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銀髪の少女

 学園長室での会話と同時刻、雷仁学園の廊下を銀髪の少女が歩いている。


 辺りに人はいない。


 先刻のケンカの後、女教師に事情を説明して銀髪の少女はすぐにその場から退散した。


 本当はケンカに割り込んできた普通科の少年にはいくつか聞きたいことがあったのだが、あの場では出来そうになかった。


「彼は何者だったのでしょう……」


 人知れず呟く。


 この学園では私闘は校則違反。違反者には罰が下る。場合によっては退学だってありえる。


 もしかしたら、普通科の少年は罰で退学にさせられるかもしれない。


 銀髪の少女は今、それを止めるために動いている。ちなみに普通科の少年を助ける理由は色々と質問したいことがあるからだ。


 だから、行き先は学園長室。学園長に直談判するのだ。


 だが、少女の服装は防衛科の生徒のもの。たかが一生徒の意見が通る訳がない。と、仮に第三者がいたなら思ったかもしれない。


 確かに、生徒なら無理だろう。


 しかし、彼女はそもそも生徒ではない。かと言って部外者でもない。


 生徒ではないが部外者でもない。なら答えは一つ。


 彼女は――。


『もしもし、聞こえていますか? 聞こえているなら返事をしてください』


「っ……!?」


 唐突に女の声がした。


 周囲を見渡すが人の気配はない。しかも音源は外ではなく内側、より正確には頭から響く。


『これは恩恵による念話なのでこのまま静かに聞いてください』


 意識を自分の頭に集中させて口を閉じる。女の声は事務的なものだ。


『手短に用件だけを言います。今すぐ学園長室まで来てください。学園長がお呼びです、アリスティア・ベイローズ先生』


「了解。それと私のことはアリスでいいです」


 アリスは自分の愛称を教える。


『……そうですか、分かりました。以後そう呼ばせていただきます』


 相変わらず女の口調は変わらない。この声の主は本当に人間なのか、失礼なことだと理解していてもアリスはそんなことを思ってしまう。


『では、私はこれで』


 その言葉を最期に声は途絶えた。


 アリスは再び意識を前方に向ける。この先には学園長室があり、学園長がいるのだろう。


 どうやら、学園長はアリスに用があるようだ。


「私になんの用なのでしょう……」


 そんなことを考えながらアリスは目的の場所に歩を進めるのであった。

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