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庭の手入れ

村長室の窓から外を眺めると、雪がすべてを白く覆い尽くしていた。


この村には、塵ひとつ落ちていてはならない。神から預かったこの「神守村」を、清らかなまま次代へ引き渡すこと。それが、代々村長を拝命した我が一族の、唯一にして絶対の使命である。


「村長、久保田さんの件、片付きました」

青年部長が報告に来た。彼の目は澄んでいる。人を手にかけた者のよどみなど微塵もない。当然だ。彼は「人」を殺したのではない。村という庭に生えた「雑草」を抜いただけなのだから。


三十年前、先代である父が下した決断も同じだった。

あの強欲な資産家が村の土地を切り売りしようとした時、村は一丸となって彼を「土」に還した。そのおかげで、今の子供たちは飢えることなく、この静かな学び舎に通えている。


あの時、私もスコップを握った。土を被せるたび、村が浄化されていく清々しさを今でも覚えている。

コンコン、と控えめなノックの音。


商店の女将が、盆に載せた茶を持ってきた。


「村長、大滝という刑事さんが帰られましたわ。……少し、お節介を焼いておきましたけれど」

「ああ、ありがとう。君の淹れる茶は、いつも心が落ち着く」


彼女の言う「お節介」の意味を、私は深く問わない。彼女もまた、この村を守る強固な「石垣」の一部なのだ。


大滝刑事は、正義を口にしていた。しかし、彼の言う正義とは、都会の薄っぺらな法律に過ぎない。

我々の正義は、血と土に根ざしている。


この平穏を守るためなら、我々は何度でも「手」を汚す。いや、これは汚れではない。神に捧げる儀式のようなものだ。


私は机の引き出しから、古い村の地図を取り出した。

そこには、歴代の村長が記してきた「お掃除」の場所が点在している。

久保田さんの場所を、新しく書き加える。


これでまた、この村の平和は三十年守られるだろう。

窓の外では、子供たちが雪合戦をして笑い声を上げている。


健太くんが、去りゆく刑事の車に向かって元気に手を振っているのが見えた。

あの子もいつか、この地図を引き継ぐ日が来るだろう。


「……美しい」

思わず独り言が漏れた。


汚れを知らない雪が、すべてを均一に染め上げていく。

神守村は、今日も一点の曇りもなく、正しい。

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