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街へお出かけ

 シェリーはシャルトルーズのもとで医療魔法の勉強をするかたわら、屋敷の使用人たち用の薬草クリーム作りも継続していた。

 今日もメイドが一人、新しい薬草クリームを求めて医務室にやってきた。


「シェリー様、いつもありがとうございます。このクリーム、本当によく効くのでもうこれなしには仕事ができません」

「そこまで言ってもらえると作り甲斐があるわ」

「あの、前から思っていたのですが、この薬草クリーム街で売ってみてはいかがですか?」

「これのクリームを売る?」

「絶対に人気になりますよ。メイドたちでも話してたんです。きっと街の人間も欲しい人はいっぱいいるだろうって」


 自分で作ったものを商品として売るなんて今まで考えたこともなかった。だけど少し面白そうだな、とシェリーは思った。自分がいいと思うものを作って売って、もしそれを多くの人が気に入ってくれたらこんなに嬉しいことはない。


「ちょっと考えてみるわ」


 とはいえ、商品化して売るとなるとパッケージや販路など、考えなくてはならないことがたくさんある。


(そうだわ。アイリスに相談してみようかしら)


 彼女はこの前会ったとき、自分で描いた絵を販売していると言っていた。アイリスなら街での商売について何か助言をくれるかもしれない。

 しかもちょうど明日、アイリスと街へでかける予定になっていた。



 翌日、シェリーがやってきたのは街にある劇場だった。待ち合わせ場所である劇場のエントランスでアイリスを待つ。


「なんだか緊張するわ」


 シェリーはヘリオドールに住んでいたときも劇場には行ったことはなかったので、こうして劇場というものに足を踏み入れるのは初めての経験だった。行きかう他の客たちはみんな劇場通い慣れていそうな雰囲気で、上演される劇のパンフレットやおそろいの扇などを持って楽しそうに話している。

 そんなエントランスの端っこでそわそわしながらシェリーが待っていると、鈴を鳴らしたような声が聞こえた。


「お待たせ、シェリー!」


 シェリーは駆け寄ってくるアイリスに小さく手を振る。


「今日は誘ってくれてありがとう」

「こちらこそ、シェリーと一緒に観劇できるなんて嬉しいわ」


 今日シェリーたちが観る劇は、アイリスが挿絵を担当したロマンス小説を原作としたものだ。アイリスはその小説を書いた作家から観劇のチケットをもらったらしく、シェリーを劇場に招待してくれたのである。


「いけないもうすぐ開園時間ね。さあ、中へ入りましょ」


 アイリスに案内してもらって劇場の中へ入ると、中は思ったより広く、シェリーたちの席は一階の前から五列目の席だった。席に座ってから後ろを振り返ると、二階席までほぼ満席状態になっている。


「この劇ね、今とても人気でなかなかチケット取れないのよ」


 そう言ってアイリスがにっと笑った。


「そうなのね。とても楽しみだわ」


 と話をしているうちに、劇場内の照明が落ちていく。いよいよ開幕のようだ。

 劇の内容は、別世界から生まれ変わった主人公が、何度も人生をやり直しながらやがて運命の相手と幸せな人生を築くというものだった。シェリーはアイリスに借りて原作本を読んでいたのだが、話の内容を知っていてもすっかり物語に引き込まれてしまうほど楽しめるものになっていた。登場人物たちは、まるで本当に物語から飛び出してきたかのように、アイリスの挿絵どおりの姿をしていたし、さらに舞台の演出についても圧巻だった。舞台に花畑が出現したかと思えば、今度は観客席に雪が降ってきたり、と魔法を駆使して観客を楽しませる工夫が随所に凝らされていたのだ。


「劇ってこんなに楽しいもなのね」

「私も劇を見みるのは久しぶりだったから楽しかったわ。観劇のチケットって高いからなかなか気軽にいけないのよね。でも今回は幸運だったわ。こんな人気の劇のチケットタダでもらえるなんて。こういうとき仕事しててよかったって思うわよね」

「そうだ仕事で思い出したのだけど、このあと少し時間あるかしら。相談に乗ってほしいことがあるのだけど」

「いいわよ。どこかでお茶でもする?」


 シェリーとアイリスは劇場を出て、街のはずれにある静かな喫茶店にやってきた。ここはラセットに教えてもらった店で、ゆっくり話をするならここがいいと勧めてもらったところだった。


「このお店は、パルフェというのが美味しいらしいの。食べてみましょう」


 パルフェにはいくつも種類があったが、とりあえずおススメの雪解け苺のパルフェとオレンジチョコレートのパルフェを注文してみる。


「お待たせしました」


 二人は運ばれてきたパルフェに目を丸くさせた。


「わー! なんて美しいスイーツなの!」


 アイリスが悲鳴にも似た声をあげる。シェリーも驚いた。出てきたパルフェは、まるで雪の上に宝石をちりばめたようにキラキラと輝いていた。

 二人は柄の長いスプーンを手に取り、さっそくパルフェを口に運ぶ。

 甘く濃厚なバニラアイスクリームに、さわやかでジューシーな果物が絶妙にマッチしている。


「幸せ」


 シェリーもアイリスも夢心地でパルフェを堪能した。


「ところでシェリー、何か相談があるんだっけ?」


 パルフェがすっかりなくなるころ、アイリスが思い出したように言った。

 シェリーはパルフェのあまりの美味しさについ本題を忘れるところだった。


「実はね、私メイドたちのために薬草クリームを作っているのだけど、そのクリームを街で売ってみようかと思ってるの」

「へえ! シェリー、薬草クリームを作れるの? すごいわ」

「最初は手荒れのひどいメイドたちのために作りはじめたのだけど、そのメイドたちが街で売ってみたらって」

「いいと思うわ。美容グッズは巷でも大人気よ。うまくいけばかなり儲けられると思う」

「私一人だからそんなに数は作れないと思うのだけど、せっかくだしやってみようかなって。アイリスが絵を売っているって聞いて私もやってみたくなったの。それで……アイリスにお願いがあるのだけど、クリームの入れ物に絵を描いてくれないかしら」

「やる。やるわ。任せて」

「ほんと? 助かるわ。それから販売できる場所や方法について詳しい方を知っていたら紹介してくれないかしら」

「ああ、それなら婚約者のジュリアンに頼んでみるわ。彼、そういうの得意だから」


 こうしてシェリーはアイリスと一緒に薬草クリームの販売に乗り出すことになった。






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