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学園長

 現在、陽の正面には大きな扉が存在する。


 周りにいるのは先程の女教師だけ、銀髪の少女は陽も知らないうちに消えていた。


 何故こうなったのか、それは当事者の陽にさえ理解できない。


 ただケンカの後、その原因の説明を求められ二人は何があったのか、素直に説明した。


 女教師は終止無言で陽たちの話に耳を傾ける。


 陽たちの説明が終わっても、少しの間何か考えるような仕草をしていた。


 そして、何をするでもなくただ一言。


「付いて来なさい」


 そうしてここまで連れて来られた。すでに十分近く陽は扉の前にいる。


 流石にそろそろこの空気に耐えられなくなっていた陽は思いきって女教師に声をかける決意をする。


「あの……俺はいつまでこうしていれば良いんですか?」


 陽の言葉に反応して女教師の目線が陽の方を向く。


「もう少し待っていてください。準備ができたらこちらから……はい、私です学園長。もうよろしいのですか? ……分かりました。では」


「?」


 女教師のセリフは後半からゴニョゴニョとしていて陽の耳には入らなかった。


「その扉を開けて部屋に入りなさい」


「分かりました」


 どうして自分がこんなことをしなければならないのか、そう思いながらもドアノブを傾け扉を押した。


「ここは……」


 部屋の中はとても豪華な装飾が施された綺麗な場所になっている。その様はまるで、高級ホテルのようだ。


「ようこそ、学園長室へ」


 不意に部屋の奥から声が飛んでくる。この部屋には陽以外にも人がいるようだ。


「……っ!?」


 陽は声のした方を睨む。


「おっと、そんなに怖い目でこちらを見ないでくれ。別に君に危害を加えるつもりはないよ」


 視線の先には女がいた。年齢は二十才前半ぐらいだろうか、若い女だ。


「誰だ?」


「おいおい、さっきここは学園長室だと言ったじゃないか。なら、私が何者かなんてすぐに分かるだろう?」


 女は不適に微笑む。


 陽は頭の中で目の前の女の言葉を反芻させる。そして、一つの結論に辿り着く。


「……あんたがこの学園の学園長か?」


「正解、私は学園長の久遠くどう ゆかりだ。初めまして、米倉 陽君」


 久遠学園長は右手を差し出してくる。どうやら、挨拶の一貫のようだ。


 だが、陽はそれに答えない。


「おや? 君は挨拶はしない主義なのかい?」


「別にそういう訳じゃない。それよりも、どうして俺の名前を知っている? 偶然なんてのはなしだぞ」


 陽の疑問を聞いた久遠学園長はより深い笑みを顔に刻む。


「ほう、そこに気づくとは、君は中々頭が回るようだね」


 久遠学園長は陽に素直な称賛を送る。


「確かにその通りだよ。私は君がこの学園に試験を受けにきたときから目を付けていた」


「……どういう意味だ。自分で言うのもなんだが、俺は特別目立ったところはないぞ?」


 久遠学園長の答えはとても曖昧なもので、陽を小馬鹿にしているようにすら感じられる。


「何を言ってるんだ! あるだろう、君だけの特別なことが!」


 突然、久遠学園長は両手を肩の辺りまで上げて、甲高い声を出す。


 陽の肩がまるで怯えた子供のように揺れる。どうやら心当たりがあるようだ。


「君は昔、最強の――」


「やめろ!」


 陽が学園長の言葉を遮る形で大声を上げた。


「俺はもう、昔の俺じゃない……」


 陽は沈痛そうな面持ちで告げる。そこには何か苦しみのようなものが窺える。


「そうか……悪かった。この話は秘密にしておこう」


 何を思ったのか学園長は話を打ち切った。


「そうしてくれ」


 陽は学園長の方に顔を向けずに答える。


「そんなことよりも、俺をここに呼んだ理由を教えてくれ。まあ、予想はできているが」


 陽が話題の転換を行う。


「ああ、そうだったね。君を呼んだ理由は君の想像通り今朝の私闘のことだ。この学園ではあらゆる私闘が禁止されている。これを破った者にはそれ相応の罰を与えなければならない」


 学園長の発言は陽の考えた通りのものだった。


「しかも、問題はそれだけじゃない。普通科の君が防衛科の人間を倒してしまったこと、こっちの方がよっぽどの大問題だよ。君は防衛科というのがどういうものか分かっているのかい?」


「それなりには……」


 防衛科――通称、人類防衛学科。


 この学科の誕生は今から二十年近く前に遡る。


 二〇二八年、人類は宇宙からやって来た謎の生物の襲来を受けた。これにより人類の総人口は三分の一にまで減った。


 この生物は後にダークマターと名付けられ、人々に消えない恐怖を刻んだ。


 だが、ダークマターの出現と同時期に人類の中にも異変が起こった。


 人々の中に特殊な能力に目覚める者が現れた。能力と言っても種類は無数に存在する。ある者は腕から炎を操り、またある者は雷を降らせた。


 この能力は恩恵ベネフィスと呼ばれ、その恩恵に目覚めた者は守護者ガーディアンと名乗り、ダークマターに対する唯一の対抗手段となる。


 しかし、守護者とは言え所詮は人間。


 ダークマターと戦い、たくさんの守護者が死んだ。死んだ人間のほとんどが戦闘に関しては素人ばかりだった。


 この結果に対して政府は守護者を無駄に死なせないために守護者を育成する学科を作った。


 それが人類防衛学科である。


 余談ではあるが、雷仁学園では普通科と防衛科をブレザーの色で分けている。赤ブレザーが普通科、黒ブレザーは防衛科だ。


「本来、普通の人間が守護者に勝つなんて不可能なんだけどねえ」


 守護者は恩恵の力により身体能力が常人の何十倍にも高くなるため、通常は一般人が勝つのは無理だ。


「まあ、それも君が普通だったらの話だけど」


「……何が言いたい?」


 陽の口調が厳しいものに変わる。


「君も守護者なんだろう? さっきも言ったけれど、私は君のことはよく知っている」


「……確かに俺は昔守護者だった。けれど、今は違う」


「今は違う? どういうことだい?」


「俺は……やめたんだよ。どこの誰かも分からない奴のために命を懸けるなんて……偽善者みたいなのは」


 陽はただ辛そうに声を絞り出した。


「そうか……しかし残念なことに今から君はその防衛科の人間になるんだよ」


「はあ?」


 声を上げながら陽は話がおかしな方向に進むのを感じていた。

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