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スクープ

指先が凍えて、ペンが握れない。


手帳に書き殴った「連鎖」という文字が、雪に濡れて滲んでいく。

最初は、ただのスクープのつもりだった。三十年前、この神守村で起きた不自然な資産家の失踪。それを洗えば、この村の「豊かさ」の正体が見えるはずだった。


だが、私は間違っていた。

ここは村じゃない。巨大な「ひとつの生き物」だ。


「……くそ、エンジンがかからない」

山道の中腹で、車が息絶えた。不自然だ。昨日点検したばかりなのに。


振り返ると、バックミラーに信じられない光景が映った。

青年団の男たちが数人、無言で、しかしきびきびとした動きで、私が来た道に巨大な岩を運び入れている。まるで、手術の止血でもするかのような手際良さで。


私は車を捨て、崖沿いの林へと逃げ込んだ。

「誰か! 誰かいないのか!」


叫び声は、厚い雪に吸い込まれて消える。

商店の女将さんが教えてくれた「絶景の近道」を走った。だが、そこにあったのは、切り立った断崖と、不自然に塗り固められた斜面だった。


足元が滑る。靴の裏に、妙に粘り気のある、薬品のような臭いのする液体がまとわりついた。

「……ああ、そうか」


崖の縁に追い詰められた時、背後に気配を感じて振り返った。

そこには、村長がいた。女将さんがいた。さっきまで岩を運んでいた青年たちがいた。


みんな、手に手に「道具」を持っている。雪かき用のスコップ、鎌、懐中電灯。

彼らの顔を見て、私は腰が抜けた。


怒りも、憎しみも、殺意すらない。

そこにあるのは、日曜日の朝に庭の雑草を抜く時のような、「退屈だが、やらねばならない作業」を前にした、あまりに平穏な顔だった。


「久保田さん、残念ですよ」

村長が、親戚の子供を諭すような優しい声で言った。


「あなたは、いい人だった。でも、あなたは『汚れ』だ。私たちは、ただ次の世代に綺麗な村を渡したいだけなんです」


「……狂ってる」

私の声は震えていた。


「一人で殺せば殺人だが、全員で殺せば『天災』にできるとでも思っているのか!」

女将さんが、お茶を出す時のように上品に微笑んだ。


「あら、誰も殺しなんてしませんよ。あなたはただ、足元を滑らせるだけ。……さあ、お掃除の時間です」

一歩、また一歩。


彼らは扇状に広がり、無言で距離を詰めてくる。

逃げ場はない。


私は手帳をポケットにねじ込み、最後の一文字を書き添えた。

「連鎖」


この村の平穏は、こうして誰かの死を土壌にして、次の世代へと繋がれていくのだ。私の死もまた、明日にはこの雪が白く塗りつぶし、村の一部になるだろう。


視界が反転した。

落ちていく浮遊感の中で、最後に見えたのは、崖の上から私をじっと見下ろす、村人たちの「澄み切った瞳」の群れだった。

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