No.6 戦闘
終末世界でロボットは、少女を守る。
ギリ……ギリ……
金属が擦れるような音とともに、犬型ロボットたちが低く唸る。
その不気味な青い目が、じっと少女を見据えていた。
ただの機械ではない。
まるで、「獲物」を見つけた捕食者のように。
少女は直感した。狙われているのは、自分だ。
「……マイルズ……」
震える声でそう言うと、少女はマイルズの背に隠れるように身を寄せる。
マイルズは応答しないが、背中を広げるように姿勢を変えた。
次の瞬間——
「ギャアッ!!」
二体の犬型ロボットが、一斉に飛びかかってきた。
鋭い爪を広げ、一直線に、少女を目掛けて。
少女は、恐怖に凍りつき、悲鳴をあげた。
バシュッ!!!
その瞬間、マイルズの右腕が閃いた。
パルスランチャーの先端が青白く光り、電磁波が一気に凝縮される。
「——攻撃開始」
ズガァッ!!!
空気を裂くような閃光が、飛びかかる一体目の犬型ロボットの顔面に一直線に走った。
電磁波の尾が空間に光の線を残す。
それはまるで、刃の太刀筋のようだった。
ビシィィィン!
次の瞬間、犬型ロボットの頭部を貫通した電磁波は、まるでそこに障害物などなかったかのように、一直線に突き抜けた。
ガチャンッ……!
犬型ロボットはそのまま前のめりに崩れ落ちる。
黒い煙が立ち上り、動かなくなった。
だが、もう一体は——
キキキッ……!
一歩引き、反応を変えると、民家の崩れた塀を駆け上がる。
そして屋根の上に移動し、少女を上から狙う。
「マイルズ!上……っ!」
少女が叫ぶ。
次の瞬間、マイルズは左腕を高速で変形させた。
腕のフレームが分離し、回転する軸が内側から現れる。
その先端は、鋭く輝く斧へと変わっていた。
屋根から、獣のように少女をめがけて飛び降りてきた犬型ロボット。
だが、マイルズの斧が空を切る。
その刃は軌道に正確に沿い、狙いを外さない。
ゴオッッ!!!
斧は、犬型ロボットの胴体を中央から真っ二つに断ち割った。
ガシャン!!という音とともに、ロボットは火花を散らして地面に転がり、完全に沈黙した。
静寂が戻る。
少女は、震えながらマイルズの手をぎゅっと握る。
「……こわかった……」
マイルズは、斧を再び元の腕の形に戻すと、機械音で淡々と告げた。
「危険を察知、排除しました。回避完了」
少女は数秒息を整えたあと、ようやく微笑んで言った。
「……ありがとう、マイルズ」
マイルズは、その言葉に返事をしなかった。
だが、少女はその沈黙の中に、「ちゃんと聞いている」ことを感じ取っていた。
そしてまた、彼女たちは歩き出した。
目的地——二つ目のポータルへ向けて。
⸻
二人は再び歩き出していた。
瓦礫の道を抜け、かすかな風が草と苔を揺らす。少女はまだ、少し顔がこわばっていた。
「……ねえ、さっきの、なに?」
ふいに、少女が口を開いた。
マイルズは前を向いたまま、淡々と答える。
「犬型ロボット、型番HC-47。元々は高齢者向けの生活補助ロボットです。介護施設や在宅支援の現場で活躍していました」
少女は少し驚いた顔をした。
「え……介護って、お年寄りの?」
「歩行補助、転倒検知、感情安定支援、セラピーなどを目的として設計されています」
「……あんなにこわいのに?」
「制作過程における最終段階にて、AIのコア処理が一部変更された記録があります。破壊指向行動への適応が確認されました」
「わかんないけど……つまり、つくられたときは優しかったのに、あとから変えられちゃったってこと?」
少女は俯き、少しだけ歩く速度を緩めた。
しばらく考え込んだように沈黙したあと、小さく笑った。
「でも、ちょっと……かわいそうね」
マイルズは無言だった。
「だって、お年寄りを助けるために生まれたのに、気づいたら人を襲うようになっちゃってて……」
少女は、ふとマイルズの顔を見る。
「……あなたは、大丈夫だよね?」
マイルズはわずかに停止した。
機械的な処理音が、一瞬、間を埋める。
マイルズは何も言わなかった。
しかし、少女はその反応に安心したかのように、ほっとしたように頷いた。
そして、小さく呟いた。
「……マイルズは、変わらないでね」
その言葉に、マイルズはなにも言わなかった。
ただ、彼の歩く速度が、少女の一歩にぴったりと合っていた。
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