三つ巴の会話
「――という訳で君には防衛科に入ってもらう」
「何がという訳でなんだ。ちゃんと説明しろ」
陽が呆れ顔でツッコム。
「分かりやすく言うとだね、君には今、二つの選択肢があるんだ」
久遠学園長は陽の前で手をピースの形にして出す。
「まず一つ、このまま処罰を受けて退学になる」
「なっ……!?」
陽は驚きの声を上げる。突然、退学の話をされたのだから当然の反応だろう。
「二つ目はさっきから言ってるように防衛科に入る」
久遠学園長は人の悪い笑みで陽を見据える。
「おい待てよ。どうして俺が退学にさせられるんだ。たかが一回ケンカしただけだろ?」
あまりにも理不尽な選択肢に陽は異を唱える。
「その一回のケンカが問題なんだよ。もしさっきのケンカの結果が君の負けだったなら、相手の方を退学にするだけで済んだだろう。しかし、君は勝ってしまった。この意味が分かるかい?」
陽は首を軽く横に振る。はっきり言って久遠学園長の言葉が陽には理解できていない。
「一般人が守護者に勝つなんて世間に知れたら大問題になるだろう? だから、その前にこのケンカをなかったことにするための手段が君を退学させるだよ」
つまり陽はケンカの事実を揉み消すための犠牲になるということだ。
「でも俺がああしなかったら、あの女の子がケガをしてたんじゃないか?」
「女の子? ……ああ、彼女のことか」
どうやら、陽の言う女の子に久遠学園長は心当たりがあるらしい。
「米倉君、君の言ってる女の子のことだが――」
コンコンコン。
不意に扉を叩く音が部屋に響く。
「どうぞ」
扉がゆっくりと開く。
「失礼します。学園長に呼ばれて来ました、アリスティア・ベイローズです」
陽の視界にちょうど話の話題になっていた銀髪の少女が入る。
「ああ、よく来たね。米倉君、紹介するよ、彼女はアリスティア・ベイローズ。我が校の新しい教師だよ」
「初めまして、アリスティア・ベイローズと言います、年齢は十六歳、長いのでアリスと呼んでください」
アリスは丁寧なお辞儀と共に自己紹介をする。
「おい、学園長。これはどういうことだ?」
アリスを指差しながら陽は久遠学園長に疑問をぶつける。
「何がだい?」
久遠学園長が質問を質問で返す。
「こいつが教師ってどういうことだよ。黒ブレザーを着ているならこいつは生徒じゃないのか? というか、十六歳で教師とかあり得ないだろう」
「服に関しては単純に気に入ったからです。それに、この年で教師になれたのは簡単に言えば、飛び級というやつです」
アリスは淡々とした声で説明する。声だけでなく表情もほとんど変わらない。
「ちなみに、彼女は見ての通り守護者でもある。さっきの話の続きになるけど君が介入しなくても彼女なら対処できていたよ」
「じゃあ、俺のしたことは……無駄なことだったのか」
陽は肩を落とす。
結局、自分のしたことが無駄でしかなかったのだから落ち込むのも仕方がない。
「そうでもないよ、これで君は防衛科に入ることができる」
「……」
「一般人が守護者を倒すのは問題だ。けれど、守護者が守護者を倒すのは問題ない。この意味、理解できるね?」
退学したくないなら防衛科に入れ、単にそう告げている。
陽は無意識の内に拳を強く握りしめてしまう。
「あと、断るなら君の秘密をばらすから、そのつもりで」
今の言葉で陽の逃げ道は完全になくなってしまった。
「……分かった。防衛科に入ればいいんだろう」
「よし、それじゃあ早速――」
「待ってください」
今までただ話の流れを見ているだけだったアリスが話に割り込んできた。
「何かな、アリス先生?」
「やる気のない人間を防衛科に入れても、時間の無駄だと思います」
「つまり、彼を防衛科に入れるのは反対だと?」
無言でこくりと頷く。どうやら反対のようだ。
「しかし、君を呼んだのは彼を君のクラスに編入させるためなんだけどねえ」
久遠学園長はいかにも困った風な顔をしている。
「それに試験もなしに彼を入れるのは試験に合格した防衛科の生徒に面目が立ちません」
「確かに……それもそうだね」
久遠学園長は少し何か考える素振りをした。
「じゃあ、今から試験をしようか」
まるで当然のようにそんなことを言う。
「今から……ですか?」
「ああ、そうだよ。まあ、時間もないから実戦形式でいこうか。試験官はアリス先生がやってくれ」
「……分かりました。それでルールは?」
「武器はこちらで準備しよう。恩恵も存分に使っていいよ。先に相手を行動不能にした方が勝ちだ。但し、殺しは無しだよ」
久遠学園長がザッとルールを説明する。
「了解です」
「米倉君は?」
「……どうせ拒否権はないんだろ?」
どこか投げやりな感じで陽は返事をする。
「よし! じゃあ、存分に戦える場所に連れて行ってあげよう。付いて来たまえ」
そして、三人は学園長室を後にした。




