してんな、お前。土下座の練習か?」


 舞うように処刑台に辿り着いた俺は、全身を抱きしめるように平伏すアレクを見て、嘲笑う。

 アレクはそれに反論する余裕もないようで、全身を駆け巡っているであろう極大の痛みに悶えていた。


 それを、数mほど蹴り飛ばす。痛みに耐えていたアレクが反応出来るはずもなく、無様に地を転がり、仰向けで胸を掻きむしって苦しんでいた。


 流石に、全力で放てば街一つ滅ぼせるほどの威力を持つ『ガングロアー』を、全力で放つようなことはしなかったが、手加減しているとはいえ、抵抗も何も出来ない結界に受け、その結果破壊されたのだ。

 恐らく、睾丸を叩き潰された程度の痛みでは済まない。

 全身を内側から無数の剣で刺し貫かれ、眼球を抉られ、舌を引き千切られ、全ての爪を一度に剥がされ、耳から極太の棒を刺し込まれ、睾丸を叩き潰される。それらが一度に訪れたような、到底考えられないような痛みに襲われているはずだ。普通なら、ショック死していてもおかしくはない。




「ひ、ひぃぃぃ!?」



 奥で怯えていた魔族の男が、混乱の末に剣を引き抜き、ギロチンを堰き止めていた紐を切った。


 ギロチンはバクラ、スーラ両名の首めがけて勢いよく落下していったが、ここまで来た以上、それが二人の首を落とすことなどあり得ない。



「……うざったい」



 転移で断頭台の真ん前まで飛ぶ。そして、ギロチンの落下直線上に手をやり、優しく受け止めてやる。


 受け止めた刃を、そのまま握り砕く。粉々になった刃の欠片が二人の頭に少しかかるが、その辺は仕方がない




 俺は、何故か全く『焦っていなかった』バクラに向かって、憎らしげに言葉を投げるしか出来なかった。
















「助けに来てやったぞ、この馬鹿どもが」

「へっ。来てくれると思ってたよ、ハクハ」



 最初は、割と顔を真っ青にして焦っていたスーラと違って、バクラは元気そうだった。

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