ぼくたちのきれいな村
空から白いかけらが落ちてくると、村がきれいになる合図だ。
お父さんもお母さんも、みんなうれしそうに空を見上げていた。
一週間前、町から「クボタ」というおじさんがやってきた。
おじさんは泥だらけの靴で歩き回り、村の古い石碑をベタベタ触ったり、変な機械で地面を掘ろうとしたりした。
「あのおじさんは、村にバイキンを運んできたんだよ」
学校の先生は、給食の時間に静かにそう教えてくれた。
「みんなで掃除をして、村を元通りにしましょうね」
その夜、ぼくは窓の隙間から見た。
青年団のお兄ちゃんたちが、クボタさんの車の前に大きな石を並べていた。まるで工作の時間みたいに、みんなで声を掛け合いながら、楽しそうに。
駐在所の警察官も横でニコニコしながら、懐中電灯で足元を照らしてあげていた。
次の日、クボタさんは崖から落ちて死んだ。
「お掃除が終わったんだね」
ぼくが言うと、お母さんはぼくの頭を優しく撫でて、「健太は物分かりがいいね」と、とびきり美味しいお菓子をくれた。
それから、また別のおじさんが来た。
「オオタキ」というその人は、怖い顔をして村の人たちに詰め寄っていた。
商店の女将さんは、そのおじさんに温かいお茶を出してあげていた。
「毒でも入れたらいいのに」
ぼくが小さくつぶやくと、隣にいた友達のショウくんが「ダメだよ、それは掃除じゃないもん」と教えてくれた。
掃除は、みんなで、静かに、誰にも迷惑をかけないようにやるものなんだ。
翌朝、オオタキおじさんは黒いワゴン車に乗って帰ることになった。
村のみんなで、村の入り口まで見送りに行った。
おじさんの車が動き出す。ぼくは、お母さんの手をギュッと握りながら、じっと車を見つめた。
おじさんはバックミラー越しに、こっちを震えるような目で見ている。
どうしてそんな顔をするんだろう。
ぼくたちは、ただ、このきれいな村を守っただけなのに。
雪はどんどん強くなって、おじさんの車の跡を白く塗りつぶしていく。
「バイバイ、汚れ物さん」
ぼくは隣のショウくんと顔を見合わせて、ニッコリ笑った。
ぼくたちの瞳は、降ってくる雪よりも、ずっと澄んでいたはずだ。




