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だから僕らは大人になれない  作者: 黒月水羽
第一章 訳あり幽霊と呪われ少年
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4-6 面白くなりそうだね!

「話をまとめると、怪しい宗教にのめり込んだ雅美おばさんは、自分の孫が異端の双子だと知って、ブチギレ。勝正おじさんはおばさんから豊さんたちを守るために、おばさんの天敵である快斗おじさんの所に豊さんたちを避難させた」


 何事もなかったかのように板間に腰を下ろし、夷月はお重に手を伸ばすとチーズをつまんだ。

 きれいに盛り付けられていたお重の中身は、揺れによって崩れたが味は変わらない。喉が渇いたなと紅茶を飲み始めると、快斗と航から信じられないものを見る目を向けられた。


「おい、響。コイツの教育どうなってんだ」


 快斗が顔をしかめながら響に問う。失礼な話である。夷月はムッとして、快斗に誰か文句をいってくれないものかと周囲を見回したが、大人たちはなんとも言えない顔で夷月を見下ろしていた。

 誰も助けてくれないと知って、夷月は頬を膨らませた。


「肝が座ってていいんじゃないか」

「肝が座ってるで済ませていいのか、これ?」

 しばしの沈黙の後、航が取り繕うようにいう。すかさず騒ぐ快斗を見て、夷月は眉間にシワを寄せた。


「夷月様の謎度胸に関しましては、後にしまして、雅美さんの話に戻りましょう」


 鎮はそういうと一升瓶を掲げる。幸い、割れなかったようだ。あからさまな誤魔化しだと分かっていたが、快斗は眉を吊り上げ、不機嫌を表に出したまま乱暴に座り直す。

 すかさず鎮が、握りしめたままだった快斗のおちょこに酒を注いだ。さすが、機嫌取りに慣れている。


「さて……大体の事情は分かったが、どうするか……」

「実の父を手に掛けるような方です。快斗様の側も、いつまで安全か……」

 座り直した響と慎司は沈痛な面持ちだった。快斗の隣に腰を下ろした航も難しい顔をしている。


「おばさんがいくら快斗おじさんが苦手っていっても、人を雇って強引に誘拐させるって手もあるしね」

 紅茶を飲みながらのんびり告げると、大人たちから非難の目が突き刺さった。ありそうな話を口にしただけなのに、酷い反応である。


「深里って人、行方は分からないの? その人の言うことなら雅美おばさんも聞きそうじゃない?」

「分からないし、仮に分かったとしてもアイツが協力してくれるとは思えないんだよな……」


 そういうと快斗はチラリと響を見た。響は硬い顔をしている。

 響が当主になる前は、いろいろあったと聞いている。今はこうして普通に話す航と快斗とも、夷月が生まれる前はギクシャクしていたらしい。それを踏まえれば、深里と響の関係も複雑なのだろうと推測できる。

 ただでさえカルト宗教の教祖みたいな人だし、話が通じるとは思わない方がいいのだろう。


「じゃあ、雅美おばさんを説得できそうな人はいないと……」

「いや、いないわけじゃない」


 どうしたものかなと思いながらのつぶやきに、快斗は低い声で答える。驚いて顔を見れば、迷うような仕草を見せてから、響と目を合わせる。

 響は戸惑った様子で快斗を見返していた。快斗がいう人物の心当たりが、まるでないようだった。


「お前らリン様の行方、知ってるだろ」


 快斗の言葉に響、鎮、慎司の三人が体を強張らせた。すぐに何のことかと誤魔化してみせたが、一瞬でも快斗と航、夷月にも真実は伝わった。

 快斗はめんどくさそうに鼻を鳴らす。


「誤魔化しても無駄だ。場所までは知らねえが、お前らがリン様の居場所を知っていることを一部は勘づいてるし、一部は疑ってる」

「疑ってるって……」

 慎司の困惑した様子に、快斗は愉快そうに口の端を吊り上げた。


「お前ら、リン様に気に入られてただろ。リン様が居場所を教えるとしたらお前ら三人。特に響だ。そんなの推測する必要もないくらい、羽澤家では常識だ」


 響が悪魔と呼ばれる存在に、気に入られていたという話は聞いたことがある。悪魔の存在自体を疑っていた夷月はまともに聞いてはいなかったが、悪魔信者からすれば違ったのだろう。


「父さん、悪魔信仰者によく絡まれてたのって、それが原因?」

 問いかけると響は顔を強張らせた。正解らしい。


「お前の息子が一卵性の双子だったことを、一族の人間は知っている」

 黙って事の成り行きを見守っていた航が口を開いた。その空気は重々しく、夷月の背筋は自然と伸びる。


「事故死ということになっているが、実際はそうじゃないだろうというのも。一部では子どもを奪われたお前は、復讐のために羽澤家を滅ぼそうとしているのだと言われている」


 響は目を伏せた。

 ロウソクの明かりがゆらゆらと揺れ、その顔を不安定に照らす。いくらロウソクが集まろうと、照らし出せない影がくっきりと浮かび上がった気がした。


「正直に言えば、こんな家滅んでしまえという気持ちもあります」


 響の告白に誰も、何の反応もしなかった。薄々、みんな察していたのだ。仕来りやら後継者争いやら、理不尽とも言える理由で響は子どもを失った。その原因である家を恨まないはずもない。


「だが、夷月がいる。なのかもいる。私にはまだ責任がある」

「もう一人、生きているんだろう」


 航の静かな声に、響は驚いて顔を上げる。鎮と慎司も食い入るように航を見たが、快斗は平然としており、手に持ったおちょこを眺めていた。

 快斗はアホに見えるがバカではない。なんとも矛盾した様子に、これだから身内は油断ならないんだよなと夷月は苦い顔をする。


「トキアの死因は川に落ち、流されたことによる溺死だ。という噂が広まっているのは知っているか」

「初耳です」


 響は顔をしかめた。鎮と慎司はわかりやすく反応する。二人は噂のことを知っていたが、響に伝えていなかったようだ。


「トキアの死因は何者かに刺されたことによる出血死。本家に近い人間はそれを知っている。トキアが病弱だったことを考えると、森の中に誰かが誘導しただろうことも。八歳という年齢でトキアはリン様に気に入られていた。次の当主はトキアだろうという空気ができあがっていた。それに不満を持った何者かの犯行だろうと」


 航が淡々と、書いてある文字を読み上げるように語る。感情の乗らない声は、平静を装うために感情を押し殺しているように夷月には聞こえた。


「でも、最初に狙われたのってアキラ兄さんなんでしょ? トキア兄さんはそれを庇ったって……」

 

 思わずそう言ってしまって、すぐさま不味いと気づいた。慌てて自分の口を塞いだが、もう遅い。航と快斗から視線が突き刺さる。トキアの存在を知らない二人はともかく、なぜか響たちからも驚いた顔を向けられ、夷月は体を縮こまらせた。

 

「双子の上を知ってるのに関してはまあいいとして、なんで庇ったって話になってんだ。トキアの双子の上はあの日、トキアとこっそり会おうと森までいって、トキアを刺し殺した犯人と接触。事故なのか落とされたのかは分からないが、川に落ちて死亡扱いになってたよな?」


 快斗が鋭い目を響に向けた。

 そういう話になっていたのかと夷月は固まった。アキラが川に落ちたという話はトキアから聞いていたが、羽澤内での認識がどうなっていたかまでは知らなかった。双子の上について、羽澤の人間はいない者として扱うので、わざわざ口には出さない。


 だとしても、当時は隔離施設にいたはずの子どもが一人消えたのだ。一体どこにいったと騒ぎにならないはずもない。考えれば分かる話だったのに、羽澤内での認識を確認しなかったのは、夷月もまた双子の上はいない者として扱うことになれきっていたからだ。

 もう双子の呪いなんて関係ない。信じていない世代に生まれたと思っていたのに、長年染みついた常識は夷月の考え以上に根深いものだったらしい。


「……我々に伝えたくない気持ちも分かるが、知らなければいざというとき対策がとれないだろう。今は私と快斗も親だ。お前の気持ちは、独り身だったあの頃より分かるし、力になりたい気持ちもある。私はお前のおかげで羽澤家を背負わなくて良くなった。感謝と謝罪くらい示させてくれ」


 航は困ったように眉を下げ、響を見つめる。まっすぐな言葉に響はいたたまれなさそうに身を小さくする。そんな姿を見て快斗は不愉快そうに鼻を鳴らして、腕を組み、ふんぞりかえった。


「リン様は双子の上と一緒にいるんだろ。だから、リン様の居場所も双子の上が生きている事実も、俺たちに伝えなかった」


 快斗の中で、それはもう確定事項らしい。自信に満ちた発言に夷月は目を丸くし、響をじっと見つめた。響の様子を鎮と慎司もうかがっているが、そこには今後どうするべきかという迷いだけが見え、快斗の考えが事実なのだと察するには十分だった。


「リン様が健在だと分かれば、悪魔信者は居場所を突き止めようとする。そうすると双子の上の居場所も分かる。それをお前は恐れたんだろ」


 航の問いに響は頷いた。慎司と鎮も目を伏せている。快斗はしばらく響の姿をじっと見つめてから、ガシガシと頭をかいた。


「お前が不安になるのも分かる。信者どもはお前も双子も、目の敵にするだろうよ。リン様が去ったのはお前らのせいだってな。だが、真実は違う。羽澤の呪いは解けたって、リン様はお前にいったんだろ?」

「ああ。もう呪われた双子は羽澤家には生まれない。そう言っていた」

「それを悪魔信者たちに伝えるのは、リン様が一番適任だろ。本人に直接言われたら、納得するほかない。タイミングがいいとは言いたくないが、告別式には身内が嫌ってほど来る。外部の人間も来るだろうから、他人の目がある中で下手な真似はしねえだろ」


 快斗の提案にその場にいる全員が目を見開いた。それはあまりにも大胆な作戦だったが、悪魔信者一人一人にアピールするよりは効率がいい。なにより、悪魔を見た者たちの反応を想像するとワクワクした。


「面白くなりそうだね!」


 期待に胸を高鳴らせながら、ウキウキと響の顔を見ると、響はなんともいえない顔をした。鎮と慎司の表情も微妙なものだ。そんな夷月たちの様子を見て、快斗は顔をしかめた。


「響、やっぱコイツ、河原から拾ってきたんじゃないのか?」

 失礼にも指まで差してきた快斗に、夷月は眉をつり上げ、頬を膨らませてみせた。

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