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だから僕らは大人になれない  作者: 黒月水羽
第一章 訳あり幽霊と呪われ少年
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4-9 深里は俺と一緒で、当主の器じゃなかったんだよ

 骨を拾い骨壺に収めると、一同は火葬場からお寺に移動。そこで葬儀を終えると、告別式が行われる葬儀場に移動。

 当主の息子という立場故に、親戚の葬式に参加する機会の多い夷月だが、何度経験しても慌ただしい。そのうえ結婚式などの明るい行事とは違い、葬式には悲しみがつきまとう。

 通夜が三日と長いため心の整理をしている者が多かったが、それでもふいにこみ上げるものがあるのだろう。時折、押し殺したような泣き声が聞こえ、そのたびに夷月は体が重くなるような気がした。


 それも告別式が終われば一区切り。まだ両親を含めた大人達は、相続問題などいろいろあるらしいが、夷月はお役御免である。

 というのに、もうすぐ終わりという気持ちになれないのは、この後一騒動起こることを知っているからだ。


 告別式の会場にはすでに参列者の姿があった。バスから降りてきた喪服の集団を見て、神妙な顔で頭を下げる者と目を輝かせる者。反応は両極端だった。空気も読まずに話しかけてこようとしたものを、響は笑顔で拒否する。航は真面目な顔で礼をし、快斗はヤンキーばりに睨み付けた。客観的に見ると本当に言動が似てない兄弟だ。


 会場に足を踏みいれると、大きな祭壇が目に飛び込んでくる。沢山の花で飾られた祭壇の中央に、勝正の遺影が飾られていた。どこかの山をバックにした笑顔のもので、見ているだけでも明るい気持ちになる。

 会場の壁には、勝正が旅行先でとった写真が飾られていた。綺麗な風景写真や、現地の人と一緒に映った異国の写真。友人と一緒にいったらしいキャンプ写真など、種類は様々だったが、楽しくなるようなものが多かった。

 先に入った親戚たちは椅子には座らず、写真を思い思いにみて回っている。葬儀の時よりも笑顔が多く、思い出話に盛り上がる様子に夷月も嬉しくなった。


「いつの間に写真なんて選んだの」


 こそりと隣にいる咲に聞くと、綺麗な笑みを返された。その反応で夷月たちがお堂にこもっていた時間だと察しがついた。少しでも休んでほしいという気持ちで響たちは咲を家に残したのだが、じっとしていられなかったのかもしれない。


 告別式にはどのくらいの人間が訪れるか分からない。入り口には参列者が名前を記入するためのスペースがあり、すでに列が出来ている。

 祭壇の前にはお線香を上げるための台と、持ってきた花などを置くスペースも確保されていた。隅の方には喉を潤す水とコップも用意されているのは、沢山の人がくることが想定されているからだ。何かと話したがる者も多いので、長丁場になる。


 夷月は子どもという理由で早めに帰されるが、大人達は最初の一、二時間は最低限いなければいけないらしい。その後は交代制で、誰か一人は本家の人間がいる状態にしなければいけないのだとか。本家というのも大変である。

 羽澤家の告別式に参加したことがある者は、それを知っている。だから最初の一、二時間は訪れる人も多いのだ。逆に、ゆっくり故人との別れを惜しみたい人は昼以降に来ることが多いと聞いた。無粋な人間に邪魔されたくない気持ちは夷月にも分かる。


 さて、雅美はいつ来るだろうかと夷月は考えた。

 人が少なくなった昼ぐらいか、それとも終わり際の夕方くらいか。

 鎮が事前にそれとなく、悪魔が告別式に来るかもしれないという噂を流したと聞いている。噂は問題無く広まったようで、今日は朝から落ち着きのない親戚が多い。今もチラチラと出入り口を気にする者が多く、それがそろいもそろって悪魔信者と呼ばれている者たちなことに夷月は笑いそうなった。


「ねえ、本当に来るの?」


 噂を流す。呼ぶという話ししか夷月は聞いていない。悪魔と呼ばれる存在がどんな人物で、今どこに居るのか、どうやって連絡をとるのかも分からない。快斗は響が連絡をとれば間違いなく来ると確信していたが、夷月は疑問が消えなかった。

 小さな夷月の問いに響は笑って見せた。心配するなという顔だ。それからその場にしゃがみこみ、夷月の耳に唇を寄せる。


「近くに待機してもらっている。雅美さんが来たら呼ぶ手筈だ」

 

 驚きの声が口から出かかって、夷月は慌てて口を塞いだ。それから周囲の様子をうかがって、誰もこちらのやり取りを見ていないことを確認してから、響の耳に小さな声で囁く。


「悪魔って呼ばれてるのに、律儀だね」

 響は驚いた顔をした。それからおかしそうに笑う。


「アイツを律儀なんて言ったのは、夷月が初めてだ」

 

 そういいながら愉快そうな顔をして、響は夷月の頭を撫でた。いつもよりも力が入って、乱暴で、全身で笑っているようだった。

 響がこんな楽しそうな顔をするのは珍しい。一体悪魔と響はどんな関係で、どんな人物なのだとモヤモヤしてきた。

 その疑問を口に出す前に、周囲が騒がしくなる。何事かと夷月が周囲を見渡すと、人混みをかき分けて誰からがこちらへ向かってくる所だった。


「羽澤響!!」


 その人物は甲高い声で響の名を呼ぶ。響がとっさに夷月の前に出て、夷月を庇うような態勢になった。そんな響の前に後ろで控えていた鎮と慎司が並ぶ。夷月は大人達の背で塞がれた視界からなんとか顔をだし、声の主を見定めた。


 その人物は真っ赤なロングワンピースを着ていた。デザインは五十代の女性らしくシンプルで、露出の少ないものだ。ブランド物らしい黒いバックを肩からさげていて、雑誌に乗っていても違和感がないくらい着こなしている。

 羽澤家の人間らしく、実の年齢を感じさせない若々しい容姿に細身の体型。街を歩いていれば、素敵な女性だと見とれてしまうような自信と魅力を感じる容姿だが、告別式という場ではどこまでも浮いていた。

 黒い正装を身にまとった者たちが、なんて罰当たりなという顔をして雅美を見つめる。驚愕、侮蔑、嫌悪。様々な感情が視線に乗せられているが、全てマイナスのものだ。


 そんな負の視線を全方面から浴びても、雅美は全く気にしていなかった。いや、見えていなかった。

 美しい顔は憤怒で歪んでいる。山にいたら山姥と見間違えたかもしれない。そうしたら真っ赤なワンピースの女という、新たな都市伝説が生まれていたかもと夷月は場違いなことを考えた。


「あなた、リン様の居場所を知っていたのに、なんで今まで黙っていたの!!」


 雅美が甲高い声で叫ぶ。リン様という名に羽澤家の人間がざわついた。先ほどまで雅美に非難の目を向けていた者が、突然響に敵意を向ける。その空気の変化に戸惑っているのは、羽澤という家を知らない部外者だろう。


「雅美さん、周囲を見回してください。今は告別式の最中です。あなたのお父様の」

「話をそらさないで! 私の質問に答えなさいよ! リン様はどこにいらっしゃるのよ!!」


 雅美は甲高い声で叫び続ける。よくもまあ、そんな高音が口から出るものだと、夷月は人体の神秘に思考がそれ始めた。それくらい聞いているだけでも疲れる声だった。


「しばらく会わないうちに、会話すら出来なくなったのか。俺が羽澤にいたときは、もうちょっと人間のフリ上手だったじゃねえか。どこに化けの皮落としてきたんだ?」


 快斗が響たちの横を通り過ぎ、雅美と正面から睨み合う。雅美はヒールを履いているし、女性の中でも背が高いようだ。それでも男の快斗の方に分がある。腹立つ顔で見下ろされた雅美は、分かりやすく顔をゆがめた。


「弟に当主の座を奪われた負け犬が、よくもまあ戻ってこれたわね」

「なにいってんだ。響を当主に指名したのはお前が大好きなリン様だぞ。リン様の言うとおりにしておけば良かったのに、道理をしらねえ人間風情の俺たちが、勝手に騒いで揉めてただけだ。生まれた時から、響が当主って決まってたんだよ」

 快斗はそこまで一息で言い切ると、今まで見た中で一番嫌な笑顔を浮かべた。


「深里は俺と一緒で、当主の器じゃなかったんだよ」


 その言葉に雅美の顔が怒りで染まった。持っていたバックに手を突っ込むと、中から何かを取り出す。その動きに既視感があって、夷月はトキアと出会ってすぐに遭遇した事件を思い出した。


「快斗おじさん! 危ない!!」


 慌てて響の背から飛び出しながら叫ぶ。快斗は夷月の声に反応して、夷月の方を振り返ってしまっていた。いつもの勘の良さはどうしたと舌打ちしそうになりながら、夷月は快斗の腕を乱暴に引っ張る。


「昔から、アンタのこと嫌いだったのよ!!」


 そう叫んだ雅美の手にはナイフが握られていた。


 


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