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だから僕らは大人になれない  作者: 黒月水羽
第一話 恋と呪いはよく似てる
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1-3 つまり俺は呪われてるわけ?

「まじないっていう字を漢字で書くと呪いになるでしょ。つまり可愛い言葉で誤魔化しているだけで、恋のおまじないだって立派な呪術なわけ」


 にっこにこと無邪気な笑顔を浮かべて幽霊はそういった。人気のない屋上の給水タンク横には太陽が降り注ぎ、整った幽霊の顔をさらに輝かせている。顔だけみたら百点満点だろうが、言っている内容は全く可愛くない。


「つまり俺は呪われてるわけ?」

「バッチリ呪われてるね。君が羽澤家の人間じゃなかったら危なかったよ。良かったね、呪い耐性が強い家系に生まれて」


 幽霊はとても楽しそうに笑っている。こんなに楽しそうな幽霊は初めて見た。だからこそこの状況でかと文句を言いたくなる。しかも呪い耐性が強い家系ってなんだ。初耳だ。

 夷月の疑問を視線で感じ取ったのか、幽霊は言葉を続ける。


「羽澤家の呪いは血に染み込んでる。だから世代を増すごとに血も呪いも強くなった。最初から呪われた状態で生まれてきた君たちは呪われているのがデフォルト状態だから、何世代も重ねた君なんかは他の人なら即死級の呪いを食らっても無傷なわけ」

「全く嬉しくない!!」


 どうせ装備するならもっと良いものがいい。何が悲しくて呪われ状態がデフォルトなのか。


「呪われることなんて滅多にないんだから、呪い耐性が強くてもなにも良い事ない」

「たしかに、最近じゃ呪われることなんて滅多にないよね。とりあえず呪っとけみたいな時代もあったんだけど」


 けろりと幽霊が恐ろしいことをいう。そんな時代夷月は知らない。少なくともここ数十年の話ではないだろう。この幽霊、実はすごい長寿幽霊なのだろうか。長寿幽霊ってなんだと自分の思考に突っ込みを入れつつ、夷月は幽霊をじっと見つめた。


「つかぬ事お聞きしますが、幽霊さんは何年前に亡くなられたんですか」

「なんで急に改まったの」


 戦国時代とか言われたらどうしようかと、内心ビビりながら聞けば幽霊に呆れた顔をされた。


「僕のこの見た目みたら分かるでしょ。死んだのはつい最近だよ、十八年前」

「最近じゃないでしょ。かなり前でしょ」

「え? そう?」


 夷月の突っ込みに、幽霊は本気で驚いた顔をして目を瞬かせた。それから「ん~、そっかあ。若者からすれば昔になるのか。ジェネレーションギャップ」と呟いている。見た目からいったら幽霊の方が若者。というか子供だが、十八年前に死んだのなら生きていれば二十六歳。立派な大人だ。あまりにも外見と年齢が一致しなくて混乱してくる。


「僕のことはいいでしょ。問題は君が呪われてるってこと。呪ったところで効果はないとはいえ、自分を呪うような人間が近くにいるって気分悪いでしょ」


 それはそうだと思いながら、夷月は教室から持ってきた封筒を見つめる。目の前の幽霊が言わなければ普通の封筒。というかラブレターだと思ったかもしれない。ラブレターにしては表に書いてある「おまじない」の文字が異質だが。


「でもこれって恋のおまじないなんだろ? それなら害なんてないんじゃないの?」


 恋のおまじないであれば目的は、好きな相手と両思いになることだ。恋した相手を殺したいなんて、特殊性癖の人間はそういないだろう。

 封筒を開けて中身を取り出すと、便せんに赤いペンで文字が書かれている。内容を見ると普通の恋文だ。前々からお慕いしておりましたという一文から始まった文書は、読んでいるとムズムズしてくる。付き合うかと言われたら付き合わないが、好意を寄せられて悪い気はしない。


「ほら、普通にラブレター。俺、ラブレター貰ったの小学生以来だからちょっとテンションあがるな。最近は呼び出しが多かったし」

「さらっと俺モテる発言したね」

「そりゃモテるでしょ。俺だよ?」

「うわぁ、自信満々過ぎて引く」


 幽霊は言葉だけでなく、顔と態度でもドン引きだと表現した。ちょっと傷つく。唇を尖らせながら、夷月は幽霊を睨みつけた。


「そういうけど、お前だって俺と似た系統の顔だろ。モテただろ」

「美しさと知性を兼ね揃えた僕までいくと、モテるという次元じゃないんだよ。恐れ多くて誰も近づいてこない」

「うわ、自意識過剰。引く」

「祟るぞ」


 数秒睨み合ってから、不毛だとお互いに目をそらす。このやり取りだけで同類だと理解した。つまり、これ以上言い合ったところで無意味。


「恋のおまじないなんて昔からあるし、願掛けみたいなもので効果なんてないでしょ?」


 ヒラヒラと桃色の封筒をふってみる。どこからどう見ても普通の手紙。おどろおどろしい文字が書いてあるわけでもなく、髪やら爪が入っているわけでもない。


「呪いっていうのは工程よりも、どれだけの思いを込められるのかが大事なの。面倒くさい、おどろおどろしい工程を挟むのは思いを強めるため。これだけやったんだから効果があるに違いないって、術者が思うため」

「つまり?」

「このおまじないは複雑な工程なんか必要ないくらい、強い思いが込められてる。君に呪い耐性がなかったら、効果あったんじゃないかな」


 幽霊の言葉を聞いた瞬間、持っていた手紙が重たくなったような気がした。女子らしい丸みをおびた字で書かれた可愛らしい恋文が、得体のしれないものに思えてくる。


「……効果って具体的には?」

「君が手紙の主に興味を持つとかかな。場合によっては好きになってたかもね」


 ニヤニヤと楽しそうに幽霊は笑う。全く楽しい場面ではない。意味のわからんおまじないのせいで、顔も知らない相手を好きになっていたかもしれないなんて、考えただけでもゾッとする。


「誰だよ。こんなの俺の机に貼り付けたやつ」


 ラブレターだったら名前が書いてあっただろうが、これはおまじない。名前は書かないという決まりがあるのか、犯人がバレたときのことを考えてあえて書かなかったのかは分からない。


「君に好意をもってそうな子に心当たりないの?」

「いっぱいいすぎて分かんない」

「全国のモテない男子中学生に殴られそうなセリフ」


 幽霊は呆れた顔で夷月を見た。夷月はラブレター改め呪いの手紙を眺めながら答える。


「俺が好きっていうより、みんな羽澤の金と権力が好きなんだよ」


 純粋に夷月を好いてくれている子もいると思う。というかいないと流石に悲しいのでいてほしいが、夷月個人よりも羽澤家に興味のある人間の方が多いのは間違いない。親しく慣れたらラッキーという下心で夷月に近づいてくる人間は、男女問わず多いのだ。女子だけに絞ってもそれなりの人数が候補にあがる。


「強い思いって恋愛感情とは限らないわけでしょ? 羽澤家への執着の強さなら当てはまりそうな子、いっぱいいるし」

「……君、苦労してんねえ……」


 幽霊が心底同情した顔で夷月を見つめた。塩っぱいものでも食べたような微妙な顔は、子供らしくなくて笑ってしまう。


「俺、羽澤家の次期当主だからね」


 望んだわけではないがそういう立場に生まれてしまったのだから仕方がない。他になりたいものも思いつかないし、自分が当主にならないと、跡取り問題で揉めるのは想像ができる。夷月があとを継ぐのが今のところ一番後腐れない。

 そう考えたところでふと思う。では自分以外に適任が現れたら譲るのだろうかと。少し考えてすぐに譲るだろうなと思った。与えられたから受け取っているだけで、欲しいわけではない。執着するほど興味もない。


 可愛らしい見た目に反して、重々しい感情が乗っているらしい封筒を見つめる。人の感情を変えてしまうほど強い思い。自分には縁遠いそれを持つ人間に、少し興味が湧いた。


「見つけて話聞いてみたくなった」


 両手で掲げて太陽にかざす。先程までは気味悪く思えたそれが、今は遊園地のチケットみたいに輝いて見える。


「君、かなり歪んでるね……」


 呆れた幽霊の言葉は見事に耳を素通りした。

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