しろい掃除
学校の帰り道、ぼくは神社の裏で一人、雪玉を転がしていた。
そこに、あの「オオタキ」というおじさんがやってきた。黒いコートを着て、都会の排気ガスの匂いがする人だ。
「ねえ、君。ちょっといいかな」
おじさんはぼくの前にしゃがみこんだ。顔がすごく疲れていて、目の下にクマがある。ぼくは転がしていた雪玉を抱えて、じっとおじさんを見た。
「クボタっていうおじさんが、崖の近くへ行くのを見なかった? 車が通れないようになっていたとか、誰かが止めていたとか……。正直に言ってくれたら、おじさん、君を助けてあげられるんだ」
助ける? ぼくを?
ぼくは不思議で仕方がなかった。助けが必要なのは、村を汚しに来たクボタさんの方だったのに。
「クボタさんは、お掃除されたんだよ」
ぼくがそう言うと、おじさんの顔がピクッと動いた。
「……お掃除? 誰がそんなことを言ったの?」
「先生も、お父さんも。みんな言ってるよ。汚れたものは、お掃除しなきゃいけないって。図工の時間に、消しゴムのカスを捨てるのと同じだよ」
おじさんは、氷でも飲み込んだみたいに顔を白くした。ぼくの手を掴もうとしたけれど、ぼくは一歩下がって、抱えていた雪玉を地面に置いた。
「おじさんも、お掃除されたいの? お茶に毒を入れるのはダメだってショウくんが言ってたけど、雪の中に埋めるのは、みんなでやるから楽しいんだよ」
ぼくがニコッと笑うと、おじさんは言葉を失ったみたいに口をパクパクさせた。その時、通りの向こうから「健太ー、帰るよー」とお母さんの呼ぶ声がした。
お母さんは、いつの間にか傘を差してそこに立っていた。おじさんを見る目は、まるで道端に落ちているゴミを見るみたいに、冷たくて、でも穏やかだった。
「刑事さん、うちの子に何を? 子供を怖がらせるのはやめてくださいな」
お母さんの声はとても優しかったけれど、おじさんは弾かれたように立ち上がって、逃げるみたいに歩き去っていった。
ぼくはお母さんの温かい手を握りながら、遠ざかる黒い背中を眺めた。
「あのおじさん、次はいつお掃除するの?」
「さあね。でも、もうすぐここにはいられなくなるわよ。雪が全部隠してくれるから」
お母さんの手は、雪みたいに冷たくて、でもとても清潔な匂いがした。




