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手紙

 クロムは書斎にラセットを呼び出した。


「祭りで捕らえた男は何か話したか」

「はい。シェリー様暗殺未遂について罪を認めました。ただ一つ問題がありまして、どうやらあの男、シェリー様暗殺の件を街の飲み屋で言いふらしていたようです」

「そこまで馬鹿なやつだったのか」

「大金が入ったことを自慢したかったのでしょう。しかし厄介なことになりましたね。男を捕まえたことで、シェリー様生存のことも噂になっているかもしれません。その噂がもしヘリオドールまで伝わったら……」

「オーキッド家とベルゼーヌ家にもシェリーの生存が知られているかもしれないな」

「何か手を打ちますか?」

「……いや、ベルゼーヌは家からシェリーを追い出すのが目的だったんだ。異国で生きていたからといって、さらに手を出してくることまではしないだろう」


 しかし、この予想は外れることになる。

 後日、シェリー宛の手紙が届いた。門番からその手紙を受け取ったラセットが、急いでクロムの元へ手紙をもってくる。


「ベルゼーヌ家から手紙?」

「ええ、やはりシェリー様のことがヘリオドールにまで伝わっていたようですね」

「まったく、ベルゼーヌもおとなしくしていればいいものを。実の娘を見捨てておいて今さら何の用だというんだ」

「何かの罠でしょうか。一応、手紙に呪いの類は仕掛けられていないようですが、手紙のことをシェリー様にお伝えしますか?」

「そうだな。シェリー宛の手紙なら本人に開けさせるのが筋だろう。私も同席する。今すぐ彼女を呼んでくれ。それから念のためイーオスもここへ」

「承知いたしました」



*****



 シェリーはクロムに呼び出され、クロムの書斎にやってきた。書斎にはクロムの他にラセットとイーオスもいた。


「今日、ベルゼーヌ家からシェリー宛に手紙が届いた」

「ベルゼーヌから……ですか」

「おそらく収穫祭で捕らえた男から情報が漏れたようだ」

「つまりベルゼーヌは私が生きていることを知っている」

「ああ。手紙には何も仕掛けられていないようだが、念のため一緒に中をあらためてもいいか?」

「ええ、もちろんそれは構いません」


 シェリーも一人で手紙を開封するよりクロムたちがいてくれた方が心強い。魔法や呪いが仕掛けられている心配だけでなく、自分を亡き者にしようとした家族からの手紙を一人で開ける勇気はなかった。

 シェリーはラセットから手紙を受け取ると、ゆっくり蠟封をはがす。震える手で中の便せんを取り出し内容を確認した。


「何と書いてあった?」

「私の元家族らしいことが書いてありました」


 シェリーはクロムに便せんを渡した。クロムが内容を読み上げる。

 

「カナリアの体調が悪い。家に戻ってきて治療をしろ。そうすればオーキッド家から逃げ出したことも不問とする」


 クロムが顔しかめると同時に、イーオスが興奮気味に言った。


「何ですかそれ。オーキッド家から逃げ出したって、ベルゼーヌの人たちが仕組んだことだったんすよね?」


 クロムは返事の代わりにぐしゃりと便せんを握りつぶした。


「シェリー、これは燃やしても構わないか」

「ええ、それは構いません。ただ……」

「ただ何だ? まさかベルゼーヌ家に帰る気ではないだろうな」

「……帰るわけではありません。帰りたいとも思っておりません。しかし、治療を頼まれて、それを断ることはしたくありません」

「彼らはあなたのことを亡き者にしようとしたんだ。そんな人間たちのためにあなたが治療を行う必要はない」

「もちろん私も彼らがどうなろうとどうでもいいと思っている自分もいます。正直なところ、両親たちの顔は二度と見たくありませんし。しかし、医術師としては、患者を選ぶようなことはしたくないんです。たとえそれが自分を殺そうとした相手だったとしても、一度自分の感情で患者を選ぶようなことをすれば、この先ずっと私は治療のたびに悩むと思うんです。だからこれは、元家族のためにというより、医術師としての矜持を守るため、自分のために妹の治療をしに行きたい」


 クロムは黙ってシェリーを見つめていた。シェリーもそんなクロムの瞳を見つめ返す。二人の間に気まずい沈黙がおりたが、シェリーは譲る気はなかった。そしてその沈黙を破ったのは意外にもラセットだった。


「はは、これはクロム殿下、我々が折れるしかないですよ」

「さすが師匠だ。俺はその心意気に賛成っす」


 二人の言葉に、クロムはやがて大きくため息を吐き出した。


「分かった。そこまで言うなら妹君の治療をしてもいい。だが、条件がある。ヘリオドールには私も同行する」


 この発言に、ラセットが素早く反応した。


「お待ちください。殿下がヘリオドールに入られるのは大事になります。護衛でしたらイーオスにお任せください」

「いやダメだ。シェリーが行くなら私の同行が条件だ。別に身分を明かす必要はないだろう。シェリーの従者ということにしておけば問題ない」


 頑として譲らないクロムの態度に、ラセットは頭を抱えた。


「ああ、もうダメだ。こうなったら絶対きかないんだから」


 かくしてシェリーとクロムはともにへりードール王都にある、シェリーの実家へ赴くことになったのだった。



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