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だから僕らは大人になれない  作者: 黒月水羽
第一章 訳あり幽霊と呪われ少年
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4-4 さすが勝正おじさんだよな

「んで、こんな人気のないとこ集まって、なんの悪巧みしてんの?」


 つまみに手を伸ばし、酒を数杯あおった後で、快斗は唐突にそういった。接待モードに入っていた鎮と慎司が一瞬体を硬直し、すぐさま「何の話ですか?」と取り繕う。鎮はともかく、慎司もすぐに平静を装ったのは意外だった。

 だが、いくら航や響に比べると短絡的だと言われる快斗でも、羽澤本家の人間だ。腹の探り合いには慣れているし、後先を考えないというだけで頭が悪いわけではない。厄介ごとから逃げる嗅覚に関しては、四兄弟の中で一番だと聞いたこともある。

 もっとも、それは褒め言葉ではなく陰口だったが、こうして隠したいことがあるときは厄介だ。航よりも快斗は勘が鋭い。


 響と近況報告をしていた航は快斗の物言いに驚いた様子だった。すぐさまその場にいる人間の真意を探るよう、視線を動かす姿からは慣れを感じる。嫌な慣れだなと夷月は顔をしかめた。


「兄さん、私たちは勝正おじさんと思い出話しをしたかっただけだよ」

「お前ら、仕事でもプライベートでも時間あれば会ってるんだから、こんな辛気くさいところで話す必要ないだろ。ただでさえ雅美の奴がばっくれて、あいつがやらなくちゃいけないことまでお前がやってんだろ。お前らの性格からいって、思い出話しするなら面倒ごとが全部片付いた後だ」


 快斗の推測に響たちは目を丸くした。航も驚いた様子で快斗を見つめている。


「驚いた。快斗おじさんって、ちゃんと父さんに興味あったんだね」

 夷月の言葉に快斗は片眉を釣り上げた。その顔は不機嫌だと物語っている。


「興味はねえけど、勝手に視界に入ってくるんだよ。昔っから末の響様を見習って、もう少し勉強してくださいとか、人に優しくしてくださいとか言われてきたからな」

「すごい正論。快斗おじさん、その忠告してきた人に菓子折もっていった方がいいよ」


 ギロリと睨まれたが、夷月は笑顔で流した。慎司の「夷月くん!」という慌てた声が聞こえる。これ以上煽ると喧嘩に発展しそうだったので、夷月は肩をすくめて快斗から距離をとった。快斗は不快そうに夷月を見ていたが、ふんっと鼻をならして話を続ける。


「お前ら、雅美の居場所を探してるんだろ。今は込み入った話をするには親戚が多すぎる。お堂で当主とその側近が故人を偲んでるって聞いて、乱入してくるアホはそういないからな」


 それは自分がそのアホだと自覚して言っているのか、無自覚なのか。どちらだろうと夷月は考えた。口に出したら快斗にまた睨まれるし、そろそろ頭を小突かれそうなので大人しく黙っておく。


「なんで雅美を探してると……」

「通夜に来なかったって話は聞いた」


 快斗はそういうと、酒を自分でついで飲む。自分で出来るなら最初からそうしろよと思ったが、お酌をさせられていた慎司と鎮は快斗の話に興味があるようだ。真剣な眼差しを快斗に向けていた。


 前当主の息子である四人は、性格が違うために好かれる層も違っていたらしい。長男の航は真面目な性格から同じような気質の者、伝統や格式を重んじる年配者に気に入られていた。

 快斗は言動の軽さや自信あふれる言動から、同世代や若い層に人気があった。ヤンチャしていたこともあり、未だに当時の知り合いと交流が広く、ゴシップ誌が好みそうな話題は響や航よりも情報が早いと聞いている。

 今回の事件はゴシップ好きからすれば面白いネタだ。快斗の元に事前に情報が集まっていても不思議じゃない。


 それに雅美と快斗は同い年だ。子どもの頃は当主の息子と、当主弟の娘と近い立場でもあった。前当主と勝正の関係は良好だったと聞いているし、子ども同士交流もあっただろう。夷月よりも雅美のことをよく知っているのだ。


「勝正おじさんが、雅美の息子を匿ってるっていうのはもう掴んでるんだろ」

 快斗の言葉に航が反応した。探るように響、鎮、慎司の反応をうかがう。


「兄さんに隠したところで無駄だと思うから言うが、我々は雅美さんが豊くんの居場所を見つけるために勝正おじさんを手にかけたと思っている」

 響は快斗の正面に腰を下ろし、その顔を真っ正面から見つめた。快斗は不快そうに眉を寄せたが、すぐに歯を見せて笑う。


「俺もそうだろうと思ってる。だが証拠がないし、肝心の豊がどこにいるか分からなくて困っているわけだ」


 航が堅い顔で快斗の隣に腰を下ろした。快斗はあぐらで、どこの山賊だと思うほどに偉そうな態度だが、航は居心地悪そうに正座している。その姿だけみると快斗の方が長男みたいだ。

 快斗は酒をあおり、口元を豪快に拭うと愉快そうに笑った。


「豊とその嫁な、家にいんだよ」

「は?」


 夷月の口から漏れたのは単語一つ。その反応を見た快斗が愉快そうに笑う。その反応が見たかったと言わんばかりの表情に、夷月はムッとした。


「まってくれ、兄さん。それ、本当か?」

「俺の言葉が信用できないっていうなら、航にも聞け」


 そういうと快斗はつまみのチーズを口に運んだ。

 快斗以外の視線が航に集中する。一気に視線を集めた航はギョッとしたのち、しばし考えるように視線を泳がしてから頷いた。


「ああ、今豊くんたちは家にいる」

「なんでそれを早く!」

「言ったらどっから漏れるか分かんねえだろ。知る人間は少ない方がいい」


 快斗はそう言ってから、もぐもぐと口を動かす。見ていたら美味しそうに見えてきたので、夷月はそろそろと移動して、お重に入っているチーズを手に取った。快斗には「なんだコイツ」という視線を向けられたが流しておく。


「響には伝えておくべきかとも思ったんだが、勝正さんに止められていたんだ。雅美は響にも探りをいれるだろうからと」


 航の申し訳なさそうな顔を見て響は苦笑を浮かべた。

 響は羽澤の当主だけあって交渉ごとには強いが、それは外での話。家の中に入ると気が緩むのか、見る人が見れば分かりやすい。腹の探り合いになれている羽澤の人間の中では、分かりやすい部類だ。


「父さんが何か知ってるって気づいたら、粘着ストーカーになったかもしれないもんね」

 お重に入っていた生ハムを食べながらいうと、響が顔をしかめた。想像したのか鎮と慎司の顔も渋い。


「でも、なんで兄さんのところに……」

「雅美は俺のこと嫌いだからだよ」

 さらっと快斗の口から出た言葉に夷月は目を丸くした。見上げれば快斗は、特に気にした様子はなく酒を呑んでいる。


「快斗おじさん、人に嫌われてるって自覚あったんだね……」

「なあ、そろそろこのガキつまみだしていいか?」

「夷月、いま真面目な話してるからな」


 響に困った顔をされたので、夷月は仕方なしに口をつぐむ。枝豆を無言で食べていると、快斗から降り注いでいた剣呑な視線がそれた。

 つまみ出すのはとりあえずやめてくれたらしいが、次余計な口をきいたら首根っこ捕まれて放り出されそうだ。


「雅美の奴は深里が好きだったし、深里が信仰しているリン様も崇拝していた。深里のこともリン様のことも胡散臭い、薄気味悪いって言ってた俺とは全く合わなかった」

「そういえば、よく喧嘩してましたね」


 古い記憶を思い出した様子で響が呟いた。

 夷月も記憶を探るが、言われてみれば快斗と雅美が一緒にいる所を見たことがない。響や航に挨拶している姿は見た覚えがあるのにだ。


 夷月も何度か遊びにいったことがあるが、航たちが経営している農場は広い。住み込みで働いている従業員もいて、手広くやっている。若い夫婦を二人匿うには十分だ。

 羽澤の土地からも遠く、いざとなれば現当主である響の力を借りられる立場。なにより、嫌いな人間の元にいるという可能性は除外しがちだ。気づいても心理的に近づきにくい。


「勝正おじさん、考えたな」

「さすが勝正おじさんだよな」


 夷月の呟きに快斗が機嫌良く同意した。意外に思って横顔を見ると、上機嫌に酒を飲んでいる。快斗も勝正の事が好きだったのだなと、全くないと思っていた共通点を見つけて複雑な気持ちになった。


「兄さんたちは、勝正さんが豊夫妻を隠した理由を知っているのか?」


 響の問いに快斗は酒を飲む手を止めた。珍しく迷うように眉を寄せ、隣に座る航へ視線を向ける。航もまた難しい顔をして何かを考えており、しばしお堂の中に沈黙が満ちた。


「……いずれ分かるっていうか、お前には報告しなきゃいけねえことだしな」


 やがて、頭をかきながら快斗はそういった。いかにも億劫で気が乗らないという態度をとりつつ、おちょこを床に置く。

 不機嫌な顔や軽薄な笑みを消し去り、真面目な顔をした快斗は響とよく似ていた。本当に兄弟なのだなと驚くほどに。そんな顔も出来るのかと夷月が戸惑っている間に、快斗は口を開く。


「豊の子どもは一卵性の双子だ」

 その一言に空気が凍った。

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